アメリカでのオーケストラ漫遊 シカゴ編
日本にいたときからクラシック、吹奏楽のコンサートに行く機会はあった私だが、日本では少しクラシックオーケストラの演奏会に苦手意識があった(吹奏楽なら大丈夫)。演奏を聴いているとなぜか自分の意識が脳内の過去のあまり思い出したくない暗い記憶や自分のダークサイドの妄想の世界に引き摺り込まれていく感覚があるためだ。そんな私がアメリカに住み始めて半年後に初めて行った演奏会から、アメリカのオーケストラの演奏にどっぷりとハマってしまった経験と記録を残したいと思う。
2022年5月21日 シカゴ交響楽団
5/21/2022, Sat, 8:00 pm, @ Orchestra Hall, Chicago
Chicago Symphony Orchestra
Karina Canellakis, conductor / Kirill Gerstein, Piano
Brio / THOMAS
Piano Concerto / SHUMANN
EIN HELDENLEBEN / R. STRAUSS
この演奏会は私にとって初めてのシカゴ交響楽団を初めて聴く機会となった。シカゴ交響楽団といえば、ベルリンフィル、ウィーンフィルとも並ぶような世界有数のオーケストラとして有名、特に金管セクションの厚みがものすごいという評判を聞いていた。
この演奏会の目当てはもちろん管弦楽のサウンドを楽しめる「英雄の生涯」。金管セクションの厚みがこのホールでどのように聞こえるのか、が最大の楽しみだった。
そもそもシカゴに行くのが初めてだったので、デトロイトからの道のりやダウンタウンの運転自体も少し心配だった。土曜日の午前中に自宅を出て、夕方前に着いて市内散策。ミシガン湖を望む公園を散歩して、アメリカ有数の都市であるシカゴという街の活気に気圧されそうになりながら、なんとか食事をとってコンサートに備えた。
シカゴ交響楽団のコンサートでは、演奏会の1時間半前から楽曲解説を聞くことができる。もちろん全部英語だけれど。コンサートホールの中は赤基調のカーペットと座席と全体にドーム形状の片側に舞台、舞台後方にも座席があって、通常のオーケストラ編成のコンサートではその席も販売している。
開演に備えて自分の席に座って、音出しの音を聞いているだけで期待感がどんどん膨らんでいって、開演までにこの演奏会に来て良かったという気持ちになり、1曲目、2曲目と聞いた後にはもう感動しっぱなし。コンチェルトももちろん素晴らしいけれど、やっぱりオーケストラの本気の演奏が聴きたい。休憩を挟んで、「英雄の生涯」が始まると、コンチェルトとは違った見事なサウンドを楽しむことができて、金管楽器の厚みの次元が違う。そんなにやるんだ、でも全然邪魔じゃない、気持ちいい、という感覚がとても新鮮だったと記憶している。
今調べてみると、指揮のKarina Canellakisは気鋭の指揮者のようで、アメリカ人だが今はオランダ放送管弦楽団の主席指揮者をされている。アメリカでも年に何度か指揮をしているようだが、毎年シカゴ交響楽団で振るわけではないようなので、いいタイミングで聞くことができたと思う。
2022年10月8日 シカゴ交響楽団
10/8/2022, Sat, 8:00 pm, @ Orchestra Hall, Chicago
Chicago Symphony Orchestra
Riccardo Muti, conductor / Eric Lu, Piano
Le chasseur maudit / FRANCK
Piano Concerto No.27 in B-flat Major, K595 / MOZART
Pictures from and Exhibition (orch. Ravel) / MUSSORGSKY
前回のシカゴ交響楽団の演奏会に味を占めて、今回もシカゴ交響楽団で聴いて間違いないという曲を聞きにやってきた。「展覧会の絵」は多分高校生のとき、ジュリーニ指揮シカゴ交響楽団のCDをMDに落として聴いていた記憶がある。当時の友人からシカゴ交響楽団は世界一の楽団だと聞きながら。たまたま私がアメリカにいるタイミングでこの夢のような組み合わせを楽しむことができるとあっては、外すわけにはいかない演奏会だった。
そして、このときまで、Riccardo Muti氏がシカゴ交響楽団の
音楽監督だったことを知らなかった。超有名な指揮者でテレビの向こうの人だと思っていた人が、目の前で振ってくれるなんて夢のよう。
また、この日のピアニストは当初予定ではMaurizio Polini氏で、この人もまた、私がピアノを習ってきた頃からよく聴いてきた有名ピアニストでぜひ生で聴いてみたかったが、残念ながらこの日はキャンセルとなって、代役のEric Lu氏にとなった。
当日の席は舞台後方、金管楽器群の真上の最前列を確保した。そして、TubaのPokorny氏の音を生で聞くべく、まさに真上の席。Muti氏の指揮を楽しみながら、さながら自分が合奏に参加しているかのように楽しめたらいいと思っていた。
正直なところ、「展覧会の絵」の記憶が衝撃的すぎて、もちろん素晴らしっかった前半のピアノコンチェルトの記憶がほとんどない。ポリーニの代役とは誰でも務まるものではないと思うが、堂々とした演奏だったと思う。
「展覧会の絵」に関していえば、冒頭の「プロムナード」を吹くトランペットからして、ただ真っ直ぐな音というだけではなく、絶妙な音の揺らぎがあるのが、人のなせる技だと感じたし、Pokorny氏の真上なだけあって、Tubaが鳴るたびに床に振動が伝わってくるという、音楽を体で感じることのできる素晴らしい座席だった。Muti氏の指揮を正面から見ることができて、本当に自分も曲に参加しているような感覚を楽しむことができた。
やはり、金管セクションの分厚さが素晴らしく、曲のクライマックス「キーウの大門」は夢見心地であっという間に終わってしまったという印象だった。昔から聴いてきたシカゴ交響楽団の「展覧会の絵」を生で聞くことができて、本当に素晴らしい演奏会だった。
ちなみに、この日はシカゴマラソンの前日の土曜日で、駐車場に入るまでの渋滞が酷かった。Grant Park周辺の人出はとても多くいつも以上の活気のある街だった。コンサートの前、夕方に日本風のフワフワなパンケーキを出すお店にも行ってみた。美味しい食事も取れて満足の1日だった。
Hanabusa Cafe, Chicago
https://www.hanabusacafechicago.com