陶芸に携る方々の話を聞こう in 伊賀(第2回/全6回) 森里博信さん/香山窯 伝統工芸士
HIS地方創生チームが地域の皆さまと一緒になって、その土地ならではの魅力を活かし、地域をより元気にする、そんなプロジェクトが始まりました。第一弾の舞台は三重県伊賀市。ここ伊賀市で陶芸に携る方々と共に、2021年9月に第40回の節目を迎える「伊賀焼陶器まつり」を盛り上げます。
その一環として、伊賀市で陶芸に携る6組さまにインタビューを行い、HISスタッフが素人目線でコラムを作成してみました。伊賀市に根付いた陶芸文化とそれに関わる人たち、その魅力が皆さまに届きますように。
(インタビュアー:HIS 宮地、田中/日時:2020年12月某日)
森里博信さん / 香山窯 伝統工芸士
京都での修行時代を経て、故郷の伊賀へ
「普段から焼物を目にしていたので、特別な仕事とは思わなかった」
伊賀焼の中心地である丸柱で生まれ育ち、陶芸家として活躍し続けている森里さんは香山窯の三代目。戦後、おじいさまが伊賀で陶芸を始め、今ではお父さま・お母さまと営むアットホームな窯元である。
・・・という話を聞いた時点で、森里さんはきっと幼少のころから跡継ぎを意識されていたに違いない。半ば予定調和を感じつつ、我々が質問したところ、森里さんはさらっとこう答えた。
「普通のサラリーマンになるのがだんだん嫌になってきた」
予想外の回答に思わず吹き出してしまった。
森里さんは地元が伊賀ということもあり、色々なところで普段から焼物を目にする機会が多く、陶芸が特別な仕事とは思わなかった。しかし、高校に通うようになる頃には珍しいと思い始める。
なるほど。確かに、自分にとっての当たり前を客観視するというのは誰にとっても難しいものだ。
ご実家が窯元という環境の影響もあって、ものづくりへの興味が徐々に芽生え始める。高校時分には陶芸に関するアルバイトも地元で経験した。粘土の片付けや掃除などを行う傍ら、そこで働く職人さんたちの姿を見て、その興味はより強くなった。
そして、普通のサラリーマンになるのがだんだん嫌になってきた、のである。
写真1:森里さんが生まれ育った伊賀市丸柱には窯元が沢山あります。
「京焼の繊細さ、伊賀焼の荒々しさ」
ここからは非常に自然な流れで、ご自身の言葉を借りると「簡単に」話は続く。実家が窯元ということで、ものづくりに携るにあたり京都にある陶芸の専門学校に森里さんは通い始める。
専門学校で陶芸の技術を身に付けた後、すぐには伊賀へ戻らず、折角だからと京都で修行する道を選ぶ。いくつかの窯元に声を掛け、うちひとつの陶芸家さんから欠員が出たと連絡があり、それが縁で6年半にも及ぶ修行期間が始まった。
余談ながら、お世話になった陶芸家さんとは名字が同じ「森里」で、更に出身地も同じ「伊賀市」だったという事実は偶然と呼ぶには勿体ない。まさしく、伊賀の陶芸家は伊賀の陶芸家にひかれ合う、のだろう。
京都の焼物、京焼を通じて得たのは繊細さ。比較的荒々しい作風が主流である伊賀でも活かせるのではないか。地元の窯で焼いた作風にも興味が出てきた。京都での修行中、師匠から掛けられた「京焼とは全国のよいものを取り入れたもの」「伊賀でやってみたら面白いんじゃないか」という言葉は森里さんの心に響いたのではないか。
師匠自身も自由な発想の持ち主だった、と森里さんは当時を振り返る。
京都で過ごした6年半を経て、森里さんは生まれ故郷に戻ることを決意。
舞台は慣れ親しんだ三重県伊賀市へと移り変わる。
写真2:大通り沿いの電柱には香山窯の看板が。
「こっち(伊賀)の粘土を使って、ちょっと変わった伊賀焼が出来れば」
6年半ぶりの伊賀の地で、森里さんの作風が決まるのにさほど時間はかからなかったようだ。どうしても京焼の影響から抜けられないところはある、と森里さんは語る。しかし、その言葉から消極的な要素は感じられない。
僕が作っているのは柔らかい感じ。京焼の繊細な感じで、伊賀はどちらかというと荒々しい、男らしい感じが多い。初代、二代目と作風が違うけれども、そこに口出しされることはなかった。
弾むように話す森里さん。ただ、最初の頃は「薄すぎる。すぐに割れてしまうのでは」と助言をもらうことがあり、粘土を変えるなど工夫をしたそうだ。親心なのだろう。
「女性の作家とよく間違われる(笑)」
森里さんの作品の写真を拝見するに、誰もが柔らかさを感じるであろう事に異論はない。女性が作っていると勘違いする方もおられるそうだが、それについても異論はない。特に目を引くのが、作品を優しく彩る模様だろう。
可愛らしいお花の模様、いわゆる印花というものでしょうか。
我々からの質問に、森里さんは笑顔のまま丁寧に解説を添えて下さった。
「伊賀の方ではあんまりやらない技法ですね、ちょっと京都で習ってたんで」
印花文様と呼ばれる技法で粘土等で作成した印を使って模様を作品に施す。
写真3:印花による模様。
個人ゆえに好きなものが作りやすい環境
今の若い女性が好きそうな作品が多い印象を受けます。
我々からの問いかけに、森里さんは笑いながら「昔ながらの伊賀焼の環境で育ったが、京焼に影響を受けたからでは」とご自身を分析した後に「どうしても女性向けの作品になりがち」と付け加えた。
ここから話は、陶芸作品の産地としての伊賀の魅力に繋がっていく。
森里さんが営まれている「香山窯」がアットホームであるがゆえにご自身が好きな物を作り続けてこられているのでは、と続けて問いかけたところ、森里さんは口を開いてこうおっしゃった。
「個人ゆえに好きなものを作りやすい環境にある」
