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【一生使えるCS道具箱 5/x】瞬時にスジの良い仮説と行動を導くための2つの人格と2つの眼【エンタープライズハイタッチCSMの心得】
「CS HACK Advent Calendar 2024」の21日目の記事となります。
こんにちは、朝でも夜でも比留間です。クラウド管理システム Loglassを開発・販売する株式会社ログラスのビジネス職8人目として2022年2月入社し、2024年10月までカスタマーサクセス職としてお客様対応やCSOpsに近い領域でマルチに働いていました。
2023年冬までは、オンボーディング、アダプション、オペレーションやサポート、契約更新やアップセルの営業活動、解約懸念対応までほんとうになんでもやっていましたが、CS組織の拡大に伴って、2024年は世間で言われるエンタープライズハイタッチCSMとしての動き方をしていました。
有難いことにお客様からも社内からも評価もいただけており、度々私の考え方や動き方をCSメンバーに度々伝えることがありました。その私の頭の中で高速で試行されている枠組みをnoteにしていきたいと思います。
お客様の理解と、社内情勢・状況の理解が必要不可欠で、一朝一夕にできるようになるものでもないのですが、この観点でくり返し考えていくことによって、確実に仕事のクオリティが高い人になれると思います。
セットアップ
SaaS企業のみならず非IT企業においても、製品やサービスを導入した顧客がいかに継続的に成果を得られるかを支援する「カスタマーサクセス(CS)」の重要性が増しています。ユーザーの課題は多様化し、テクノロジーの進化スピードも加速し、変化が早く大きい時代のなか、いかに迅速かつ的確に顧客の成功を後押しできるかが事業成長のカギを握ります。
しかし、特にエンタープライズでは複数のステークホルダーが存在し、短期的な要望から長期的な戦略まで考慮しなければならないハイタッチCSMの現場では、さまざまな視点が入り交じるため、意思決定が複雑化しがちです。日本企業特有の「お客様第一主義」や「現場優先文化」が追い風となる場合もあれば、行き過ぎてしまい自社の事業の継続性が脅かされるケースも少なくありません。
個社向けに開発や支援リソースをロックされてしまい、他のお客様対応が疎かになったのでは本末転倒です。
そうした複雑な状況下で、瞬時にスジの良い仮説・行動を導くためのフレームワークとして、本稿では「2つの人格」と「2つの眼」を組み合わせた4象限の整理方法をお伝えします。このフレームワークを活用することで、
カスタマーサクセスにおけるゴール(離脱率の低減やアップセルなど)を短期・長期両面で捉えやすくなる
お客様に寄り添いながらも、自社リソースや利益を守るための交渉を適切に実施できる
顧客と社内、現場と経営層など、複数のステークホルダー間をスムーズにつなぐコミュニケーションが可能になる
といったメリットが期待できます。
1. カスタマーサクセスにおける目的・効果をより明確化する
まず、本題に入る前に、カスタマーサクセス担当者が共通して目指すゴールを整理しましょう。
顧客の継続率(Churn Rate)の向上
アップセル・クロスセルによる売上増
顧客満足度(NPSなど)の向上
製品・サービスの利用定着率アップ
これらの指標を改善することで、結果的に企業の安定的かつ持続的な成長が見込めます。ただし、日本企業の場合、顧客企業内のさまざまな部署や上層部・現場担当者と対話する機会が多いのも特徴です。したがって「何が顧客の成功なのか」を理解し合い、それを実現する具体的なロードマップを設定しやすくするのが、カスタマーサクセスの重要な役割となります。
ところが、現場レベルでは「顧客の小さな要望」や「日常業務上の細かな課題」に追われ、一方で経営層からは「長期的に成果を出す投資効果」を求められることもしばしばです。こうした短期・長期の両立を図りながら、顧客と自社両方にとって納得感のある施策をタイムリーに打ち出すために、次に紹介する「2つの人格と2つの眼」が有効と考えています。
2. 2つの人格:代行者としての人格と交渉者としての人格
カスタマーサクセス担当者は、一見「顧客の成功を最優先に考える存在」と思われがちです。しかし事業である以上、自社側の利益やリソース配分を無視することはできません。そこで大切なのは、1人の担当者の中に2つの人格を持つという捉え方です。
2-1. 代行者としての人格
1つ目は「お客様の立場から問題を捉え、最適な解決策を先回りして提示する」という人格です。エンタープライズハイタッチCSMは、顧客企業の内部チームの一員であるかのように振る舞い、ゴール達成を支援する役割を担います。
