危機感とタイミング ~揃うまでは持久戦もあり~
1、危機感
「元人間のオレの経験からみて、今のおまえに足りないものがある」「危機感だ」「おまえもしかしてまだ」「自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」
富樫義博さんの「幽☆遊☆白書」からの引用です。暗黒武術会編で戸愚呂弟が主人公浦飯幽助に言うセリフですね↓。
今回は、危機感とタイミングについてのお話です。
2、危機感が街を変えた
宮崎県日南市の油津(あぶらつ)商店街をご存知でしょうか↓?
この記事によると、油津商店街を変えたのは、「危機感」と「応援」だったそうです。簡単に部分的に引用します↓。
宮崎県日南市にある油津(あぶらつ)商店街は、店舗数が50年前の約3分の1に激減した、いわゆる「シャッター商店街」でした。しかし、2013年にまちづくりコンサルタントの木藤亮太さんが“日南市油津商店街テナントミックスサポートマネージャー”に着任し、いくつかの商店を再生させていった一方で、「商店街に入るのは商店だけでなくてもいい」という発想の転換により、IT企業、レンタルスペース、保育園などを次々と誘致。4年後には、活気のある新しいかたちの商店街へと変貌を遂げました。商店街の再生にはどのような視点を持って取り組んだのか、地域や企業の生き残り戦略における、マインドをアップデートすることの大切さを伺いました。
2013年に着任した木藤亮太さんが、シャッター商店街を新しいかたちの商店街に変えていったというお話です。
油津商店街の件で僕自身が評価されるのはありがたいのですが、それ以前に日南市が素晴らしいのです。当時33歳という九州最年少で日南市長(崎田恭平さん)は当選したのですが、そんな市長を選んだ日南市の市民がまず素晴らしいじゃないですか。みんなが「まちが変わらなきゃ」という危機感を抱いていたんです。そういう空気感があるところに、僕ら外部の人材が入っていったという前提がまずありますね。
「まちが変わらなきゃ」という危機感がまずあった。「コンサルタントを日南市に住まわせ自分たちのコミュニティの中に投入し、マンツーマンでまちを変えていくような取り組みをしようとした」ところがまず他の地域とは違った、と木藤さんは話します。
しかし、なぜ、このような危機感が生まれてきたのか?
やはり大きいのは2011年の3月11日に起きた東日本大震災だと思います。この震災では、多くの方が亡くなり、まちそのものが失われました。その復興の中でハードだけでなく、コミュニティの再構築が重視されたことで、さまざまな視点が生まれました。また、2014年には通称「増田レポート」と呼ばれる、消滅可能性都市についての発表があったことも影響していると思います。その流れで安倍政権が地方創生を掲げ、人口減や中央集中のアンバランスを取り戻そうとし始める中、それぞれの自治体が危機感を持ち始め、絵に描いたような“理想的なまちづくり”ではなく、成果を出す“実質的なまちづくり”のために動くようになったと感じます。
2011年の東日本大震災→ハードだけでなくコミュニティの再構築重視。
2014年の増田レポート→消滅可能性都市の発表。
これらを通して「実質的なまちづくり」のために動くようになった。
そのような全国的な雰囲気の中で、木藤さんは成果を出すのです。
もちろん“商店街の再生”はそれ以前からずっと各地で取り組まれていましたし、それぞれの商店街は非常に頑張っていました。しかし、従来の取り組みは人通りを取り戻すことに終始し、マルシェを開いたり、芸能人を呼んだりと、イベントが中心の傾向にありました。でも、そうして一時的に人が増えても、お客さんは商店街でお金を使わなかったり、そもそも商店街の人たちがイベントにこだわるあまり疲弊してしまっていたりと、効果持続しないのが現実でした。 そして行政が予算をつけたとしても、その期間が終わった途端にまた元通りになってしまったり、お店への家賃補助が行われても補助が終わった途端に夜逃げしてしまうようなケースもあったりと、商店街活性事業には大きな落とし穴があるんです。2013年は、そうした従来の方法とは違う新しい商店街再生をやっていこうと全国的に動き出し始めたタイミングだったと思います。
イベントで人を呼ぶだけではダメ、従来の方法とは違う新しい商店街をやっていこう、そのような動き出し始めたタイミングだったんですね。
さて、具体的な再生方法については、引用した記事をお読みいただくとして、このnote記事では、危機感について絞って話を進めます。
なぜ危機感が共有できていたのか?
