アメリカの現実⑬「Diversity of experience:チーム構築において本当に重要なことは経験における多様性」
Biden政権の様々なスタッフや閣僚候補が発表されるたびに、現政権との違いに驚く。言わずもがなで、現政権の重要閣僚やメンバーは白人男性で多く占められており、両チームは視覚化するだけで、その差異は歴然としている。ここで、はたと気がついたことは、「Diversity & Inclusivity」を語る時、通常、多くの人達は、人種、性別、年齢、性的指向性(LGBTQ+)という多様性を言及するが、それらを超えて、個人がそれまでに獲得した、「経験」に関しての「多様性」はどうなのか?という点である。
Biden政権のコミュニケーション担当のシニアスタッフは、結果的に全て女性となる
大統領のコミュニケーション担当のスタッフは非常に重要な役割を担っている。特にCOVID-19が猛威を振るい、虚偽情報や陰謀論がソーシャルメディアを通じてばら撒かれ、分断が深まる米国において、大統領および政権の真意を正確に分かり易くパブリックに伝えるシニアレベルのスタッフは、人々が納得できるコミュニケーション能力とスキルを持つ人が選ばれるべきである。
米国の企業におけるマーケティング及びコミュニケーション担当は、女性が多くを占める。単純に性差を持ち出してコミュニケーション能力の優劣を語るのは好まないが、子供を育てる性である女性は、集団内の意思疎通がうまくいくように、長い人類史の中で、コミュニケーション能力が、男性より必然的に発達したのかもしれない。今回の大統領選挙で、Bidenを大統領にしたのは、サマライズすれば、女性有権者のチカラと言えるが、その状況を考えれば、そうした女性達への配慮があったにせよ、選択の結果、全員女性となったというのは、自然なことなのかもしれない。
多様性の中で今後注目すべきは「Diversity of experience(経験における多様性」
この7名は、人種及び性的指向性(LGBTQ+の女性もいる)においても多様性がみられるが、ここで最もポイントアウトしたいのは、7人の女性のうち6人が年の若い子供を抱えるWorking motherだという点である。VPのKamalaにも義理の子供達がいるが、彼らは既に成人している。この6人の小さな子供を持つWorking mothersが、子育てをしながら勤務することは、Working motherの視点及び経験を、ホワイトハウスに持ち込むことを意味する。
これは非常に重要な「Diversity of experience(経験における多様性)」の事例と言える。
また経済担当の重要なポストにつく候補者も、以下の画像が示すように、「経験」において非常に多様性に富んでいる。元Federal Reserve chairのJenet Yellenは女性初の財務長官候補であり、No2の経済担当候補となったWally(Adewale) Adeyemoは、ナイジェリア生まれのアメリカ人で、父親は教師、母親は看護婦、2ベッドルームのアパートメントで2人の弟と妹共に育った39歳の俊英である。
ここでも人種・年齢・性別を超えて、優秀な人材の「固有の経験」をチームに持ち込み、難問が山積みする経済問題を様々な角度から解決すべく「経験の多様性」を生かす戦略が目につく。
「経験」を加えることで、真の意味での「Diversity & Inclusivity」が実現可能となる
調査によると、女性役員比率の最も高い企業は、女性役員比率が最も低い企業より、ROIにおいて66%も好結果を創出するというデータがある。
この女性役員がいることのメリットの一つは、「視点の多様性」が広がることである。これは取締役会における審議の質の向上を意味する。複雑な議題が絡む場合は、このメリットがいっそう顕著になる。なぜなら複数の異なる視点があれば、より多くの情報が得られるからである。
さらに、女性役員は、男性同士のネットワークに属しておらず(Boy's Clubには入らない、入れない)、男性役員に比べて(多数派への)同調や迎合をする傾向が低く、独自の見解を表明する姿勢が強い。したがって女性メンバーがいる取締役会は、企業戦略の意思決定の場で、CEOに異議を唱え、より広範な選択肢と賛否両論を検討するように迫る傾向が強く、それによってCEOの自信過剰が抑制され、バイアスの可能性をはらむ考え方の是正につながる。
この説明の中の企業を政府・政権に、CEOを大統領に変えれば、如何に「視点の多様性」が政治において重要かは一目瞭然である。この企業内の女性取締役の役割をより拡大させると、以下のような公式が成り立つ。
人種+性別+年齢+LGBTQ++経験(外国生まれ、異なる職種&ライフステージなどEtc.)= 真の意味での「Diversity & Inclusivity」
異論の持つチカラ
悪い決断とは、インテリジェンスやナレッジの欠落で起こるものではない。悪い決断は、ソーシャルプロセス、すなわち他の人の意見や予想可能なグループプロセスといったものによって、強く影響される。ソーシャルプロセス(=常識的なバイヤス)は、我々が気がつかないうちに、我々の考え方をしばしば変えてしまう。
政治やビジネス、さらに人生における決断で、重要なことは、ソーシャルプロセスによって、無意識に大きく影響を与える常識的なバイヤスの力を弱めるために「異論に触れて、そのショックによって想像力を拡張し、予想できないものへと向かおうとする、自らの意思」である。
人は、自由に連想しようと思っても、それほど自由にはなれない。例えば、「青い」という言葉に関して自由に連想しようとしても、答えは「空」や「海」などが出てくる。人間の連想は言葉によって形成され、そして言葉は、ありきたりな表現に満ちている。
カリフォルニア大学バークレー校心理学者Charlan Nemethの実験によると、「異論」する人を入れた被験者グループは独創的な連想をし始める。「青」を見て「空」、「緑」を見て「草」を思い浮かべる代わりに、彼らは連想を広げ、「青」から「マイルス・デイビス」や「マネーロンダリング」を思い浮かべるようになり、ありきたりな答えばかりが出てくることはなくなった。
「異論」の持つ力は、驚きの力に他ならない。間違った答えが叫ばれるのを聞くこと、つまり青が「緑」と言われるのを聞くショックにより、人は色の持つ意味をもう一度考える。その結果、青を空に安易に結びつけるわれわれの緊張感のない連想は、影を潜める。予期せぬものと出合うことで、人間の想像力が大きく広がる。
質の高い決断とクリエイティビティのある解決のための必要なのが、この異論のチカラである。
これを得るためには、まずチーム内を、人種+性別+年齢+LGBTQ++経験(外国生まれ、異なる職種&ライフステージなどEtc.)= 真の意味での「Diversity & Inclusivity」に満ちたメンバーで構成することが必須である。
どうやら、Biden政権はこの方向に行きそうなので、私は楽しみに思っている。彼らがどういうOutputを出すかを期待したい。