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物語詩「彼女の身体」

公園の砂場が海だった頃から
僕は何となく知っていた
この身体は僕のものじゃない

ずっとそこにいたような顔で
確信が居座っていた
僕への笑顔の宛先は身体の真の持ち主で
僕は真性の詐欺師だって
そいつのにやけた粘着質の言葉が
耳にもわもわと網を張った

誰も、誰も気付かない
僕が間違ってここにいること
その子はここにはいないってこと

その子の名前
その子の好きな色
その子の着たい服
その子の憧れの人

みんなは知ってる
僕だけ知らない

その子がしそうな仕草
その子が出しそうな声
その子が言いそうな言葉
その子が好きになりそうなもの

知らないけれど擬態する
人間の振りをする
わかんないけど
きっとバレたらおしまいだから

生きたい
生きたい
嘘を吐いても
生きたい
生きたい
愛を騙し取っても

僕は抜け殻を覆う水銀
持ち主不在の身体を操り
上手く反射した銀色は透明に見える

「あんたが普通の子で良かったわ」
「普通が一番幸せだもの」

その子のものになるはずだった
普通の幸せという蜃気楼
反射し続ければみんなは幸せ
中身の腐臭にはどうか気付かないで

僕はいないほうが良かったんだろう
でも僕が死んだらその子も死ぬよね
その子を愛した人たちを
裏切ることはできないから
僕は裏切り続けるんだ

反射しながら
視線から逃げて
反射しながら
少しずつ日陰に
反射する力が尽きる前に

霧の森に逃げ込んで
半分土に埋まっていた僕の上
光の揺らぎ
透明じゃなくて反射だった
僕と同じ水銀の肌

「私の身体、埋めないで」
苦笑する顔は僕の顔だったはずの顔

「取り換えようか」
「もう無理だよ」

水銀は身体に染み込んで
もう脱ぐことは叶わない

僕の身体を彼女にあげる
彼女の身体を僕がもらう

「その身体のことは好きに使って」
「誰のでもない君の身体だ」
「君は君になればいい」

僕の身体の彼女を見送り
彼女の身体で歩き出す

土で汚れた肌はもう
誰の期待も反射しない

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