一瞬、その言葉の真意を私は理解できなかったが、森里さんの話をまとめるとこんな感じだ。「他の産地は問屋さんからの要望を聞いて作っている窯元が多いだろうが、伊賀はそうではない。作り手自身である窯元が販売まで面倒を見る必要がある」
「京都などでは大きな問屋さんがいて、仕事をとってきてくれる。販売もしてくれる。しかし伊賀では、作りたいものを作って、各自が売り込んでいくという形」
「販売まで窯元自身がやる土地柄ゆえに、地元の結び付き、横の繋がりにおいて他の産地とは異なるのではないか。だから、伊賀焼陶器まつりのように、みんなで協力して販売するための場所を作ったりせねばならない」
ここまで聞いて、私は初めて大きく頷くことが出来た。なるほど、そういうことか。
家族で営んでいる窯元だから好きなものを作れるのではなく、自分で作ったものを自分でお客様に届ける文化が根付いているここ伊賀だからこそ、好きなものを作れるのだ。問屋さんがいない分、大変なことも多いだろうが、ものづくりに魅せられた陶芸家としてこれほど恵まれた環境はないだろう。
勿論、全てが自己責任になるわけだが、改めて森里さんの作品を見るに、痺れと同時に不思議と憧れすらも感じてしまうのは気のせいなのだろうか。
その作品に対するこだわり
ものづくりに携る方々ならば切っても切れないのが、作品へのこだわりだろう。今回、森里さんが出演されるオンライン陶芸ツアーで紹介いただく「酒器、ぐい呑」へのこだわりを伺ってみた。
写真4(左):酒器 / 写真5(右):ぐい呑と酒器
「酒器(お酒を沢山入れておくポットのようなもの)は注ぎやすさ、形にこだわった」と、見た目だけではなく使い手にとって何とも嬉しい配慮がなされている。注ぐだけでも思わず楽しくなってしまう、そんな逸品なのだろう。
「注いだ後もお酒が垂れてしまわないように。垂れてしまっては、自分が使っていても嫌だと思ってしまう」と笑いながら語ってくれる森里さんの辞書には妥協という言葉は見当たらない。
ということは、ぐい呑はお酒を飲む際の口当たりにこだわっていることは言うまでもない。森里さんは陶芸家であると同時に、女性たちが楽しくお酒を注ぎ、味わっている場面を生み出す演出家なのかも知れない。
「オンライン陶芸ツアーの開催時期が4月なので、徳利を作って欲しいと依頼をもらったが酒器は注ぐ形の方が良いと思った」
冬ならば熱燗を楽しむのに徳利が望ましいだろうが、そこまで計算付くとは我々としてはただただひれ伏すしかない。自己満足で好きな物を作っているわけではなく、徹底的に使い手の目線から作品を作り上げる。森里さんが伝統工芸士であることを再認識させられた瞬間である。
今後の活動について
こういう作品を作りたい、こういったことをやってみたいというものがあれば教えてください。森里さんが次に目指している場所を知りたい、我々は素直に聞いてみた。
「昔ながらの薪で焼いたものをやっていきたい。まだ京都の色が強いので、その技術を伊賀焼に転嫁できれば」と柔らかく答えてくれた森里さんは、まさしくものづくりの世界の住民に他ならない。
更に、森里さんは伊賀に対する愛情たっぷりに続けて語ってくれた。
「例えば、京都では釉薬の研究が進んでいて、調合されたものが多く出回っている。伊賀の場合、複雑な調合というよりも、ふたつの原材料を混ぜるといった比較的単純な場合が多い。ただ、その微妙な配分で色が変わったりするのでそこは面白いと思う。各窯元の個性が出るので、同じものがない。伊賀は面白い地域やなと思う」
森里さんの口調はどこか誇らしげだ。
もしかすると森里さんの作風も変わっていくかもしれませんね、と聞くと「そうかもしれませんね」とやはり笑顔で答えてもくれた。
「伊賀焼陶器祭り」への想い
次回の「伊賀焼陶器まつり」に、森里さんも出店される。
伊賀焼陶器まつりは地元の窯元によって構成された実行委員会が企画・運営している。今回、実行委員会の役員でもある森里さんにその魅力についても説明いただいた。
「個性的な陶芸作家が一同に集まり、陶芸作家本人が自身の作品を販売するのは珍しい。一般的には問屋さんが出店する場合が多い。お客様と触れ合えるのは、作家としても実は楽しみである」
毎年来られるお客様が多くおられる中で地元の方のみならず、大阪・奈良・京都からの来場者に加えて東京から来られる方も中にはおられるとのこと。それは作品のみならず、陶芸作家の魅力あってのものなのだろう。
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🙋♂️陶芸や陶器に興味をお持ちの方
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・繊細な京都の雰囲気と荒々しい伊賀の作風が生み出す酒器とぐい呑
・昔ながらの木桶で仕込むことで、ほのかな木の香り、まろやかさ、味のふくらみ、余韻の長さが特徴的な地酒
🙋♂️伊賀焼陶器まつりの次回開催が待ち遠しい方
📅2021年4月24日(土)14:00~
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香山窯 公式ホームページ:http://www.e-net.or.jp/user/igayaki/kozan/
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次回は伝統工芸士「大矢吏さま」のインタビューをコラムにてお届けいたします。ご自身の経歴に甘んじることなく挑戦し続ける、その姿勢に迫ります。こちらもお楽しみに。