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なぜ、オーバーツーリズムが起きるのかー観光経営学でその構造に迫るー
行きつけの店が突然バズった!!
その店は駅から離れた住宅街にあり、外観は古い。知らない人は何とも入りにくい一見さん殺しの店だ。しかし、その店には長い行列ができている。
このお店は、ほんの数日前には近所の家族連れが大将と軽口たたきながらゆっくり食べれる場所だった。一体、何が起きたのだろうか。
調べてみると、どうやら有名な人の投稿がバズったらしい。そのせいか、常連以外も数多く来るようになり、お店の雰囲気も変わってしまった。有名になってほしいけど、有名になったら行列はできているし、知らないお客さんばかりだしと変化してしまう。
いま、いくつかの観光地で起きていることは、こんなことかもしれません。
増加する観光客がもたらす課題:オーバーツーリズムとは?
2024年度は、インバウンド観光が過去最高を記録しました。年間で3,600万人が来訪し、観光消費額も過去最高の8兆円越え。実際、地元はもちろんですが、出張先でも多くのインバウンド観光客を見るようになりました。
ただ、急速な観光客の増加によって、観光の課題も注目されています。その代表的な例が「オーバーツーリズム」でしょう。ニュースも増えていますし、最近では仕事などでオーバーツーリズムへの質問や相談なども増えてきていますし、ネット上では批判的な言葉も増えてきています。
オーバーツーリズムって何?
さて、「オーバーツーリズム」とは一体何でしょうか?何となく分かるけど、はっきりと説明するのは難しいのではないでしょうか?(※1)
ちなみに、大学の講義で学生たちに「オーバーツーリズムに関するニュースを1人3つ調べてきて」と課題を出したことがあります。
そのときに学生たちが集めてきた事例は、色々ありますがだいたい以下のような感じです。
・バスが混みすぎて地元住民が不便を感じている
・人が多すぎるせいで、桜をゆっくり見ることができない
・夜遅くまで騒ぐので近隣トラブルになっている
・ゴミのポイ捨てが増えて困っている
面白いところでは、「観光客が舞妓さんを追いかけた」といったようなケースもありました。
量の問題?質の問題?オーバーツーリズムの本質に迫る
これらの事例はすべて「オーバーツーリズム」という言葉でひとくくりにされていますが、よく考えると、問題の性質が少しずつ違うことに気づきます。
「バスの混雑」や「桜をゆっくり見られない」は観光客の「量」に起因する問題です。多くの方が「オーバーツーリズム」と聞いて思い浮かべるのは、きっとこうした人数の多さによる混雑でしょう。
一方で、「ゴミのポイ捨て」や「夜中に騒ぐ」は「質」の問題です。マナーを守らない観光客が一定数いることで起きる課題です(※1)。
このように、オーバーツーリズムには「量」と「質」という2つの側面があります。もちろん、観光客の量が増えれば、マナーが悪い観光客の割合も増えるため、完全に切り離すことはできません。ただ、この2つを分けずに考えると、問題の本質を見失うことになるので注意が必要です。
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少し専門的な話にりますが、確かにオーバーツーリズムは厳密な定義はないのですが、多くの場合国連観光機関(UNWTO)が定める「環境容量(Carrying Capacity」というコンセプトを使って説明されます。
「環境容量」
「ある観光地において、自然環境、経済、社会文化にダメージを与えることなく、同時に観光客の満足度を下げることなく、一度に訪問できる観光客数の最大値」
最大値をOverしちゃうから、オーバーツーリズムです。となると、気になるのは「なぜOverしてしまうのか」ということでしょう。
なぜオーバーツーリズムは起きるのか?
観光経営学の分野では、この現象を説明するモデルとして「ディスティネーション・サイクル」があります。特に1980年にButlerという研究者が提唱した「バトラー・シーケンス」というモデルは観光学分野で最も引用され、適用されているモデルです。
このモデルでは、なぜオーバーツーリズムが起きるのかについても説明しています。それでは、早速見ていきましょう。
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