#85. 溺れないよう頑張ってるよ
あまりに仕事が忙しく、更新が一ヶ月以上滞ってしまった。
ここに上がる記事を読むためだけに、折を見て訪ねてきてくださったり、当アカウントのみをフォローしてくださっている方もいる中、とても申し訳ないことをしてしまったと恥じている。
どうもすみませんでした。
くしくも、(自己紹介記事を除いて)いちばん最初にアップした記事が、「仕事に忙殺されている」という意味を表す “be snowed under” を紹介するものだったのに気づき、意味もなく伏線を回収したような恰好になった。
ぼくもいままさに snowed under 状態である。
◇
スキマスイッチの『ボクノート』という曲がある。
彼らの代表曲の一つだが、この曲は、どうしても曲が書けずに煮詰まっていたとき、「書けないのなら、その『書けないということ』を書けばいいんじゃないか」という発想でできた曲らしい。
耳を澄ますと微かに聞こえる雨の音
思いを綴ろうとここに座って言葉探してる
考えて書いてつまづいて
消したら元通り
12 時間経って並べたもんは
紙クズだった
ということでぼくも、「忙しくって書けないんなら、いっそ『忙しい』というネタを使って書けばいいのでは」などと思い立ち、いま書いている。
◇
ただもうすでに “be snowed under” は紹介してしまったので、今日は、多忙であることを表す英語の言い回しをもう一つ、紹介しようと思う。
ジョー、おれは仕事でてんてこまいだよ。
ここに出てくる “be up to my ears” という表現、これが「仕事でいっぱいいっぱいだ」という意味を表すイディオムである。
直訳すると「耳のところまで浸かっている」というような感じで、仕事という名の海にいまにも溺れかけてしまいそうな姿を彷彿とさせる面白い表現だ。
似た例として “be up to my neck”(首のところまで来ている)というものもあるが、こちらは首まで浸かってはいても、逆に言えば頭ひとつ分浮かんでいるような状態なので、“be up to my ears” の方が、より深刻な状況だと言えるだろう。
◇
この表現を聞くといまでも思い出すのが、ぼくが大学院生のときに参加していた、学会終わりの懇親会。
当時修論の英語を見てもらっていたイギリス人の先生に “How are you?” となんのけなしに聞いたところ、いきなり “I’m trying to be floating” という答えが返ってきた。
これは「なんとか浮かんでいられるように頑張っている」ということで、先の表現について話したばかりのいまなら、「仕事の海に溺れないように気をつけている」とか「忙殺されないようになんとかやっている」という意味だとすぐに理解できるだろう。
だが当時のぼくはこの表現を知らなかったし、知っていたとして、たいした答えが返ってくるとは思ってもいない挨拶程度の状況で、こんなトンチを理解できたとは思えない。
ぼくはその後に説明が来るのを期待して、“Okay . . . ?”(なるほど……?)とゆっくりあいづちを打ったが、先生はぼくが例のトンチを理解したものと踏んだのか、さらに “But the tip of the iceberg is about the size of my balls” と続けた。
…… これ、いまこの記事を読んでいる人の中で、理解できた人はいるだろうか。
ちなみに当時、ぼくはまったく理解できずに “About the size of your balls?” などと聞き返したのだが、いま思えば、あのとき先生は穴があったら入りたいほど恥ずかしい気分だったろう。
順を追って説明すると、まず前半部の “the tip of the iceberg” というのは「氷山の一角」という意味の定型表現で、この文脈では「先生にとって溺れずにプカプカ浮かんでいる部分」という意味で使われている。
ここまではいい。
ただ問題はこの後で、“about the size of my balls” というのは、その「氷山の一角」がいま、「自分の balls くらいのサイズしかない」ということを表している。
わざわざ balls を英語のままで表記したのは、これはとても下品な言葉だから。男性の身体についている複数の ball …… あとはご想像にお任せする。
つまるところ、あのとき先生は、「仕事の海に溺れることなく浮かんでいようと頑張っているが、水面から顔を出している部分のサイズがまるで、ぼくの balls くらいしかない」、つまり「ほとんど余裕がないくらいとても忙しい」と言いたかったのだ。
それを、(さすがイギリス人と言うべきか)とても遠回しかつユーモラスに打ち明けてくれたというのに、当時のぼくといったら「え、あなたの balls くらいのサイズってどう言う意味ですか?」なんて ……
ボケたときいちばんつらいのは、スベることより聞き返されることである。渾身の下ネタを聞き返されて、先生はとても恥ずかしかったに違いない。
ぼくの返しに、“Never mind”(いやなんでもない)と言ってスゴスゴと立ち去っていった後ろ姿を、ぼくはいまでも忘れない。
これを読んでいるみなさんも、いずれだれかにそのようなギャグをかまされたとき、相手にとっての黒歴史を作ってしまわないよう “be up to one’s ears/necks” という表現は覚えておくといいかもしれない。
◇
せっかく更新を再開したのに、その一発目に下ネタが含まれてしまったというのは、なんとも情けない話である。
だが、スキマスイッチも『ボクノート』の中でこう歌っている。
キレイじゃなくたって
少しずつだっていいんだ
「キレイじゃない」の意味がすこし違っているかもしれない。
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