エビフライの尻尾みてえな恋をした。
おっけー、エーアイ。エビフライの良いところ教えて。
ピーーーー ガガガガ…ピーーーーーー!!!
「エビフライには、次のような良いところがあります。①栄養価が高い:エビフライには、調理過程でマイアード反応によりタンパク質が豊富になり、焼き上がった後には抗酸化物質が形成されます。②肌トラブルを防ぐ効果:アスタキサンチンを摂取すると、抗酸化作用によって活性酸素の働きを抑えることができ、肌トラブルを防ぐ効果が期待できます。③肝臓の脂肪を予防する効果:アスタキサンチンには、肝臓に脂肪がつくのを防ぎ、肝炎や肝…
つまり、ウマくて最高。
エビフライ食ってるやつなんて100パー栄養なんて気にしてねえし、もれなく全員ザリガニみてえな肌してるし、肝臓どころか脳みそまでタルタルソースでカロリーたっぷりって決まってんだよ。その証拠にエビフライ食ってる奴の語彙なんて「ん~、ぷりっぷり♡」とかタルタルソースかけまくって「俺タルタリストだから~!」とか呟く程度だろ。海老みそのほうが遥かに賢いわ。
エビフライのなにが良いって、もうビジュアルからして逸脱してる。キツネ色のサクッとした衣に、ピョロッと飛び出た愛嬌のある尻尾。このまま大人しく食われてたまるかと反抗的に反った曲線。この世で最も美しい立体。
そして食感。ひと噛みすればサクサクと弾かれたような刺激と連鎖する興奮、永遠とも思える祝福の拍手。その先にある柔らかさとぎゅっと詰まった緻密さを合わせ持つ身。衣と海老、片方では決して成しえなかった結末が混然一体となって希望へと誘う。母さん、腰が曲がってもずっと元気でいてくれるかい。
一口に「エビフライ」と言っても、この世には無数のエビフライが存在していて赤い海老のエビフライ、黒い海老のエビフライ、頭が付いてるエビフライ、衣が分厚いエビフライ、ソースがかかったエビフライ、レモン乗ってるエビフライなどひとつとして同じエビフライは存在しない。
確実なのはそこに「普通」というエビフライが存在しないということ。
ぶ厚い衣にほっっっっそい海老のミイラが閉じ込められてる「棺桶のエビフライ」か、「完璧で究極なエビフライ」だけだ。つまり死霊の腸か超ウマいかの二択。なにごとも「普通」を目指してきた俺には決して辿り着けぬ極地にエビフライは立っている。テストで必死に平均点を目指してる俺。本当は給食の余ったプリンおかわりしたいけど、もしもジャンケン勝ったあとどんな顔して席に戻ったらいいか分からないから「通は茶碗蒸しっしょ」つって目立たないように過ごしてる俺。むしろ弄られれば輪に入れるのに小っっっっせープライドが幅利かせてるせいで「テッペイまたなんかやってるよ~」って横で笑ってる俺。エビフライは誰も彼もそんな俺にもいつも通りそこにある。
で、「尻尾」残す奴なんなの?
このまえ合コンで「えー、アタシお茶碗にお米ベタベタ残してるひとムリー」「わかる俺ん婆ちゃんが田んぼやってっから米無駄にするやつほんと許せねえわ」「米ひと粒ひと粒に神様が宿っている」とか言って盛り上がってたけど、俺はお前らの皿の上に残されたエビフライの尻尾とずぅーーーっと目が合ってたからな。eye to eye。気付けば俺と彼女は恋に落ちていた────。
8月の夏のこと。照らす太陽。降り注ぐ蝉時雨。クーラーのよく効いた洋食屋で俺たちはエビフライを食べていた。店内に流れていたのは、たしかショパンの『舟歌』だったと思う。筆で描いたような長く美しい二つに結われた黒い髪。つぶらな丸い瞳。赤いワンピース。「あのとき、私を見つけてくれてありがとう」彼女はエビフライの尻尾をツツいてこう言った。
「いやぁ~、当然だよ。尻尾残すやつってありえなくね?ウマくね?ふつーに。
あとさ、尻尾反対派のやつって決まって『海老の尻尾と虫って同じ成分でしょ』ってピーチクパーチク抜かしやがるだろ?馬鹿かよって。じゃあ俺と橋本環奈は99.9999%同じだし、育ちがいっしょの竹内涼真なんか同一人物といっても過言じゃない。人間とバナナも遺伝子的には50%同じらしいぜ。お前は半分バナナかっつー話なんだよ。バナナはオヤツに入りますかーつって。じゃあそのクソガキ自身を半額勘定に入れろってんだよ。さぁ、お前の値打ちは100円か、300円か、それとも1億円?お前の命はいくらなんだよ。
逆に尻尾容認派にもいるだろ。『少しくらい無駄があったほうが良い』って達観した気になってるやつ。そのぶん感動が大きくなるって戯言抜かしてるやつ。馬鹿がよ。じゃあイチゴの一番甘い先っちょ以外は無駄なのか?甲子園を9回表から見て試合の総評をはじめる近所のユウゾウおじさんは正しいのか?『ウーゥウ~、きっとくるーきっとくるー』以外のフレーズを誰も知らねえ音楽ユニットHIIHの名曲「feels like “HEAVEN”」は9割雑音なのか?
容認した気になってる時点で自惚れ。お前らよりエビフライのほうが偉いからな。ウマいから食うんだよ。香ばしいから食うの。身と食感が違うから食うの。ってかこのエビフライ、タルタルソース付け忘れてね?全然味しねえよ。店員さーん、タルタル持ってき…………
」
気付くとそこに彼女はいなかった。
「へへっ、やっぱりこのエビフライしょっぺェや…」
窓の向こうで夕立が鳴る。
「さァ、帰ろう。ごちそうさま」
机のうえには空いた皿が一枚。
まるでその上になにも。
初めからどこにも存在していなかったかのように。
それでも、俺の胸には尻尾のイガイガが残ってる。
確かにそこに残ってる。
───── fin ─────
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