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本レビュー:『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』

正式なタイトルは『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む  走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』になるのかな。

ふふふー、買ったよ、買っちゃいましたよ。
しかも会社のカネで買いました(※福利厚生の一端で、年1冊だけ会社に申請して買ってもらえる制度がある。金額の上限もあるし漫画や絵本はダメとか決まりもあるけど、これは通るはず)。会社のカネで読むかまみく(かまどさん+みくのしんさんコンビ)は最高だぜ!まぁその制度がなくても、全然自費で買うつもりだったけど!!!イェーーイ!!!!!

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元々は2022年10月、オモコロで挙げられたこの記事が全ての始まり。ちなみに今回書籍化する上で、『走れメロス』のところはこの記事の焼き直しになっている。本の試し読みがしたいと思ってる人はもうこれをそのまま読め。その上で本も買え。最高の読書体験ができるぞ。


『みくのしん』さんはオモコロのWEBライター。WEBライターなのに、文字が苦手。本への苦手意識がこれでもかと強い。そんなみくのしんさんの横で淡々とサポートかつツッコミを入れる『かまど』さん、この2人の読書の様子をまとめた本というわけだ。
余談だけど、みくのしんさんは本名で『みくのしん』。高杉 未来之進っていうお名前らしいのを、今回読んで知って「へーー珍し!」ってびっくりしてたら、オモコロファンの友達に「オモカスには周知の事実だったからその反応が珍しく感じた」って返された。オモカスて。

へーーー。
今その会話の流れで、AIのべりすとシリーズの動画を見てるところです。くっっだらないのに涙出るくらい笑っちゃうのなんでだろう、悔しい。ちなみにかまみくは全く出てきません。

話が脱線した。
でも誰かに「これ買った!」とか「これ面白かった!」とか共有すると、そこから話が派生して広がってくのは楽しいよね。
あと、この本を読んでる間にも何回か「みくのしん、は本名です!!!!!」っていうアピールが出てきたので、こりゃファンの間で周知すぎる事実だろうなって納得した。ご本人がこのお名前を気に入りすぎてるのが伝わってくるし、なんかもう『みくのしん』っていう名前はこの人の為だけに考えられた名前だなぁっていう納得感もある。他の人にそうつけられないよ、でもみくのしんさんにはぴったりしっくりくるんだよ。しみじみと良い名前だなって思う。

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脱線に脱線を重ねてしまったので、いい加減本の話に戻る。
まず、最初にメロスを選んだかまどさんのチョイスが良いよね。教科書にも出てくるからある程度みんな知ってて、現代においても読みやすくて(みくのしんさんはこの後中島敦の『山月記』を呼んで挫折したらしいんだけど、いやわかる、あれ1ページ目からまず難しいんだよ。私も青空文庫アプリでスマホに入れてるんだけど、だいぶ読みづらくて最初はかなり飛ばし気味に読んだのを覚えている。みくのしんさんはこの『飛ばしながら』が出来ない人なので、多分相当辛かったのではと思う)、ストーリーの長さも程よい感じ。
今回、この本がとても良かったから両親にも布教してきたのだけれど、母から昔朗読ボランティアで何度も読んだのがメロスだったと教えてもらった。言葉がシンプルで一文も短いから、初心者が使う日本文学の朗読教材に丁度いいんだって。なるほどなぁ。

みくのしんさんの読み方は、すごく視覚的で、とても感覚的で、とんでもなく丁寧だ。ご本人は本を読むのが苦手だとおっしゃってるけど(そんな人の本が、私が買った本屋さんでは『文芸/読書論』のコーナーに割り振られて配置されてるのは、納得だけどなんだか不思議な気持ちだ)、いやとんでもない、多分あらゆる作家がみくのしんさんに自分の本を読んでほしいと思ってるはずだ。私が作家なら、もうお金なんかいらないから献本させてくれとすら思ってしまう。紡いだ言葉のひとつひとつを丁寧に素直に受け止めて、わかりにくければ理解しようと(絵に描いたりティッシュを使ってみたりしながら)向き合い、五感全てを使って本の世界にダイブなさっている。小説っていうのは己が文字だけで作り上げた世界そのものだけれど、それをこんなにも隅から隅まで楽しんでもらえたら、どんなにか作家冥利に尽きることか。
みくのしんさんは読書中、時にカメラワークや演出までイメージしていらっしゃる。多分この人は映画監督とかドラマ作家とか、そういう職業に向いてるんだろうなぁ。私は趣味で漫画を描くからその読み方もなんとなくはわかるけど、流石に読みながら「そういえばさっき寒かったもんね」とか「いい香りがする!」とか思ったことはない。試しにと思い、本を全て読み終えてから青空文庫で『一房の葡萄』をダウンロードしてみたのだけれど、あまりにもサラサラッと読めてしまってびっくりした。みくのしんさんのように1行1行丁寧に、1つずつにイメージを膨らませながら読むことはできない。例えるなら、スマホを見ながら食べ慣れたレトルト食品を飲み込んでる人と、1口30回ずつ噛んで「うめぇーーーっ!」って言ってる人の差がある。どっちが羨ましいかなんて、聞くまでもない。
才能。もうね、才能ですよこれは。

