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規格外の食材と太陽光が生んだサステナブル・フードブランドを訪ねて
ポルトガル領マデイラ諸島の名産品のひとつといえば、「マデイラバナナ」だ。フンシャル市内を歩いていると家庭の庭でバナナが実っているのをよく見かける。車で郊外に向かって10分も走れば、バナナ畑が左右に現れ始め、マデイラを象徴する果物であることは間違いない。
そんな中、いわゆるサイズや形が規格外のバナナは店頭に並ぶことなく残念ながら破棄扱いとなってしまう。そんな規格外バナナを廃棄処分から救い、さらには日照時間が長いマデイラならではの太陽光を活用して、サステナブルで無添加の高品質フリーズドライ・バナナを生み出したのが、ドイツ出身のクラウスさんだ。
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今回、フンシャル市内でアイコニック的存在のマーケットMercado dos Lavradores(メルカド・ドス・ラブラドレス)に、月に一度出店しているクラウスさんを訪れた。
Island Pearls(アイランド・パールズ)は、フードパッケージ業界で営業とマーケティングをしていたクラウスさんと、グラフィックデザイナーの奥さんによる「フリーズドライ」プロジェクト。クラウスさん夫妻は、休暇で訪れたマデイラ諸島に恋し、移住に至った。元々、「食」が大好きなクラウスさんは、自らさまざまな調理法や食材を試すうちに、ある時フリーズドライに着目しするようになり、フリーズドライ装置を購入して本格的に実験を重ね、現在ではマデイラ諸島産の高品質のフルーツと野菜を使用したフリーズドライ製品シリーズを展開している。
クラウスさんの第一印象は礼儀正しく、とてもフレンドリー。通りがかる人たちに次々と声をかけ、子供から老人まで皆に試食をうながす姿は、プロのセールスマンの見本そのものでありながら、何よりもクラウスさんの情熱と優しさを感じさせられる。
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まず、フリーズドライバナナを試食させてもらう。一口食べて、思わず「美味しい!」と言葉があふれた。フリーズドライならではの軽くふんわりとした食感の中に、マデイラバナナの優しい甘みが見事に凝縮されている。
じっくりと時間をかけて、やさしくフリーズドライされた果物や野菜は、素材が本来持つビタミンやミネラルをほぼ全て保持したまま、長期間の保存が可能という優れものだ。クラウスさんは保存料や食用色素、添加物を一切使用していない。バナナの場合、フリーズドライされることで水分が80%失われ、それによって保存料の使用が不要であるということだ。
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さらにはクラウスさんがフリーズドライのプロセスで使用する電力の50%は太陽光発電と、こだわりは尽きない。材料、製法ともに自然に寄り添い、限りなくシンプルだ。さらに、すべての商品がヴィーガン対応している。
「フリーズドライできるのは果物や野菜だけではありません。肉や食事の残り物だってフリーズドライすることが可能なのです」と語るクラウスさん。「アメリカでは家庭でもフリーズドライが比較的広まりつつありますが、ヨーロッパはまだまだこれから」であるとのことだ。
Island Pearlsでは、バナナ以外にもビーツ、ニンジン、パイナップル、パプリカ、グリーンピース、芽キャベツのフリーズドライ製品を生産販売している。今回、バナナに続いてグリーンピースを試食させてもらう。やさしい甘みが前面に押し出されていて美味しい。「おつまみとして、ピーナッツの代わりにも良いですよ。グリーンピースはタンパク質が豊富で、ピーナッツよりもカロリーが格段と低いのです。そしてパプリカは、フリーズドライすることで甘みがぐっと増すんです。芽キャベツは、フムスと相性抜群で、前菜にぴったりですよ。」
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パッケージのデザインやブランドのロゴを手がけたのは、クラウスさんの奥さんであるレベッカさんだ。思わずパッケージを手にとりたくなるスタイリッシュなデザインだが、今のところオンラインショップは構えておらず、あえてマデイラ諸島でのみ手に入る商品として展開している。
「このプロジェクトで稼ぎたいとは思っていません。Island Pearlsはハートから生まれたプロジェクトであり、家族規模のビジネスにとどめたいのです」とクラウスさんは語る。
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マデイラの食材がクラウスさんによって、ひとつひとつ大切にやさしくフリーズドライされ、クラウスさんを通じて実際にマーケットを訪れた人の手に渡っていく。素材へのリスペクト、そして人と人との顔をあわせたつながりに重点を置くその仕事の姿勢には、確実に愛がある。
Island PearlsのInstagramはこちら。