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メディア化する企業2020
小林弘人さんの『メディア化する企業はなぜ強いのか?』が発売されてからもう10年が経とうとしている。
これはもはやブームというよりインフラ的な話で、不可逆な流れなのはもう誰がみてもわかること。SNSを始め、無料や低コストでWebを使った情報発信ができるいま、メディアを持つことのハードルはほぼないに等しい。
しかしそれでも、実際にメディアを持った場合の「運営コスト」というものがある限り、まだまだ企業の中ではメディアを持つことに対しての抵抗感は拭えないのかもしれない。
なんせ、メディアを立ち上げたものの、まったく運営していなければミスブランディングを招いてしまいかねないからだ。実際にTwitter などのSNSにしても、始めたはいいけれどまったく運用していなかったり、ただの日記となり信用を損ねているケースも目立つ。
今日はそんな背景のもろもろを踏まえた上で、「そもそも企業がメディア化することにどんな意味があるんだっけ?」という “そもそも” を探りながら、情報の整理をしていきたいと思う。
オウンドメディアマーケティング
マーケティング施策の一環としてオウンドメディアを始める場合、その企業がBtoC領域なのか、それともBtoB領域なのかをまずわけて考える必要があると思います。
BtoCの場合には実際の商品の「購入」にゴールがあることが多く、一方でBtoBの場合には「リード獲得」または「お問合せ数」をゴールにすることが多いのではないかと思います。
個人的にBtoCの領域(CtoC?)で最近気になっているのが『メルカリマガジン』です。特に良かったのがこちらの記事↓
『ティファニーで朝食を』の映画シーンに出てくる小物をサブカル的に取り上げながら、メルカリでそれらを販売しているページに随時遷移させていくという展開。
記事を読みながら、映画を観たときの記憶を呼び起こしながら、「ああこんなインテリアに囲まれたら楽しいかも…」と感情が動いたところへすかさずバナーを挿入。
抜け目がないようにも感じるかもしれなけれど、「ほしい」と思った瞬間に販売ページが見れるところにはむしろ好感さえ持てます。
『北欧、暮らしの道具店』のパターンと同じで、世界観の共有がすごく素敵にはたらいている事例だなと思います。
一方、BtoB領域のオウンドメディアであれば『ボーグル(BOWGL by Benefit One)』が事例として好ましいと思います。
こちらは福利厚生を扱う会社さんなのですが、「福利厚生」「働き方改革」「ワークライフバランス」などのキーワードで上位を押さえ、リード獲得へとつなげています。
好印象なのが、記事ごとにCTAを最適化させていて、とてもていねいな印象があることです。
本文においても、営業色とパブリックなメディアの立ち位置をうまくバランスさせている印象があります。
自社の営業メッセージも、読者にとって有益であれば「価値」に当然なります。そのバランス感がとても気持ちいいなと、私はそう思いました。
オウンドメディアリクルーティング
オウンドメディアを採用目的で使用するケースがとても増えています。プラットフォームとしてはnote やWantedly の活用も少しずつ事例も増えていますが、今回は自社メディアの場合で考えたいと思います。
基本的には「社員インタビュー」のようなもので記事が構成され、求職者が意思決定をする場面で貢献性の高いメディアです。
しかし逆にいうと、求職者でなければ基本的にはつまらないのが「採用メディア」の陥りがちなところです。そんなに社員インタビュー記事コンテンツをお金をかけて作らなくても、10数本あれば十分なんじゃないの? ということにもなるわけです。
そういった中でやっぱりこの「採用メディア」はいい!というものもあります。
ひとつはあまりに代表的ですが、メルカリの『mercan』です。
メルカリグループのメンバー全員が発信することができるコンテンツプラットフォームと銘打たれたメディアですが、興味本位で覗いてみると、これが意外と楽しい。
プライベート感が満載というか、読み込んでいくうちに自分もメルカリグループの一員じゃないかと錯覚させるものがあります。。
それともうひとつ、『グノシル(Gunosiru)』も個人的に好きです。