木藤さんは、自分が着任する前に、市役所の担当者があらかじめ「基盤」を作っておいてくれたことが大きかった、と話します。
ありがたかったのは、僕の選任が決まる前から、市役所の若い担当者が商店街を回って一人ひとりに話をしておいてくれたことです。「商店街も再生を目指してこれまで一生懸命頑張ってきたけど、上手くいっていない。そうした状況を打破するために人を月90万円で雇ってまちの中に入れる。とにかく4年間は騙されたと思ってその人を中心にやっていきましょう。」って。それはもう、失敗したら商店街が終わるかもしれないくらいの覚悟で。そのような基盤があったから僕もスッと入れたし、根本的な意識は変わっていなかったとしても「新しいことをやっていこう」という空気は生まれていたんです。
おそらく、こういう「下ごしらえ」がないと、全国的な機運はあったものの、元の商店街に逆戻りする発想しかなく、また外部からのコンサルタントへの反発などもあり、うまくいかなかったのではないか?
問題を分析し、危機感を共有し、改革への下ごしらえをする。この行為こそが、地域を再生する鍵であるように、私には思えるのです。
3、意外と危機感がない
そもそも地域再生をしようとするような地域は、危機感が充満しているのが当たり前ではないのか?
そう思われる人も多いでしょう。
しかし、意外と危機感がない地域も多い。
「伊豆おこしプロジェクト」を手掛けている、てらけんさんのブログ記事から引用しましょう↓。
この記事に、「地域は困っていない!?」という項目がありました。
【核心・結論】地域は困っていない!?それが地域おこしできない理由です。最後は、私が最も勘違いをしていた内容をお伝えします。「地域おこし協力隊が派遣される」ということは、「何かしら問題があって」「助けを欲している」と思ったりしませんか?少なくとも私はそう思っていました。だからこそ、地域おこし協力隊制度を導入している、と。しかし、実際はそうではありませんでした。
これまでピックアップしてきた「人口減」や「高齢化」が深刻化しているのは事実です。そして、それらが長期的には悪い影響をもたらすのもほぼ間違いない将来予測です。それでも、現場感としては困っていない。。それが諸々の引き金になっています。そこをどう打破していくか。これはもちろん私たち地域おこし協力隊の責務でもありますが、きっと皆さんにとっても重要な課題であると思います。
「現場感としては困っていない」。つまり「危機感がない」。
これこそが諸々の引き金になっていると、てらけんさんは述べています。
油津商店街の事例で言うところの、市役所の担当者による「下ごしらえ」「危機感の共有」がない状態です。
これでは、いくら改革を行おうとしても難しい。
てらけんさんのこちらのブログ記事では、このあたりのことがもっと詳しく書かれています。少しだけ引用します。
強引に寝技に持ち込むのはやめよう隊員 皆さん限界集落ですよね!? 私!地域おこし協力隊です!みたいなことを実は地域は望んでいません。なぜなら、先程も申し上げた通り、いつも通りの日常を過ごしているからです。むしろ、変化を強いられることを恐れる。なんか面倒なことが始まったのかなどういうことなのかよくわからないなとりあえず関わらない方が楽そうそこにさらに「地域おこし協力隊として頑張りたいです!!」と詰め寄ると逆に引かれてしまったりします。今まで頑張ってキャリアを築いてこられた方ほど勘違いしてしまいがちなのでご注意ください!
都会に比べて不便と思われがちな地域ですが、意外と便利で快適だったりします。だからこそ、危機感がありません。そこにいきなり「危機感を持て」「変化しなきゃ」と言われても、反発されるだけです。ひっくり返して底が上を向いているコップに、いくら水を注いでも、水は入りません。
今回のことをお話しているのは、まさに私が急ぎすぎて失敗したためなんです。「あれしよう!」「これしよう!」と一人で先を急ぎすぎていつの間にかギャップが生じてしまうことが何度もありました。別にそんなに急いで対応する必要はなくて、ゆっくり一歩ずつ進めていても良いのです。むしろその方が周囲の方々はしっかりついてきてくださるのです。
てらけんさんは、自分自身の失敗から、「ゆっくり一歩ずつ進める」ことの大事さを書いています。
油津商店街の事例のように、下ごしらえがされてあれば良いのです。しかし市役所の担当者による「下ごしらえ」「危機感の共有」がない状態で、地域おこしをすることがいかに大変かを考えさせられる記事です。
てらけんさんは、下ごしらえがない状態で一協力隊員の立場から改革を行おうとして失敗した、そのため、まずは時間をかけて下ごしらえをしている、その段階なのではないかと思います。
もちろん、「商店街」と「伊豆」では、範囲も人口も密度も産業種別も違います。一概に同じ比較はできません。ただ、「危機感の共有の有無、浸透具合が、改革の成果を左右する」ということは、共通しているのではないでしょうか?
有名な学習塾のキャッチフレーズを借用するのならば、地域住民の「やる気スイッチが押されているかどうか?」が大事かなと思います。
4、危機感を共有するには?
さて、ここで終わっては、「危機感が大事」「やる気スイッチを押そう」だけで終わってしまいます。
改革の下ごしらえ、危機感の共有、どうすれば良いのでしょうか?