勿論その読み方は学校の授業向きではないだろうから、学生時代はきっと苦労なさったのだろうなと思う。ごはんはよく噛めと言われるのに、給食の時間内にご飯を食べきれないと怒られるのだ。読書もご飯も、そういうものなのだ。
だから、かまどさんの存在が、また良い。
みくのしんさんの丁寧な咀嚼を、何時間でも待ちながら、横でどんな味がするか丁寧に聞いて受け止めてくれる人。かつ、あまりに遊びすぎてると「いいから早く食え(笑)」と優しく軌道修正してくれるような、そういう存在だ。みくのしんさんと一緒に読書体験したいって思う人も多分たくさんいるけど、かまどさんに横についててほしいと思ってる人も同じくらいいる気がする。んん、良いコンビだ……。

『一房の葡萄』も『杜子春』も、それからオモコロ記事の方で出されている『トロッコ』や『オツベルと象』も、有名だけど大人になってから改めて読もうとはしない人が多いんじゃなかろうか。学生時代までに読まずにいると、もうそのままっていうか。
久々に読んで懐かしいと思った人も多いだろうし、今ここで初めて楽しんだ人も多いだろうな。ここで読めて良かったなーっていうものばかりが選ばれている。つくづく良いチョイスだ。

上記の記事は以前読んだけど、今回を機にまた読んだ。何回読んでもいいな!

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それから雨穴さんについても触れておかねばなるまい。『変な家』の作者で、今回の為に書き下ろしを寄稿してくださっている。
私は『変な家』は未読なのだけれど、今回の書き下ろしを読んで……の前に、対談記事を読んで、個人的に雨穴さんの好感度がめちゃめちゃ上がってしまったので今度ちゃんと買おうかなとソワソワしているところです。なんだこのお茶目な人は。そんでみくのしんさんへの愛がでかすぎる。愛おしい。可愛い。


そんなみくのしんさんへのビッグ・ラブから書き上げたであろう短編なので、本を買った人はちゃんとメロスから順番に読んだ方がいい。きっと世の中には「みくのしんとやらは知らんけど、雨穴さんの書き下ろし?読も!」っていう気持ちで本を買ってる人もいると思うんだけど。その中には、書き下ろしだけを読もうとする人もいると思うんだけど。いや待ってくれ、それはもったいない。雨穴さんはちゃんと『メロスを読んで、一房の葡萄を読んで、杜子春を読んだみくのしんさんが読むはず』まで考えて構成されてるんだろうなってしみじみ伝わってくるので、是非ここは最初から。
ストーリーには敢えて触れませんが、読みやすく、短いながらちゃんと仕掛けもあって、とても良い短編でした。読後感も爽やかで良い。


最後に全然本編と関係ない余談なんだけど、奥付けの日にちが『2024年8月15日発売』で「ん?」ってなった。あれ、8月3日発売じゃなかったっけ。そもそも、このnoteを書いてるのが8日だぞ。
(みくのしんさんに「そんなとこまで読んでんの?!」ってびびられそう。読むよ♡)

なんでだろって友達に聞いたら、「発売日を素直にそこに書いておくと、本屋ですぐ新刊から落とされちゃうので二週間~1ヶ月先の日付にしてるとか聞いたことあるな」という返答が来た。ほーーー?そんな小技が???
まぁ友達もほんとかはわからんって言ってたけど、世の中色んなテクニックが仕込まれてるもんだなぁと思う(ほんとはこうなんだよ、を知ってる人がいたら教えてくださいな)。

「良い本だったなー!」って言いたかっただけなのに、気が付けば3500文字になってしまった。0.8トロッコくらいの文字数になっちゃったな。
いやでも本当に良い本でした、既に重版5万部とのことで、めでたいばかり。皆様も機会があれば是非に。


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