「名言との対話」5月14日。河合雅雄「サルまで立ち返って人間性の根源を調べにゃならん」
河合 雅雄(かわい まさを、1924年(大正13年)1月2日 - 2021年(令和3年)5月14日)は、日本の霊長類学者、児童文学作家で理学博士。享年97。
兵庫県丹波篠山市出身。旧制新潟高校から京都大学理学部動物学科御卒。日本モンキーセンター所長。朝日賞、紫綬褒章などを受賞している。
日本における「サル学」の創始者たる今西錦司に学生時代から師事し、宮崎県の幸島の野生のニホンザルを研究した。それぞれのサルの顔を覚え、名前を付けて、戸籍をつくる。餌づけに成功し個体を観察することによって、社会の存在を確認した。ある若いサルが芋を海水できれいに洗って食べるという行動をした。それがすべての猿の行動、もっと言うと文化になっていくことを発見するなど、徹底したフィールドワークはに基づいた日本の「サル学」は世界の注目を浴びた。
河合は日本の「サル学」の道を切りひらいた霊長類研究の世界的権威となっていく。この辺りのことは、私は「梅棹忠夫著作集」第7巻「日本研究」の「高崎山」をワクワクしながら読んでいる。
NHKテレビ「100年インタビュー」で河合雅雄は、3つの要件を持つサルが人間であると喝破していた。一つは日本足歩行。二つ目は社会集団の単位は家族(日本の発見。父親の存在)。三つ目はコミュニケーション(言葉)。サルと違って、人間には「父親」が存在する。その役割は、守る、経済、養育であるとし、男女が共同して養育にあたることが特長だと語っている。
日本では猿は人間にとって身近で親しい存在だが、西洋では単なる動物として研究対象にしている。日本ではサルと人間は地続きである点が西洋とは違う。そういう関係が、独特の「サル学」を生んだのである。
河合雅雄は、霊長類学者である一方で、草山万兎(くさやま・まと)というペンネームを持つ児童文学者で、童話を書く作家でもあった。「霊長類学」という科学の研究をする一方で、人間には「創造する力」があることを証明したいとのことで二刀流の生活を送っている。
河合隼雄という有名な臨床心理学者は弟である。調べてみると、河合兄弟は男ばかりの6人兄弟だった。長男は外科医、次男は内科医、三男の雅雄は霊長類学者、四男は歯科医、五男の隼雄が臨床心理学者、六男は脳神経学者。この兄弟が、人間の肉体と精神と脳の世界に挑む風景は壮観である。互いに「人間」についての情報を交換しあったのだろう。
河合雅雄は戦争が終わって、どうして人間はこんな愚かなことを繰り返すのかと考える。人間とは何か、それを根源から調べよう。それには大本から、つまりサルを対象にしようと考えたのだ。「サルまで立ち返って人間性の根源を調べにゃならん」、それが河合雅雄の人間研究の動機だった。