龍樹(ナーガルジュナ)の論理形式については、明快な研究結果が発表されています。龍樹の論理形式として、定言論証式・仮言的推理・ディレンマ・四句否定が挙げられています。
ただし、前回の記事で述べたように、龍樹は本体の世界の論理でこれらを用いているため、あえて本来の形式論理学の原則を無視した使い方をします。龍樹が学んだ論理学は古代インドの論理学であるはずですが、我々現代人に馴染み深い古代ギリシア論理学を用いてみていきたいと思います。古代インドの論理学についはまた後の記事で触れていきます。
○古代ギリシアに由来する西洋の「三段論法」
●定言三段論法
三つの命題が定言的命題からなる三段論法です。下に一番簡単な例を示しておきます。
しかし、龍樹は自己の理論を主張するよりも、他学派の理論を批判することに専心したため、定言論証式を多用しません。そのかわりに仮言的推理・ディレンマ・四句否定が彼の武器となります。
●仮言三段論法
一般的に大前提のみを仮言命題(条件付き命題)にした三段論法のことです。ただし、大前提・小前提・結論すべての命題が仮言命題である場合もあります。仮言三段論法は、以下の形式に従う妥当な論証です。(上は肯定式、否定形なら否定式になります。下は純粋仮言三段論法)
○龍樹が用いるディレンマ
次回の記事で触れる四句否定(テトラレンマ)と異なり、このディレンマでは名辞の量化が行われません。ディレンマでは本体について議論が行なわれるため、本体が部分的にAであり、部分的にBでということは有り得ないのです。前の記事で例にした火と薪のディレンマで説明すれば、「ある薪は燃えていてある薪は燃えていない」ということは、薪の本質を燃えるものと同一であるか否かを論ずるディレンマにおいては許されないのです。因果関係等で、AはBと同一か別異かと選言するときも、本体についての議論となります。
次回は続きの四句否定を見ていきたいと思います。