読書始めに『名探偵のままでいて』
近所の小さな書店で平積みされているこの本を見かけて購入。
家に帰ってから何となく題名を検索してみると、発売日の前日に購入出来たようでなんだか嬉しい気持ちになった2023年の読書始め。
表紙や帯文、あらすじからはなんだか海外作品ような雰囲気を感じました。
レビー小体型認知症を患う知識豊富で聡明な祖父の元へ、あらゆる謎を持ってくる27歳小学校教諭の孫、楓。
まず二人の関係性や会話、空気感がとても心地良い。
二人以外の登場人物も個性的でそういった部分も楽しめました。
日常の謎好きや安楽椅子探偵好き、暖かい気持ちになれるミステリが好きな人におすすめしたい作品でした。
そしてわんさか出てくる名作ミステリの名前たち!
あらゆる作品のオマージュや引用が沢山。
ミステリ好きには堪らないはず。
名前は知っているけれど読めていない名作なんかも多々あって悔しくもありつつ、読みたい作品が増えて幸せな気持ち。
個人的には「九マイルは遠すぎる」が物凄く読みたくなりました。
ストーリーとしては特に第五章と終章が好きでした。
もっとおじいちゃんと話していたい、という心地良さと物語が終わってしまう寂しさを感じるほど。
ただ、気になってしまった点が多かったのも事実。
こういう事を書くのはあまり好きではないし、批評なんて出来るような人間ではないのですが、どうしても気になってしまった為残しておくことにします。
ここからは気になってしまった点。(以下ネタバレを含みます)
まずは容姿についての描写の多さ。
特に楓の容姿について書かれている部分が多くとても気になりました。
楓自身の心の声や、周囲から言及される「美しいけれど流行に疎い」「若くて今風の外見な美人なのに古典ミステリが好きなんて」というような描写。
キャラ付けや読み手側の関心を惹く為の描写だったのでしょうか。
楓という人物を想像しやすくはなりますが、ここまで多くなくても良かったのではと思います。
何か伏線になるのかと思っていたら特にそういう訳でもなく、少しモヤモヤしてしまいました。
もしもですが、これが楓と楓の母がストーキングされていた事についての伏線や理由付けのようなものだったのならば尚更残念です。
楓に関して言えば、"外国語を日本語に翻訳した文章"のような口調も気になりました。
そして、細かくなってしまいますが"同世代の女子のような派手なネイル"はロープを切ったり解いたりするのには全く役立ちません。
なんなら短く切り揃えておけばよかった、と後悔することでしょう。
ですが、見た目にあまり気を使わない楓ならそう思ってしまうのも不自然なことではないのかもしれません。
次に謎解きやトリックについて。
正直不自然な箇所が多かったです。
・第二章の違和感
みんながテレビのサッカーW杯に熱中しているからといって、小さなお店に堂々と入り口から人が入ってきたことに気が付かない訳がない。
誰か一人は絶対に気付きます。
何よりサッカーに全く興味のない男が一人は居たわけです。
そしてドアに貼る紙に書くぐらいの字の大きさで「こしょう」と書いてあった時"スパイスを効かせた鶏料理かなにか"のレシピ考案中だと思う人がどこにいるのでしょうか。
勘違いするならせめて買い出しのメモなどでは?
死体を発見した直後で気が動転していたとしても、その勘違いはあまりに突飛すぎると思います。
明言こそされていませんが"祖父のような雰囲気を纏った四季"というキャラクターが少しブレてしまったような気がします。
・第三章の違和感
今でも近所の子供たちの声を聞くのを楽しみにしている程子供が大好きな初代まどふき先生である祖父。
そんな人があらゆる科目の中でも一番といっていい程危険と隣り合わせな水泳の授業での夜逃げを提案するでしょうか。
水泳の授業で30人前後の児童に対して担任一人のみ、という点にもかなり違和感を覚えますが、まず絶対に子供たちから完全に目を離さないといけないような策を立てるとは思えません。
マドンナ先生の夜逃げの前に本当に子供が上がってこない、なんてことになっていたかもしれません。
・第四章の違和感
長らく不登校だった子が正義感溢れるクラスメイトの"ちょっとした遊び心"に乗って、クラス中の注目を集めた状態で拍手喝采!サプライズ登場!なんて案に賛同するのか、という点。
まあ物語上では上手くいった訳だけど、実際はあまりに荷が重いでしょう。
不登校になった理由がなんであれ、出来る限り目立たずに登校したいと思うのが自然ではないだろうか。
・第五章の違和感
アルコール依存症なのにも関わらずお酒を呑んでしまっていた事やその後の飲酒運転など、バレたくない事があるので警察に事情を説明出来なかったというのは理解できます。
そしてその後もクリニックで見つけられるまで一人悩んでいたという事も想像出来る。
けれど翌日にでも、あの時は驚いてその場を去ってしまった、という事にして事情を説明してもよかったのでは?とも思ってしまいました。
細かい部分でいえば、週に一度ウォーキングしに行く河川敷で挨拶を交わす、という程度の関係の人達みんなが「岩田先生」と呼んでいて、自分は教師ですと言って歩いてるのか?と不思議でした。
テーマや文体などすごく好きだったので、こういった少しリアリティにかけている部分が本当に本当に残念でした。
続編もしくは次回作を楽しみに待ちます。
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