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たった一杯のお味噌汁

 ホテルの朝食のお味噌汁で泣きそうになった話。

 実家にいるときは毎日のように朝ごはんには味噌汁と炊き立てのお米が並んでいる。それが当たり前の日常で大好きだった。一人暮らしを始めてからは、朝ごはんは簡単に済ませるようになった。理想を言えば実家に居たときのように味噌汁とお米は欠かしたくはない。でも睡眠と弁当を作る時間を確保するためには、食パン一枚で済ますしかなかった。

 いつの間にか朝ごはんは食パン一枚が定着した頃、出張でホテルに泊まることになった。そこでの朝食に味噌汁が出た。出汁と味噌の香りがあのときの朝ごはんを思い出させる。気がつくと目から涙がこぼれそうになっていた。食事でここまで感情が揺さぶられたのは初めての経験。しかもビジネスホテルの味噌汁だからおそらくインスタントだと思う。それなのに。

 初めての一人暮らし。理想とはほど遠い生活。慣れない出張。上手くいかない人間関係。いろんなことが重なり合って心が苦しいとき。たった一杯の味噌汁が私を包み込んでくれる気がした。そして味噌汁は私の心を安定させてくれる大切なものだということに気付かされた。



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