「名言との対話」7月24日。森村誠一「行き着きて なおも途上や 鰯雲」
森村 誠一(もりむら せいいち、1933年〈昭和8年〉1月2日- 2023年〈令和5年〉7月24日)は、日本の小説家・作家。享年90。
埼玉県熊谷市出身。青山学院文学部卒。新大阪ホテル(リーがロワイヤルホテル)を皮切りに、ニューオータニなど、ホテル勤務は9年の及んだ。
1965年、32歳で『サラリーマン悪徳セミナー』デデビュー。1969年、ホテルを舞台にした本格ミステリー『高層の視覚』で江戸川乱歩賞。
東京地検検事、辣腕の弁護士、ベストセラー作家、人気テレビタレントとして活躍した佐賀潜に、乱歩賞を受賞して挨拶にいったところ、「それで次の作品はできているのか」と問われ、「受賞作が出るころには、第2作、第3作ができ上がっているようでないと、この世界では生きていけないぞ」とはっぱをかけられたとウェブサイトで語っている。
1970年の『新幹線殺人事件』がヒットする。1973年、『腐食の構造』で日本推理作家協会賞。代表作は、『人間の証明』シリーズ。『野生の証明』。赤旗に連載した『悪魔の飽食』は日本軍731部隊の実情を明らかにした。この本を私も読んだが、人体実験など衝撃的な内容だった。
推理小説にとどまらず、歴史小説、時代小説、ノンフィクションなど、精力的に作品の幅を広げていった。
2015年には『祈りの証明ーー3・11の軌跡』を書いている。社会派推理小説の大家となった森村誠一が東日本大震災の1年後から描き始めた渾身の作品だった。戦場カメラマンの中年男性を主人公に、その青春と3・11以降の日々をだぶらせながら描いている。大震災、被災地の人々、原発という凶敵、電力企業を中心とする体制、被災地巡礼、新興宗教の跋扈、権力と宗教の癒着、などの道具立てで日本の今を描く鎮魂の力作。森村が手掛けている、写真と俳句を合わせた「写俳」を効果的に使って、現代の問題を描く手法はさすがである。
非情、鬼、生存と生活、救済、原爆と同根の原発、飼いならせない猛獣、制御不能の化けもの、原発ジプシー、悲話と美談、改易流行が実態のマスメディア、人間性が濃縮する天災と希薄になる戦場、避難所巡礼、尊い臭気、行脚僧、ヘドロの海に向かっての読経、号泣作戦。指導力と復興に向ける姿勢。祈りは他人そして自分に捧げる、孤独死より自殺力、グリーフケア、人生の縮図、災害文化、、、。「社会への始発駅には人生の全方位に向かう列車が勢揃いして、新卒の乗客たちを待っている。終着駅は楽園か、極地か、永久凍土か、不明である。全方位に向かい分かれる人生列車には同時に無限の可能性がつまっている。青春とは未知数の多いことである」。この作品の中で、森村は震災俳句を詠んでいる。「夫焼く荼毘の炎で暖をとる」は衝撃の傑作だ。
救出の順位選びて我は鬼 寒昴たれも誰かのただひとり 火の海に漂流しつつ生きており 敗れざる鉄の遺骨や供花まみれ 生き残り松の命に雪が舞う 炎天下原発無用の座禅僧 被災地をまっすぐ照らす月明かり 七夕やママが欲しいと被災孤児
森村さんは「写真俳句」を提唱していて、写真と俳句を結合させた試みを展開している。「森村誠一の写真俳句館」http://shashin-haiku.net/.ブログは「写真俳句歳時記」で「人生の証明日記」http://blog.livedoor.jp/morimuraseiichi/という森村さんらしいタイトルだ。
私は『写真俳句のすすめ』。『写真俳句の愉しみ 四季の彩り』。この2つの入門書に大いに触発された。森村の写真も素晴らしい。「俳人にとって俳句に勝る人生の記録はない。人生の記録であるから凡句でも構わない。」「写真俳句の特徴は、抽象化の極致である世界最短詩型の俳句と、具象的な写真をジョイントしたものである」。私が最近始めた「川柳」も、人生の記録として凡句を重ねればいいのだと思う。
・写真を撮り、あとでじっくり観察して俳句をつくる。・俳写同格・時間と空間・悠久の歴史。深遠な心理描写。・句会にはでない。他人の句を批評しない。名句をたくさん読む。歳時記に親しむ。俳句は足でつくる。・句境は持続性がある。句材は至るところに。・俳人にとって俳句に勝る人生の記録はない。人生の記録であるから凡句でも構わない。・写真俳句の特徴は、抽象化の極致である世界最短詩型の俳句と、具象的な写真をジョイントしたものである。・350年近い歴史の俳句と最先端の機器を合体して写真俳句をつくる。・人事。日常。旅。アウトドア。1万歩。
2022年、「町田市民文学館 ことばランド」で、町田市名誉市民表彰記念 森村誠一展」をみた。1965年のデビュー作以来、2011年までの46年間で、315冊を刊行している。それ以降も、2022年の『老いる意味』も私は読んでいるから、総計では何冊になるのだろうか。
2022年に『老いる意味』(中公新書ラクレ)を読了。「最先端にいるというのは、未来に接続していながら、自分が耕した過去にもつながっていることだ」「作家という仕事には定年がない」。「私は100歳まで現役を続けるつもりである」と語っていた。享年は90だ。
。2011年にNHK「俳句王国」に出演していた。「行き着きて なおも途上や 鰯雲」という自句を森村さんは紹介して、創作者はもうこのへんでいいかなと自分に妥協したら終わりであり、こういう心境で仕事をしている。芭蕉の「旅に病んで 夢は枯野をかけ巡る」と同じ心境だ。芭蕉は俳句と文章の両方を持っていたから今日まで残っている。自分は芭蕉を超えるつもりで仕事をしている、と語っていて感銘を受けた。 新田次郎も「春風や 次郎の夢の まだ続く」も同じ心境だ。かくありたいものだ。