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小説

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廃墟

廃墟

廃れた街の中心にそびえたつビル。

街のすべてを吸い込み吐き出して息をしていた面影はもうなく,その栄光は錆びた茶色い涙を流す看板だけが知る。

やがて刃が向けられた。

いとも簡単にその服は剥がされた。

ガラガラと音を立てて崩れていく。時折,鉄と鉄がこすれあって悲鳴を上げる。最後の抵抗も空しく,非情なほどに淡々と作業は進められていく。

ずたずたにされむき出しになった鉄の骨はこの時を待っていたか

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銀行

銀行

「こんにちは。時間銀行です。今回はどのようなご用件でしょうか?当行では,時間の預け入れ,引き出し,融資など幅広い商品を取り扱っております。時間の引き出しの件についてですね。現在あなたの口座には7年と7か月13日5時間42分の預け入れがあります。分数は利息になります。引き出しの限度時間は一度につき3年までとなっております。今回は3年分のお引き出しですね。承知しました。では手続きをしてまいりますので少

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テレビ

テレビ

PM23:00
残業で疲れた体を引きづりながらやっとの思いで帰宅する。玄関の扉を開けると、暗闇が待っていた。部屋に入り電気をつける。チカチカ不規則に光りながら蛍光灯は無機質についた。なんとも言えない静けさが心の隙間に染み込まないようにリモコンに手を伸ばす。
電波を受信したテレビでは、白いスーツを着た女性が暗い口調で原稿を読み上げている。隣に座る男性は、深刻そうな面持ちで静かに彼女の横で時折相槌を挟

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冬

しんと静まり返った真夜中の部屋でピンポーンと妙に高いインターホンの音が鳴る。こんな時間に宅配?何かたのんだ覚えはないが、重たい腰を上げて玄関まで行くと、雪だるまの冬が玄関の外に立っていた。

飛行機雲

負けた。

それを認めてからはあとは楽だった。自分が人生の成功者でもなく世界を革命的に変えられる力がないことも,あの子を幸せにできるような力もないことを認めることも,すでに分かり切っていたことなんだ。ふと見上げた空に一筋の白い線が引かれていた。それは,真っ青なキャンバスを2つの世界に分断する線でどこまでも続いていく。自分の中の小さなプライドが邪魔をして認められなかった世界を分かつ境界線は今は重たく

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チョコレート

チョコレート

届くはずもない贈り物。それでも届けたくて,慣れない手つきで作る。レシピ通りに慎重に正確に分量を量るけど,小さなことで重たくなったり軽くなるこの気持ちは正確になんて量り切れない。

成功しますようにと願いを込めてオーブンへ。

焼きあがるまでの時間が一番もどかしい。ピピピッと音がして,オーブンのほうへ駆けつける。中は暗くて何も見えない。息を止めてそっとふたを開けた。

自動販売機

大きな公園の片隅に自動販売機がある。そこで売られているのは、お茶やコーヒーでも一服するためのタバコでもない。本が売られている。週に1回業者がやってきて補充作業をしているから、いついっても新しいものが入ってる。

その自動販売機には、「あったかい」「冷たい」「苦い」「甘酸っぱい」の4種類があった。前を通りかかった初老の男が立ち止まり、自販機にコインを入れる。そして、「甘酸っぱい」のボタンを押した

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初雪

初雪

雪が降った。

私が住んでる地域は普段雪が降らなくて,小学生の頃は雪が積もれば大喜びして外へ出て兄弟と雪だるまを作って遊んだ。窓の外を見ると大喜びではしゃぐ小学生が見えた。人生はこうやって繰り返すものなのかしらんと石油ストーブがぼうぼうと音を立てている傍らでコーヒーを片手にぼんやりと老けた考えに思いを巡らしてみる。こんな日は家でゆっくりするのが一番だ。本棚に積みあがっている読みかけの本に手を伸ばし

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工場

工場

AM6:00:起床

AM6:04:「おはよう」のメッセージが届く

AM6:07:カーテンを開ける

AM6:10:顔を洗う

AM6:13:歯を磨く

AM6:15:化粧

AM6:20:着替え

AM6:23:服装が決まらない

AM6:25:妥協していつものスーツを選択

AM6:29:パンを食べエネルギー注入

AM6:43:抜け殻をかき集める

AM6:47:洗濯機予約

AM6:49

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ピアノ

ピアノ

私はピアノが嫌いだ。

正確に言うと,ピアノが弾けない自分が嫌いだ。幼稚園の頃からピアノ教室へ通っていた。4人グループの中で私は一番出来の悪い生徒だった。感覚でピアノを弾いていた私は,レッスン中に先生が指摘するリズムの間違いをどうしても理解することができなかった。頑張るけれどいつまでたっても治らない。家で練習しようとしても,年上の姉が馬鹿にするような目で私を見てきてどうにも練習がはかどらない。そう

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観覧車

観覧車

すたれた遊園地の中で観覧車は回る。古びたゴ赤いンドラの1つに人影が2つ。

向かい合って座る2人の間に差し込む夕日は静かに沈んでいく。やがて頂上に達したとき2つの影は1つになった。

風船

風船

風船が飛んでいくのが見えた。どこかで結婚式か盛大なお祭りがあったのかなと思いながら,自分には関係ないことだと公園のベンチに座り物思いにふけっていた。

ぼんやりと座っていると,嬉しそうにスキップをしながら赤い風船を持った女の子がお父さんに手を引かれて歩いてる親子が目の前を通り過ぎた。次の瞬間,女の子は転んで手を放してしまい少女の風船が空へと昇っていく。小さな手から離れた風船は,自由を得た鳥のように

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迷路

迷路

ゴールでまってるからと言われて1週間。僕はまだ出口を見つけられていない。軽い気持ちで挑戦してみたことが間違いだった。あの時グーを出して負け,いやいややることになったけど所詮迷路だろうとたかをくくっていた。

あいつらは,いまでも待っていてくれるのだろうか。下手したら,警察のお世話になっているのかもしれない。そう考えると,申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。

不確かなまま,ただ目の

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透明人間

どうやら僕は,透明になってしまったらしい。

朝起きて顔を洗おうと洗面台の前に立ったときのことだ。いつもは映るはずの寝ぐせや目やにのついた目や起きたばかりなのに疲れている顔が見えない。これは困った。家を出る時間まであと5分しかない。とりあえず寝癖を直して顔を洗って髭をそり歯を磨く。寝坊してしまったから,朝ご飯は無し。そして,着古したスーツに着替えネクタイを締めて家を出た。