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鏡のなかの言葉(定期購読)

映画監督松井久子が編集長となり、生き方、暮し、アート、映画、表現等について4人のプロが書くコラムと、映画づくり、ライティング、YOGA等のワークショップ、そして編集長がお勧めする…
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2021年9月の記事一覧

LEONIEとマイレオニーの旅23

アメリカロケ、ふたつの思い出雨が多いと言われたニューオリンズの4週間にわたるロケの間「監督は晴れ女」の面目躍如で雨天の日はたった一日しかなかった。さして大きな問題もなく、順調に進んだアメリカ撮影のなかで「そうだった、そんなこともあったなぁ」とほろ苦い気持ちで思い出すことが二つある。 その二つは、どちらも撮影14日目に起きたことだった。 監督のこだわりとわがままは紙一重映画を観た人には思い出してもらえるかもしれない。 医者から妊娠を告げられたレオニーが、自分への祝いのために百

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読書会に行きませんか?他人のペースに合わせられなかった私が3年続けている、希望のために重ねる学び【つくり手であること】

ライターである前に、言葉の力を信じるひとりとして、また、社会変容を願って日々行動しているひとりとしても、本が好きです。 本の世界は無限に広く、本の読みかたやペース、冊数、読む理由だって千差万別。世界にいろんな「本好き」がいること自体が愛おしくも感じます。 個人的には、読むペースが読みたいペースに追いつかないことが長年の悩みで、常に「もっと本を読む時間をつくりたい」という課題も否めません。 なぜそんなに本を求めるのか?と自問してみると、本を選ぶことで自分の興味関心の矛先を自

自分史コラム ジョニー・デップ最新作 『MINAMATA』を観る前に知ってほしいこと(ネタバレなし)

ハリウッドスター ジョニー・デップさんが現在、日本でどれくらい有名なのか、私は知るすべもありませんが、彼はこれまでどちらかいうとキワモノ的な役が多く、好き嫌いは別として認知度は高いはず。 そんな彼が最新作のテーマとして選んだのはなんと「水俣病」だと知り、とても驚きました。 つい先日、彼自身が製作し、この公害病を追い続けたフォトジャーナリスト、ユージン・スミスさんを演じた9月23日公開の映画 「MINAMATA」を観てきました。 このコラムは、これからこの映画を観る方や、水俣

稲木紫織のアートコラム・Arts & Contemporary Vol.32

『健康的なエロ展』開催中 NOSE art garageで松井監督と アーティストNagohoが対談 表参道と青山通りの交差点。表参道交番隣の山陽堂書店から、2軒先の加藤ビル5階に、居心地の良いインティメイトなギャラリー、ノーズ・アートガレージがある。9月30まで開催中の『健康的なエロ展』を松井久子監督と訪れ、このギャラリーを運営し、キュレーションを担当するアーティストのNagohoさん、同じく企画を手掛けるパートナーでアーティストのMisilさんとお会いした。9人のアーチ

自分史コラム 「自分史」の巨人逝く

ある歴史家の軌跡 去る9月7日、一人の歴史家がこの世を去りました。 その人の名は「色川大吉」さん。享年96歳の大往生でした。 民衆史研究の先駆者として知られる歴史家で東京経済大名誉教授の色川大吉(いろかわ・だいきち)さんが7日、老衰のため死去した。96歳だった。告別式は故人の遺志で行わない。 (中略) 東京・多摩地域の自由民権運動をテーマに歴史を掘り起こし、『明治精神史』(1964年)にまとめて脚光を浴びた。この研究が、五日市町(現あきる野市)で作られた明治時代の私的な憲

なかほら牧場発、これからの食と農を考える⑤

我が国の酪農史 我が国の記録に残る酪農史は平安初期にできた『新撰姓氏録』に高麗からの帰化人知聰の子、福常(別名善那)が第36代孝徳天皇(569~654)に牛乳を献上し、天皇から賞され和薬使主(やまとくすりのおみ)の姓を賜ったという記録がある。 その後、牛乳院という組織が作られ乳長上(ちちおさのかみ)という職掌が天皇御用の牛乳を搾っていたと記されている。 その後は仏教の普及もあり江戸時代まで記録として残されているのはほとんどない。江戸時代に入り8代将軍徳川吉宗が千葉県の嶺岡(

断捨離③

分厚い日記帳のなかに、黄色く焼けた一枚の情宣ビラが挟んであった。 冒頭を引用してみよう。 昨日学校当局は、19名の除籍を含む40名の処分者を決定した。しかも、この処分は第一波の処分であり、今後も追って更なる処分を決定するということである。我々は、まずもってこの処分が全く不当なものであり、我々の闘争に対する徹底した弾圧の狼煙であることを全早大の学生の名をもって糾弾しなければならない。 この頃、日韓条約に抗議する政治運動から<学費・学館闘争>と呼ぶ授業料の値上げ反対、学生会館

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断捨離②

箱の中に一冊残っていた、フランス語の副読本段ボール箱に仕舞われた日記や手紙の類を、ぱらぱらと読んでは捨てていくと、箱の底のほうから薄い冊子が一冊出てきた。 紺のクレヨンで、時計台や大隈講堂のスケッチ画の描かれたカバーを外すと、どうやらフランス語の副読本のようだが、今ではもう何と書いてあるのか、タイトルの意味さえわからない。 ただ、著者のアラン・ロブ=グリエという名前は覚えている。たしかフランスのヌーボー・ロマンの代表的な作家だったと思いながら奥付を見ると、編者は当時早大の助

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稲木紫織のアートコラム・Arts & Contemporary Vol.31

『マルジェラが語る “マルタン・マルジェラ”』 9月17日、公開 マルタン・マルジェラというファッションデザイナーをご存じだろうか? 1988年、メゾン・マルタン・マルジェラを創立し、2008年、最後のパリ・コレクションでメゾンを離脱するまで、最もクリエイティブな天才デザイナーの一人でありながら、公の場に一切登場せず、撮影や対面インタビューにも応じない匿名性を貫き、突然の引退から10年以上経った今も、大きな影響力を持つ謎めいた彼のことを。本人自身が自らを語ったドキュメンタリ

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LEONIEとマイレオニーの旅22 親子編⑤

伊藤勇気プロデューサー ロングインタビュー 第9回 エミリー・モーティマーとの出会い◆レオニー役はエミリーしか考えられない ―― 勇気さんは以前から、エミリーの演技と人柄でこの映画は助けられたとおっしゃってましたが、エミリーってどんな人ですか? 勇気 魅力のある人、としか言えないと思います。 誰がレオニーをやるのか、というのを最初に考えた時、ハリウッドの錚々たる女優が候補としてリストに挙げられてたわけです。最初からエミリーの名前は出ていましたけど、ただ一番最初は、もっと