親御さんと衝突するフリーランス志望の方へ ~プロティアン・キャリア~
1、プロティアン・キャリア
「プロティアン」という生き方・考え方があります。
…プロテイン? プロフェッショナル? いえ、プロティアンです↓。
英語で書くとprotean。「環境の変化に応じて」「自分自身も変化させていく」「柔軟なキャリア形成」のことを、プロティアン・キャリアと呼ぶそうです。…一つの組織に縛られず、自分自身をも変化させる…?
ギリシア神話の「プロテウス」が語源となっているとのこと。プロテウス(プローテウスとも)を調べると、ギリシア神話の記事が出てきました↓。
この記事から一部引用します。こんな感じの神様、予言者です。
…「プローテウスという年老いた予言者がいます。ポセイドーンのお気に入りで、アザラシの番をしています。この者ならば、ミツバチが全滅した理由も、その救済方法も教えてくれるはずです。わたしたち水のニンフも、彼が賢人であると尊敬しています。
しかし、どんなに頼んでも、彼は自分から進んで教えてくれません。腕ずくで教えを乞いなさい。逃げられないように彼を鎖でしばって、質問しなさい。逃げたい一心から、質問に答えてくれるはずです。
ただ、注意しなさい。彼は、なんにでも変身できます。火になったり、水になったり、竜になったり、獅子になったりもします。…」(太字引用者)
火、水、竜、獅子…? 何にでもなれるんですね。
このプロテウスのように、変幻自在のキャリア形成を行う生き方を、プロティアン・キャリアと呼びます。「組織内でのステップアップ」を重視しません。「地位や給与」に固執しません。「自己成長や気付き」といった、心理的成功を目指していきます。このキャリア理論を提唱したのが、アメリカの心理学者ダグラス・ホール。彼のプロティアン・キャリア理論のキモが、一発でわかる記事がこちらです↓。
一部を引用します。旧来のキャリア観との違いをズバリ言うと…
◆主体となるのは?→「個人」(×組織)
◆核となる価値観は?→「自由・成長」(×昇進・権力)
◆アイデンティティは?→「自分は何がしたいのか」(×何をすべきか)
「自分の市場価値はどれくらいか」を重視して、「組織で生き残ることはできるか」は重視しないそうです。
…良く言えば「自分の軸が定まっている」、悪く言えば「自分本位で自分勝手」というイメージですね。これは、「終身雇用」が大前提だった、以前の日本社会では、どちらかというと異端の考え方でした。なぜなら、「組織の中で、昇進を軸に、自分は何をすべきかを考える」のが普通だったからです。自分の本位で自分勝手に動くと、組織に迷惑がかかりますから。
しかし今後は、トヨタ自動車の会見の例もあるように、終身雇用は維持できない、という見方が一般的となるでしょう。ならばこの「プロティアン・キャリア」の考え方が、生き残るために必要になってくるように思われます。「個人を主体として、個人が自由・成長することを軸に、自分が何をしたいのかを考える」ですね。「自分の市場価値を意識する」。
2、フリーランスかフリーターか
フリーランスという生き方は、この「プロティアン・キャリア」という考え方に即していると思われます。
フリーランスについては、私の以前のnote記事でも取り上げました↓。
しかしこのフリーランス、しばしばフリーターと混同されます。私は「フリーランスとフリーターの違い」という記事で、その2つの違いを書きましたが、似ているのも事実です。「フリーランスとフリーターの共通点」については、このように書きました↓。
①収入が安定しにくい:サラリーマンに比べて「安定」しない。
②社会的信用が少ない:なかなかローンが組めません。
③確定申告は自分で:会社はやってくれませんから。
④働き方が理解されにくい:婚活や結婚に不利なことも。
もちろん、他にもあると思いますが、代表例はこんなところです。一言でいうと「不安定」。「自由」だけれど「信用されない」。同じ「フリー」で始める言葉ですから、同じようなもの、として捉えられているのでは…。
終身雇用的な旧来のキャリア観からすれば、フリーター(個人事業主)も、フリーター(フリーアルバイター)も、「同じ穴のむじな」なのでしょう。
長らく「終身雇用」が主流となっていた日本社会では、フリーランスはともすればフリーターと勘違いされ、「フーテンの寅さん」「プータロー」「根無し草」「何をやっているのかわからない胡散臭い人」とこきおろされることもしばしばでした。「終身雇用当たり前」の状況で生きてこられた旧世代の方から見れば、フリーターもフリーランスもフーテンの寅さんも同じ。まさに「プロティアンはつらいよ」状態です。
