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舞台 「いい人間の教科書2024」 観劇レビュー 2024/07/14

劇団      :劇団アレン座プロデュース
演出・構成   :鈴木茉美
出演      :星元裕月/栗田学武/桑原勝/川本光貴/河合龍之介
上演会場・日時 :すみだパークシアター倉(2024年7月6日~7月14日)

【感想】
第2回カンゲキ大賞に選考委員として参加した際、前作を映像で拝見した。本作は共通のプロットを使用しているものの、演者も台本も大幅に入れ替わり、新しい舞台へと変貌を遂げていた。映像で観たものと舞台で観たものを単純に比較するのはフェアで無いし、前作も非常に素晴らしい作品であったが、私個人としては今作の方が心に響いた。登場人物たちが与えられた極限状況の中で非難の応酬を繰り返すというのが本舞台の根幹であるが、登場者全ての人間性が暴かれた末に生じる相互理解や許容、いたわりといった感情の変化の描写がより丁寧になったことが、前作との一番大きな違いであるように感じた。これは観劇者にとっても大きな救いとなるであろう。

配られたカードでプレイを続けるしかないのが人生であり、我々は自分の気質や能力、状況といった制約の中で必死にあがくしかないという、ある種の開き直りが本作の主なメッセージであると思う。そして、それを深いレベルで共有できた人とは、もはや他人ではなく、互いを自分事として思いやれる関係が築けるというのも、もう一つのメッセージであると感じた。なんなら私もあの輪に入って自分の人生をぶちまけたい気分にすらなった。まあ、私のようなひねくれた中年男としては、こういった人間心理を善用したのがグループセラピーであり、悪用したのが自己啓発セミナーであるとも感じたが、それはそれとして。

出演者の年齢設定を20代前半から40代前半に絞ったのも良かったと思う。それ以上の年齢設定になると(役者への女性ファンがつきにくいという事情もあるかもしれないが)、良くも悪くも人生が落ち着いてくるのである。個人史を振り返ってみても、この年代が一番辛かった。一番生きている実感があったとも言えるが、それは今から振り返っての話である。今からあの時代に戻りますか?と神様だかに提案されても、私は断固拒絶するよなぁ、とも感じた。

【お話し】
お話しが始まると、舞台上には5人の若い成人男性。互いに面識も何の繋がりも無く、それぞれ謎の力で拉致されて、ここにまとめて監禁されている状況。漫画(映画版もあり)のGANTZをご存じの方は「アレに近い状況」で伝わると思う。

出口の見つからないその部屋の中で混乱していると、頭上に出現したディスプレイに「只今をもって、あなた方を拘束します」「いい人間を1人選んでください」と指示が与えられる。1人だけ開放してもらえるのかもという希望が与えられた状況で、5人それぞれの私物が、順に出現する。その私物の所有者に対しての周囲からの質問は、その人が決して他人に話したく無かった、もしかしたら自分自身でも認めたく無かった、人生や人格に大きな影響をもたらしたエピソードの告白に至らせる。それに対する厳しい評価、本人の申し開きが続き、5人全ての人生や人格が容赦なく暴かれていく。この、誰が一番良い人間かを決める無遠慮な「話し合い」の末に、なぜか互いを深く思いやる仲間意識が芽生える。

【演出】
登場人物5人それぞれの「話し合い」の後に、責めを受けていた登場人物の長いセリフ、直後に続くキレキレダンス。このあたりは前作と同じだが、今回は、パントマイム的な、どことなくPerfume的なダンスも入っていたりして、ヴァリエーションが豊かになった。また、スモークとレーザー光線を使用して光の壁を出現させ、それがバリア的に機能しているという演出も加わり、神様だか宇宙人だかの人知を超えた力が働いているのだという絶望感が、より強く伝わった。
客席配置は、舞台を取り囲む4面それぞれに観客席を設けるという珍しいもの。なので、舞台を観る角度が変わると、受ける印象が変わる可能性がある。出演者のファンとかなら、複数の公演を違う客席から観たくなるかもしれない。

【観客層】
イケメン俳優が沢山出演する舞台なので、圧倒的に若い女性が多い。前作は映像で見る限り、観劇者のほぼ全員が若い女子。今回は、もしかしたら「カンゲキ大賞」受賞作品というのもあって、私のようなオヤジ1人客もチラホラ。舞台正面席の2列目で観劇したが、最前列に座っていた女性1人客は、舞台が始まる前に熱心に化粧を直していた。いつも、しぶめの舞台ばかり観ているので、こういった状況は初めて。これはこれで興味深かった。

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