「名言との対話」11月15日。岡本綺堂「史劇というものは、一面に時代の空気を現すと同時に、その人物を象徴として近代の思想を説明するものだ」
岡本綺堂(おかもと きどう、1872年11月15日(明治5年10月15日) - 1939年3月1日)は、日本の小説家、劇作家。享年66。
東京高輪出身。東京尋常中学(後の府立一中、現・日比谷高校)時に劇作家を志す。180年東京日日新聞から始まり24年間の新聞記者生活を送る。
記者の傍ら、戯曲を書き歌舞伎界を代表する劇作家となり、「綺堂物」という言葉も生まれた。1913年から作家活動に専念し、長編、探偵物、怪奇怪談作品を発表。戯曲は196篇書いている。
1916年から「半七捕物帳」の執筆を開始する。これはシャーロック・ホームズの影響を受けた日本最初の岡っ引き捕物小説である。1937年、1938年まで小説や戯曲を執筆した。
代表作の「半七捕物帳」は、65歳まで書き続け、計69作品となった。岡本綺堂『半七捕物帳 全巻セット』(オリオンブックス)を手に取った。「お紋の魂」、「石燈篭」、「勘平の死」「湯屋の二階」、「お化け師匠」から始まり、「地蔵は踊る」「薄雲の碁盤」「二人女房」「白蝶怪」で終わるシリーズである。
最初の短編「お紋の魂」は、子供が語り手で、知人のおじさんから半七の活躍を聞く形になっている。第二短編「石燈篭」では、第一作では子供だった語り手は大人になっており、すでに引退した半七から聞くという体裁だ。綺堂の巷談は舞台では六代目菊五郎が演じ、落語では三遊亭圓生も演じている。
女方役者の花柳章太郎は「役者と作者が結びついた時、芝居は繁盛する」と言い。小団次と黙阿弥、そして左団次と岡本綺堂を例に挙げている。
NHKラジオの「聞き逃し配信」では、朗読「半七捕物帳」「奥女中」1・2を聞いたことがある。シャーロックホームズの世界を江戸を舞台に日本的に展開した岡本綺堂が20年書き続けたシリーズだ。まだこの名作は生きているのだ。
2016年に読んだ渡部昇一『実践 快老生活』(PHP新書)では、高橋是清『随想録』、幸田露伴『努力論』、本多静六『私の財産告白』などと並んで、岡本綺堂『半七捕物帳』をすすめいていた。
2007年に読んだ昭和4年生れの谷沢永一と昭和5年生れの渡部昇一の対談本『人生後半に読むべき本』(PHP)というタイトルで、2人の稀代の読書家による読書論を読むと、ここでも岡本綺堂「半七捕物帳」が挙げられている。
「史劇といういうものは、一面に時代の空気を現すと同時に、その人物を象徴として近代の思想を説明するものだ」。これは戯曲を書く劇作家の言である。そういうつもりで史劇を書いていたのである。
明治維新に破れた佐幕党の子であり、藩閥政府全盛の時代には士族系統の人間の出世の目標は「官員」であり、藩閥の敵の子孫にはこの方面の望みはなかったと綺堂は、『岡本綺堂全集』第1巻のはしがきで述懐している。一高への進学をやめたのはこういう事情があったのだ。岡本綺堂は新聞記者、劇作家、小説家として在野の道を歩み、存命した時代に大きな影響を与えた。そして今なお綺堂の作品が読まれ、耳にするように、長く影響を与えている人物である。
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