なお、フリーランスにつきましては、フリーランス論の第一人者、高田ゲンキさんの著書が参考になります。『フリーランスで行こう!』です。2019年の7/6には『フリーランスの教科書 1年生』も発売されるそうです↓。
3、ジョブホッパーかキャリアビルダーか
一方で、フリーランスのように独立・起業する方向ではなく、組織に属する、いわゆる「転職」を主体とする方向ではどうなのか。
「ジョブホッパー」という言葉があります。プロティアンが転職に肯定的な考え方だとすれば、「ジョブホッパー」は他者から見たキャリア観で、否定的な考え方です。「あいつはジョブホッパーだ」と言われて、転職市場で否定されるイメージです。フリーランスとの違いは、あくまで組織に所属しようとするところです。
ジョブをホップする、何社も転職を繰り返し、ひとところに落ち着かない。プロティアン的な考え方からすれば、それはむしろ当たり前なのですが、終身雇用的な考え方すれば、異端にしか見えないでしょう。何をしでかすかわからないと思われてしまいます。短期間で転職を繰り返し、何社も渡り歩いてきたのですから。ジョブホッパーについてはこちらをご参照ください↓。
一方で、「キャリアビルダー」という言葉もあります。キャリアを形成する人。おそらく、ジョブホッパーの否定的な語感を打ち消すために、肯定的な言葉として作られてきたのでしょう。…色々な言葉が出てきたので、私なりにまとめます↓。
◆「ジョブホッパー」…終身雇用的な考え方から
→転職を繰り返す人を「否定的に」とらえる
◆「キャリアビルダー」…プロティアン的な考え方から
→転職を繰り返す人を「肯定的に」とらえる
プロティアン・キャリアで生きていくためには、つまり「私は単なるジョブホッパーではなくキャリアビルダーなんです」と主張するためには、「自分は何ができるのか」「自分は何をしたいのか」「自分は何をしてきたのか」をわかりやすく示す必要があります。「フリーランスとフリーターの違い」の記事の中で、私はこのように書きました↓。
だからこそ、自分で作戦を練って、「安定」し「信用」されるように、実績を積み重ね、認知度を高め、協力者を増やし、複数から受注できるように調整して…といった活動が大事になります。目に見える形(ポートフォリオなど)で、過去の実績をアピールできるようにしておくことも大事ですね。
ただ単にホップしているだけなのか? こらえ性のない人なのか?
自分の脳内では理路整然と必然的であった転職や経歴も、「履歴書」しか見ない他者から見れば、「何の考えもなしに転職を繰り返す困った人」にしか見えないかもしれません。だからこそ、どのような考えで今に至るのか、他者にもわかりやすくする必要があります。そのようなツールを持ち、説明できるようにしておくことが必要だと感じました。黙っていたらわかりません。「このポートフォリオが目に入らぬか!」と、水戸黄門の印籠のように出せるかどうか。
ご参考までにリンクを貼ります。カワグチマサミさんの「隙あらばゲームしたくてイラストレーターになりました。」です。略称「隙あら。」。
短期間で転職を繰り返したという表面的な経歴だけを見れば、彼女は「ジョブホッパー」ですが、この一連の漫画を見ると、確固たる「プロティアン・キャリア」の考え方に基づく「キャリアビルダー」であることがわかります。物語としてもとんでもなく面白いので、ぜひご覧ください!↓。
4、タナケン先生のプロティアン・キャリア講義
今回の記事は、プロティアン・キャリアの考え方を切り口に、色々な働き方について考えてみました。
しかし書けば書くほど、終身雇用的な考え方からは否定されそうな生き方だな…と感じます。ホリエモンさんの『他動力』にも共通しますね。毀誉褒貶が激しいあの方、終身雇用の旧世代の方などから、ものすごいバッシングを受けたじゃないですか。でも、現在でも不屈の精神で活動されているのは、賛否両論はあるにせよ、自分の軸をガツンと持っていて、変幻自在にキャリアを組み立ててきたからだと思います。いつの世も、改革者は批判にさらされます。
終身雇用的な考え方を持つ方は、この世の中にたくさんいます。その方たちとケンカをするのか、話し合いをするのか、見捨てて駆け落ちをするのか、条件をすり合わせて妥結するのか、そのあたりも非常に興味のあるトピックです。旧来のキャリア観を持つ親御さんと衝突してしまう、フリーランス(フリーター)やキャリアビルダー(ジョブホッパー)の方も多いと思うので…。その方々にとって、この記事が何らかの参考になれば幸いです。
最後に、さらなるプロティアン・キャリアの考え方を知りたい方は、こちらがおススメです。田中研之輔さん(タナケン先生)の連載です。これまた面白いですよ!↓。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。