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バンドネオンがノスタルジーをくすぐるトリオ・ショーロ 〜 ヤマンドゥ・コスタら

(3 min read)

Yamandu Costa, Martin Sued, Luis Guerreiro / Caminantes

ブラジルの七弦ギターリスト、ヤマンドゥ・コスタ。いまはポルトガルのリスボンに住んでいるんでしたっけ?コロナ禍でかえって活動が活発化しているなかのひとりで、こないだ今年二作目のアルバムがリリースされ、いつものんびりのぼくなんか、あせっちゃいます。

その10月末リリースだった今年二作目はベーシスト、グート・ヴィルチとのデュオでやるカヴァー集。2014年にもありましたね。今回もラテン名曲など、たいへんに充実していて感心しました。が、やはり順番どおりに、六月に出ていた一作目のほうから書いておくことにします。

その『Caminantes』(2021)は、ヤマンドゥ(ギター)+マルティン・スエー(バンドネオン、アルゼンチン)+ルイス・ゲレイロ(ギターラ、ポルトガル)というトリオ編成。ちょっと聴きなれない三重奏ですよね。演奏は基本的にショーロが土台になっているかなと思います。リスボン録音だったそう。

こうしたホーム・セッションも、コロナ時代だからこそちゃちゃっとできちゃうっていう面があって、だからアルバム・リリース・ラッシュになっているんでしょうね。それで、『Caminantes』ではヤマンドゥのギターのうまさもさることながら、マルティンのバンドネオンのサウンドが目立ちます。

これは楽器特性ということもあるのでしょう。電気増幅しないかぎり音量の小さいギターに比べたら、バンドネオンは空気でリードを振動させる仕組みだから、そのものが持っている音量が大きいですよね。ましてやこのアルバムではもう一名がギターラなので、いっそうバンドネオンが目立つということになると思います。

そのマルティンのバンドネオン、アルゼンチン人奏者ということでこの楽器だと、どうしてもタンゴを連想しますが、アルバムにはたしかにタンゴ調の曲や演奏もあるものの、ヤマンドゥの音楽性にあわせた淡々とした典雅なショーロ・スタイルをとっているのが好感触。ちょっとアコーディオンっぽい印象もありますね。

音楽的な主役も、やはりバンドネオンかなあという気が、ぼくはしています。ちょっとノスタルジックで、独特の情緒をくすぐるこの楽器の音色こそが、ふだんのヤマンドゥのショーロ・ミュージックにはない色彩感を与えていて、聴いているだけで快感ですね。

ショーロも古くからある音楽ですが、ここではバンドネオンが参加することによって、20世紀初頭っぽいラテン・アメリカン/ヨーロピアンな郷愁をくすぐる独特のフィーリングをかもしだすことに成功していて、クラシカルで優雅で、洗練されていながら野性味も失っていないこの音楽は、その時代その地域のことをなにも知らないぼくだってタイム・スリップしたような気持ちよさを味わえます。

(written 2021.11.2)

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