現場レベルの課題を深掘りし、小さな改善で大きな効果が得られる点を見逃さない(ヒアリングスキル・構造把握スキル)
顧客企業の経営層や事業戦略に合わせた長期的なサクセスプランを提示する(ロードマップ設計・プロジェクト化)
問題点の可視化やROIの提示を通じて、顧客の意思決定を後押しする(セールススキル)
この人格が弱いと、顧客が何を求めているのか分からないままアクションを起こしてしまい、「的外れな機能追加」「求められないサポート提供」に終始してしまいます。
2-2. 交渉者としての人格
2つ目は「自社の利益やリソースを守りながら、顧客との折り合いをつける」という人格です。私がお会いするカスタマーサクセス担当は「ひと思い」で「世話好き」な方が多い印象です。私自身だれかを助けられるような人でありたいと思っているので共感する一方、行き過ぎれば「サービス過剰」「労力の割に利益が伸びない」といった不均衡を生む恐れがあります。
プロジェクト範囲外の要求やスコープ拡張が発生したときは、追加工数の見積もりや契約の再提示が必要
限られたリソースで最大限のパフォーマンスを発揮するため、優先度を再設定し、交渉のテーブルを設ける
自社にとって魅力的な長期パートナーシップを築くにはどうすればよいかを常に模索する
この人格が疎かだと、短期的には顧客に喜ばれても、自社の持続可能性を損ね、結果的に顧客にとっても悪影響を与えてしまうと考えています。
3. 2つの眼:虫の眼(ミクロ視点)と鳥の眼(マクロ視点)
さて、次は人格ではなく視点の話です。これはビジネスパーソンであれば有名な分け方だと思うので、サッと見ていきます。
3-1. 虫の眼:ミクロ・詳細で短期的な視点
「虫の眼」とは、目の前のプロジェクトタスクや短期の要望を、より細部までくまなく確認するという考え方です。
日常的なサポート問い合わせや小さな改善要求に素早く対応する(いわゆる"即レス")
UI/UXのわずかな使い勝手向上や作業手順の簡素化など、短期的に効果が見込める施策を重視
データ分析も細部まで行い、顧客の利用状況(利用率、活用度)を可視化して即座に手を打つ
カスタマーサクセスの日々の現場では、虫の眼によるきめ細やかな活動が大きく成果を左右します。人にマネできない物量の活動をすることもとても価値がありますし、お客様からの信頼も短期で得やすいと感じます。
3-2. 鳥の眼:マクロ・俯瞰的で長期的な視点
虫の眼とは対照的に、「鳥の眼」は、経営戦略やシステムの長期的な運用を見据えた大局的な捉え方を指します。
顧客企業の組織体制や将来ビジョンに基づき、必要となりそうな機能拡張や他ソリューション・アライアンスを検討する
業界全体や技術のトレンドを踏まえ、顧客のビジネスを数年先へ導くロードマップを提案する
自社としても、リソース拡張やサポート体制の強化をどのタイミングで実施するかを長期的に計画する
虫の眼が短期の改善を支える一方で、鳥の眼がなければ「目先の対応ばかりで先々のアップセルや事業拡大につながらない」といった状態に陥るかもしれません。
4. 2つの人格 × 2つの眼:4象限のフレームワーク
エンタープライズハイタッチCSMのなかにある「2つの人格(代行者/交渉者)」と、「2つの眼(虫の眼/鳥の眼)」を組み合わせると、以下の4象限を意識した思考が可能になります。
代行者 × 虫の眼
現場担当者レベルでの課題を丹念に拾い、短期的な成果を顧客にもたらす。
例:問い合わせ対応の充実、ちょっとしたUI改善で作業効率を上げるなど。
代行者 × 鳥の眼
経営層が抱く中長期的なビジョンを理解し、顧客にとっての将来的な成功を支援する。
例:顧客企業のDX推進計画に沿ったロードマップ提案、長期的なROIを高める仕組みづくり。
交渉者 × 虫の眼
自社の短期的な収益やリソース制約を考慮し、顧客に追加見積もりや契約延長の打診を行う。
例:サポート範囲外の要望があれば、工数や費用を明確化して合意を得る。
交渉者 × 鳥の眼
自社の長期的な利益確保や成長戦略を見据え、パートナーシップを構築するための交渉をリード。
例:エンタープライズ顧客との包括契約を結び、アップセルや他ソリューション導入まで視野に入れた提案を進める。
上記はあくまで一例であって、皆様の製品・サービスの特性、属する業界やカウンターパートになっている部署や職種によって、変わってくる部分が多かろうと思っています。
そして重要なことは、この4象限で考え、さらに考えたこと同士を自分の頭のなかで戦わせます。
ハイタッチCSMのリソースももちろん有限であり、この4象限のことすべてを担当する複数企業に走らせることはできません。
相互の影響は何か、何がもっとも本質的でレバレッジが利くことなのか考え抜くことが大事です。