ひとり編集長でコンテンツ制作をしていると言われるこちらのメディアですが、社史にするようなつもりで網羅的に社員インタビューをしています。
入社した社員のうち9割以上がこのメディアを読んでから入社しているということで、社内の組織カルチャー伝承など、インナーブランディングの面でも効果的なように思えます。
こちらはオウンドメディアの成功事例として知名度もあるため、営業シーンでも「みてるよ!」と声をかけられることも多いといいます。タッチポイントが少ないBtoB営業でこういった関係性構築ができるのも副次効果のひとつかなと思います。
メディア化する企業には思想が必要
ここからは少し持論なのですが、企業が自社メディアを持つ場合には、自社に思想や文化があることが大切なように感じています。
最近ではインハウスエディターとして、社内に編集者を抱えるケースも増えています。そういった中で、ほんとう幸せそうにメディア運営に携わっている方の記事をみつけました。
Wantedly でインハウスエディターをされている加勢犬(かせい・けん)さんです。
このインタビュー記事を読むと、ことばをていねいに扱い、浸透させていくことの大切さのようなものを感じることができます。
私なりにこれを少し言語化してみました。
第1ステップとして創業者、または会社の「思想」があることが最初になります。その次に第2ステップで「社内文化」にまで落とし込まれていることが重要。
ここで表現する「社内」ですが、ギルド的にフリーランスを束ねる形で「アライアンス」が起こっている場合にも同様かと思います。
そして最後に第3ステップで「ブランド」として市場に浸透している、という流れがあるような気がしています。
この代表例が、ディズニーにみる「キャスト」の四文字ではないでしょうか。
今更ながらの成功事例ですが、ディズニーの「キャスト」の4文字はことばが果たす役割の最上級だと思っています。
— 大崎博之(ヒロさん)|文章を書く人 (@H_Yuki2014) May 22, 2020
たった4文字の中にディズニーの理念が浸透し、働く側は「誇り」を、ゲストは「ホスピタリティへの安心と期待」を最初からつくれている。
このアウトプットが「ことば」の本懐だなと。
たった4文字の中にディズニーの理念が浸透し、働く側は「誇り」を、ゲストは「ホスピタリティへの安心と期待」を最初からつくれています。
会社のミッションやビジョン、バリューを言語化して掲げている会社は多いですが、それを体現して社内文化にまで落とし込んでいるところはまだまだ少ないような感覚があります。
仮にうまく社内で浸透していたとしても、メディアを通してそれが市場とコミュニケーションされていなければ私たちにわかるはずもなく、そういうケースがもしあるのであればとてももったいないなと思います。
文化は「プロダクト」で語る方法と、「メディア」で語ることの両方があると市場にまで文化が浸透し、顧客の愛着やファン化、エンゲージメントの高さを生み出すことができると思います。
ディズニーが立ち上がった頃は、プロダクトで魅せることはもちろんのこと、その制作秘話や取り組みなど、外部のマスメディアを通じたコミュニケーションを市場とおこなってきたと思いますが、現代であれば自社メディアでそれができるわけです。
そういった意味では、「プロダクト」で文化を語れているにもかかわらず、自社でメディアを持っていないばかりにコミュニケーションを市場とできていないとすれば、それもまたもったいない話です。
こうして、「プロダクト」と「メディア」で語られたストーリーを通して人々の中に「ブランド」が形成されていくのだと思います。
コミュニティとメディアの関係
企業自らがかつての出版社や放送局のようにメディア化し、自社の伝えたいことをコンテンツ化。それをSNSやSEOを通してユーザーに届ける。
この一連の流れはプロセスであり、ゴールはコミュニティ化にある。これがコミュニティとメディアの関係です。
21世紀のメディアは、情報を提供してオシマイではなく、集めたユーザーたちのコミュニティ組成の力も内在させているわけです。そうすると何が換金化のゴールになるのか?ここで情報を届けることはゴールではなく、プロセス(過程)となります。(略)そうすると、目指すゴールはコミュニティに満足を与えることとなります。(p.63)
──メディア化する企業はなぜ強いのか?
