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「そこには人がいる」

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第1章|視覚情報の消化不良

第1章|視覚情報の消化不良

はじめに

皆さんは、「自分」という感覚をもって、日々の出来事や人々、物事に向き合っているでしょうか。設計をするとき、シャッターを切るとき、誰かと対話をするとき——その瞬間に自分の「視点」は存在しているでしょうか。

私たちは日々流れ出る情報という「水」を、毎日疑うことなく飲み、日々体内に蓄積しています。スマホを見る、というのは既に情報を取り込んでいます。これは疑問ではなく、確信です。こうした現状

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第5章|建築家のビジョンと写真家の役割

建築家は人々の生活を見据え、住空間や公共空間を設計します。その背景を無視し、ただ構造美や素材の魅力のみを追求することは、建築の意図を一面的に捉えるにすぎません。建築写真は、人の気配やその場のスケール感を映し出すことで、空間の魅力を伝える役割も持つべきです。しかし、多くの場合、写真家はシャッターを切る瞬間が役割の終わりであるかのように振る舞い、そこに生きる人々の存在を意図的に取り除くの傾向があるよう

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第7章|生活の本質:建築と人々の姿

第7章|生活の本質:建築と人々の姿

ウィリアム・クライン:リアリズム探求が描き出す空間のリアル

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さいごに:人間らしさを再び

多くの写真家はカメラの焦点を建築そのものに合わせがちですが、実際には人の存在が空間に彩りと生命を与え、生活の奥行きを生み出す欠かせない要素です。ノイズと感じる気持ちは私にもよくわかります。しかし、建築写真は、どのようなメディアの意図があろうとも、建築のイメージを世界に伝える重要な役割を担っており、その発する物語性に細心の注意が求められます。

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