もし、1人で考えるのが難しいようであれば、上長や同僚に相談して意見を求めるのもいいでしょう。
カスタマーサクセスのチーム内で、4象限というフレームワークを共通言語として持つと、それぞれの担当者が「今、どの人格とどの眼で話しているのか」を相互に認識しやすくなります。
「この商談は代行者 × 鳥の眼がメインだけど、必要に応じて交渉者 × 虫の眼に切り替えよう」
「顧客側の担当者はすでに鳥の眼を期待しているから、長期的なアップセル提案を考えよう」
「短期の解約阻止には、代行者x虫の眼のことをやらなければならないから2カ月の期間を区切ってやりきろう:
こうした共有があると、誰か1人に負担が集中するのを防ぎ、チーム全体でロールを柔軟に切り替えながら顧客に価値を提供できます。
やや色眼鏡もありますが、多くの日本企業は「代行者」人格が強くなりがちな可能性があります。すると、顧客の細かい要求をすべて受け入れる→自社リソースが逼迫してしまう→サポート品質が落ち、結果的に顧客にも悪影響が生まれることがあります。
対策として、「交渉者 × 虫の眼」を強化し、契約範囲や追加料金、サポート体制のメリハリを明確化しましょう。
またお客様企業は合意形成に時間を要することが多いので、「交渉者 × 鳥の眼」で長期的な協議スケジュールを設計し、余裕を持った交渉を進めるとよいでしょう。
5. カスタマーサクセスならではの“コミュニケーション”の重要性
5-1. 顧客企業内でのファシリテーション
エンタープライズハイタッチCSMは、顧客企業の現場担当者・管理職・経営層など多様な関係者とやり取りするポジションです。4象限を意識することで、誰と話すときにどの人格・どの眼が必要かを使い分けやすくなります。
現場担当者には「代行者 × 虫の眼」で寄り添い、短期的課題への取り組みをサポート
経営層には「代行者 × 鳥の眼」の視点から、長期戦略との整合性を示しつつ、「交渉者」として今後の契約拡大や投資のタイミングを提案
5-2. 社内での連携・情報共有
カスタマーサクセスを組織横断的に取り組むためには、プロダクトチーム、カスタマーセールスやマーケティングのナーチャリングチーム、サポート部門との協働も欠かせません。
「交渉者 × 虫の眼」で社内リソースや人員配置を細かく把握し、他部署と連携
「交渉者 × 鳥の眼」で、数カ月~数年先を見据えたサービス拡張やロードマップを社内に説得・合意取り付け
これにより、理屈の上では顧客側へのコミュニケーションでもブレなく速やかに対応できます。ただ、変化の速いログラスでの実体験としては、なかなか様々な部署の時間軸を揃えながら動かしていくというのは正直できなかったなと思っています。(観点として持っているのは重要)
6. おわりに:4象限を活かしてカスタマーサクセスを加速する
カスタマーサクセスの現場では、「お客様の代行者」としての人格と、「交渉者」としての人格をどう両立させるかが、ビジネスの長期的成功を左右するポイントです。
それに加えて、「虫の眼」での短期集中アクションと、「鳥の眼」での長期的・戦略的視野を組み合わせることで、顧客の深い満足と自社の持続的成長を同時に実現しやすくなります。日本の企業文化では特に、
現場と経営層の目線のギャップ
お客様第一主義がもたらす過度な対応
部署横断の連携不足
などが課題として浮上しやすいですが、4象限を意識するだけでも、これらの問題点を可視化し、スムーズな合意形成へと導くことが期待できます。
実際のコミュニケーションやチームビルディングの場面でも、「今は代行者 × 虫の眼で問題を解決しているけれど、長期的には交渉者 × 鳥の眼のステージに移行しよう」など、象限を切り替えるタイミングをつかみやすくなるはずです。ぜひ4象限のフレームワークを活用し、カスタマーサクセスをさらに加速させてみてください。
お読みいただいた方、そして属するチームにスジの良い仮説と行動が生まれ、解約率の低減やアップセルによる拡大、顧客満足度向上といった成果が得られることを願っています。
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お決まりのやつやらせてください。
私と話したい方向け。ポーカー向けになってますが通常キャリア相談もOKです。今は新規事業開発をしています。
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読者の方といつかご縁があることを願っています。
最後までお読みくださりありがとうございました。
株式会社ログラス
比留間
Pics from Unsplash, Soroush Karimi
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