娘は今日も小さな飛行機になる
生後4ヶ月の娘は、日々うつぶせ練習に励むのがブームだ。
うつぶせ練習といっても、普通のうつぶせはもうマスターしている。ただし、右側だけ。
左側にはあまり興味がないらしく、ひたすらにもうマスター済の右側寝返りの精度を高めんとコロコロしている。いや先生、どうせなら逆側も。あるいは寝返りがえりも練習した方が。それ以上高めるものなんてないじゃないですか。
──と思ってたのだが、ふと気がつけば、娘の寝返り姿勢は『腕を真っ直ぐピンと張る』ところに進化していた。あれ、先生今まで、スフィンクスみたいに肘曲げてましたよね。それが今や、上体逸らしでもしそうな出で立ち。
あぁ、これが娘先生の目指した『今の寝返りの先にある姿』なんですね……すみません勝手に寝返り完成してるとか言って。
そんな寝返り学に疎い未熟者はひたすらに見守ることしか出来ないのだが、どうやら娘先生はくるっとうつぶせになった後、今度は前に進もうとしているらしい。……多分。
うつぶせ姿勢のままじっと動かず姿勢キープの時も多いので、まぁなんか、多分ってくらいだけど。言うほどものすごく進みたい訳ではなさそう。
前に進む意欲が出た時の娘先生は、おしりをぷりぷりと振りながら、キック力だけで前に進もうとしている。『ウサギ跳び@土下座版』とでも言えば通じるだろうか。頭をシーツに埋め込みながら、上半身は特に使わず、下半身だけでどすんばたんと跳ねているのだ。それじゃあ前に進まないよ、と思いながら軽くスマホなど弄って、ふと顔を上げるとじんわりと前に進んでいた。これは……おそらく、ベッドの上で跳ねることで、じわじわと自身の位置をずらしていった、というやつだと思う。
うぅんなんだろうな、動画で撮るにも時間がかかりそうな移動方式だし、「前に進みました!」と声を大にして言えるほどきちんとしたものでもないし、でも結果から見ると一応前には進んでるし、なんだろう、これは『何が出来た』と言えばいい段階なんだ???
なんだか釈然としないところはあるけれど、それじゃあ前に進まないよと鼻で笑った過去の自分はとりあえず平手打ちしておきます。お前のような浅学で、娘先生の工夫や意図を理解もしていないくせに勝手なことを語るんじゃないよ。はい、すみませんでした。
とりあえずそのおしりぷりぷりはめっちゃキュートなのでもっとやってください。後、足腰強いっすね娘先生……最近ママの上に座るより立つ(※共にママの補助あり)方がお好みだなとは思い始めてましたけど……。
そんなぷりぷり移動も素敵だけれど、娘は手足を空中に投げ出し、腹だけで自らを支えるポーズもよく取る。
噂に聞く『飛行機ポーズ』とやらはこれかぁと、見てから納得した。やってくれない子もいるらしいので、良いものが見れたなと思いながら見守っている。
それにしても、腹だけを支点にするようなポーズ、よくやる気になるなと感心してしまう。えー、お腹圧迫されて吐かないのかな……とハラハラしてたら、案の定吐いた。ですよね。
吐くけど、結構しょっちゅうやる。後、吐かない時も案外少なくない。でもまぁ、やっぱり見ててハラハラする。苦しくないんかそれ。
宙に投げ出された手はやはりあまり動かず、足だけが空中を蹴っていることが多い。いやまぁ、その状態で足だけ蹴ってもマジで何も動かないんだけど……宙を蹴りながら、わきわき動いてるだけの足もいとおしいな……でもそれ、どの方向にも進まないポーズなんだけど、いいのかい……???
でももう未熟な新米ママはちゃんと学んでるので、それを無意味だと決めつけることはしません。きっとあれも、娘先生的に何か必要な訓練なんでしょう。実際大人があのポーズやるの結構キツそう。動かさなくても、腕も足も普通に鍛えられそう感あるなぁ。
今日も娘先生は、ストイックに己を鍛えていらっしゃる。
サポーターは黙ってそれを見守りながら、カメラのシャッターを切ることだけをしていればいいのである。