メディアがコミュニティ化していく、一連の流れをざっくりまとめます。
メディアを起点に同じ価値観をもつ人たちがイベントに集まり、それが繰り返されるなかでコミュニティのようなものが自然と生成されていく…ということになると思うのですが、XD(クロディー)を展開する株式会社プレイドさんが実施しているCX DIVE などがイメージしやすいです。
オウンドメディアで世の中にCX(顧客体験)の思想を伝えつつ、タッチポイントとしてCX DIVE のようなイベントを展開しています。ほかにも冊子の刊行や、Slack を活用したコミュニティ展開もしています。
少し余談にはなりますが、私は個人のミッションとして「居場所をつくる」ことをずっと掲げてきました。
➀強みが生かされること
②価値観と合っていること
③流動性があること
この3つがそろっている状態を「居場所」と定義しているのですが、少なくともこの取り組みは②と③に大きく関与する気がしています。
もしこういったコミュニティの中で、自分の強みを生かせる仕事とマッチングすることができれば、それは「居場所」といって良い気がします。
少し話が脇道にそれましたが、つまるところオウンドメディアとは、
「プル型の顧客接点をつくり、コミュニティを生み出す取り組み」と表現してもおかしくないのではと思うのです。
ここでいうプル型の顧客接点というのは、事前にメディアを通して会社の思想を知っていて、社内の取り組みやプロダクトにそれらが体現されているからこそ起こる信用と信頼を呼び水にした接点です。
仮に下記のような課題を抱えている企業でしたら、取り組む価値は十分にあるといえます。
<Check>
・広報を外部メディア掲載に依存しているため、発信内容をコントロールできない
・インフルエンサーマーケティングなどで短期で認知を上げる施策に追われていて費用対効果が合わない
・下請受注で経営が回っていたので自社発信をしておらず、いざ求人を出しても採用コストが合わない
・組織カルチャーを理解した社員が入ってこないため、社員研修コストや離職率などで課題感が生まれている
・社内と社外とでイメージのギャップがあり、営業や採用に悪影響がある
・リード獲得をFacebook広告やリスティング広告などに依存してきたためCPAの高騰に対して対策が打てずにいる
・対面のプッシュ営業を中心に売上を作ってきたため、コロナ以降の売上をコントロールしかねている
メディア化する企業はなぜ強いのか
どんなに成功を収めたオウンドメディアも、世の中の状況に合わせて閉鎖に追い込まれてしまうニュースもよく耳にするようになりました。
個人的には、睡眠に特化した「フミナーズ」の閉鎖はインパクトがあったように感じます。
公開された記事の本数は1,000近くにおよび、2018年1月には、単月650万PV、400万UUを達成。睡眠関連のメディアとしては国内最大級のサイトとなり、多くの皆様から愛される媒体となることができました。
これほどの規模であっても閉鎖してしまうことがあるのだなと考えさせられた、オウンドメディアにかかわる人たちに衝撃を与えたニュースだったと思います。
そんな中、一度は閉鎖も検討されたという『THE BAKEMAGAZINE』のリニューアル再スタートはとてもうれしかった。
さまざまな目的をもって始まるオウンドメディアですが、その真骨頂にあたる部分というのは中長期にはたらきかける「ブランディング」だと私は考えています。
リード獲得、採用、認知…。オウンドメディアの閉鎖は、運用がうまくいかなかった場合に限らず、当初の目的を達成した場合にも閉鎖の選択肢が突如訪れます。
そんな中であって、メディアの立ち上げ期から自社のストーリーを紡いできたことによって生まれたブランドはかけがえのないものだと思っています。
懐かしい雑誌を引っ張り出してきて、孫と一緒にそれを眺めるというような、世代間を超えた物語が「本」や「雑誌」の世界では起こっています。
しかし、オウンドメディアの場合は懐かしさの余韻に浸ることなく「消滅」してしまうという側面があります。
文化やブランドについて、このnoteの前半に次のようなことを書きました。
➀自社や創業者に思想がある
②社内カルチャーとして浸透する
③市場に文化が伝播しブランドになる
そして私は思うのです。
ブランドとして市場の中で醸成をはじめたプロダクトやストーリーは、長き時を超えて、世代間を超えたほんとうの「文化」として刻まれると。
ストックメディアとして、オウンドメディアにしかできない役割がある。きっとそういうことも感じて、塩谷舞さんは『milieu(ミリュー)』を始めたのかもしれません。
スタートアップが生み出したFacebookやLINEが世界中のライフラインになったように、私の尊敬するクリエイターが作るものが東京の、日本の、世界の誇るべき文化としてこれからのシーンを築いていくだろうし、その状況はしっかり残していかなきゃいけない。だからこのサイトには、素晴らしいクリエイティブのことをたくさん紹介して、広めて、残していきます。だから1000年分くらいのサーバー費用を前払いしておきたいくらいです。どうか消えないでインターネット!
自社利益を超え、自社ブランドの醸成の枠を超え、日本の「文化」として、オウンドメディアが残っていくことに、大きな使命があるように思うのです。