もちろん、各地域の現場での地理と歴史は千差万別ですので、どこでも必ずうまくいくやる気スイッチなどはありません。しかし、ヒントになりそうな書籍は、いくらでも世の中に出回っているように思います。
そのうちの書籍の1つをご紹介します。三枝匡(さえぐさ・ただし)さんの「戦略プロフェッショナル」です↓。
三枝匡さんは、いわゆる「企業再生のプロ」です。この「戦略プロフェッショナル」と、「経営パワーの危機」「V字回復の経営」の三部作は、改革に携わる人ならば必ず読むべき三冊だと、私は(勝手に)思っています。そのうちの最初の一冊。文庫にもなっていて、読みやすいです。
一部だけ引用します↓。
業績の悪い企業は内部が不安定だと思われがちだが、むしろ逆のことが多い。ルート3企業は、低いレベルで社内が妙に落ち着いてしまう。たとえ不安定さが残っていても、それは「後ろ向きの不安定さ」で、さらに人が辞めるとか社内にもめごとが起きるといった事態だ。それが終わるとさらに静かになる。こんな会社のトップの座について、お説教をしたり、我慢強く社内の「調整」と「コミュニケーション」にいくら時間をかけても、何も起きない。本当に会社をよくしようと思ったら、このへんなバランス状態を戦略的に突き崩すしかない。現象的には良くも悪くも社内をガタつかせるような積極的な手を次々と(しかし、組織が一度にどのくらいの変化を消化できるかをはかりながら)打ち出していかなければならない。つまりトップの役割は、この場合の組織のアンバランス化である。このように会社を強くするためには、組織の適度な不安定化が常に必要である。しかし、それが最大の効果を発揮するためには、同時または先行して、社内に向けて戦略目的が提示されていなければならない。皆がそれに向けて努力を結集し始めた時、組織の中に「ゆらぎ」が生まれ、それがさらに大きなアンバランスを受容する素地となる。だから問題は、当面の戦略目的をいかに設定し、組織のベクトルを束ねられるかどうかである。(文庫版120~121ページより引用)
宮崎県日南市の油津(あぶらつ)商店街では、この「トップのアンバランス化」と、「担当者の下ごしらえ」と、「木藤さんの戦略ある改革」が、見事にマッチした上で、「民間の応援者・実行者の地域住民」が実際に行動したことで、成功したように思われます。そもそも、九州最年少33歳(当時)の市長が選ばれたということが、この上ないアンバランス化ですよね。
これらがまだ揃っていない地域は、「当面の戦略目的をいかに設定し、組織のベクトルを束ねられるかどうか」が鍵です。
トップの立場にない市役所の担当者や協力隊員が、いかに急に「アンバランス化」をしかけても、(てらけんさんの失敗事例でもありましたように)反発を招きます。逆に、トップの立場の人が、いかに「調整やコミュニケーション」に時間をかけても、いつまでも何も変わりません。それぞれの立場でできること、それぞれの立場ではできないことを考え、当面の戦略目的を設定して、組織のベクトルを束ねていく行動こそが重要かと思います。
利潤を追求する「会社組織」と、公的な「行政組織・地域社会」では、異なるのではないか、と思われるかもしれません。しかし、どちらも担うのは「人間」ですし、再生には「稼ぐ」ことが必要です。すべてが同じとは言えませんが、すべてが違うとも言えません。共通点を探し、有効なものは何かを考えることが必要だと思います。
5、兵を養うこと千日、用は一朝に在り
いかがでしたでしょうか?
冒頭に挙げた戸愚呂弟のセリフを、一部変えて、引用してみます。
「オレの経験からみて、今の地域に足りないものがある」「危機感だ」「おまえもしかしてまだ」「この地域が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」
てらけんさんの記事からも、もう一度引用しましょう。
タイミングはくる!そのときに備えようあなたの「なんか変だな」という感覚は間違っていません。でもすぐに伝えてしまうと拒否反応がでてしまいます。それが伝わるときはきっとやってきます。そこまでは持久戦です。そして、そのときに説得力をもって伝えられるように準備をしておきましょう。なぜ自分がそのように感じたかその違和感をクリアするとどのようにメリットがあるか実際にメリットが発生している事例はあるか等々ですね。そこに準備をかければかけるほど説得力と同時に「これだけ地域のことを一生懸命考えてくれてるんだな」ということが伝わります。ただガムシャラに勢いプレゼンするのは逆効果になってしまうので、じ~っくり状況を待って提案をしましょう。
危機感を持つことは大事。しかし焦って行動しても独りよがりになる。
状況が整っていない時は、持久戦の構えも大事です。そのうち、人材が揃い、スゴイ人がトップになり、機運が最高潮になる、かもしれません。
「兵を養うこと千日、用は一朝に在り」と言われるように、今は無駄に思えても、必ず必要になると思えるものは継続していくべきです。
最後に、夏目漱石の言葉を引用して、締めとします↓。
「あせっては不可せん。頭を悪くしては不可せん。根気づくでお出なさい。世の中は根気の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えて呉れません。うんうん死ぬ迄押すのです。それだけです」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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