毒水を浄化した結果爆誕した絶景水没林を撮りに行った話
こんにちは、あなたのココロのスキマ♡ライカと写真でお埋めします、hirotographerです。
突然ですが水没林、スキですか?
本来土から生えるべき樹木が水面から突き出ちゃってる、あの感じ。少し奇妙で心なしか怖さすらも感じる独特の雰囲気。そこはかとない「違和感」こそが水没林に否応なく惹かれる理由である。
「人は土から離れては生きてはいけないのよ」とシータは言ったけれど、いやそもそもそれはラピュタの木の方が無理でしょ?と突っ込みたくなる気持ちをグッと抑えたことのある貴君であれば、この感覚を理解してもらえると思う。
ちなみに水没林には常時水没型、季節水没型の2種類がある。知らない方も多いだろう。
なぜなら私が今、勝手に分類したからだ(適当)。
前者の常時水没型は本来林だったところが自然、または人工的な影響で長期的に水没したもので、基本的に樹木は立ち枯れている。
美瑛の青い池などがこのパターンで出来上がった人工池だ。
青く美しい水面と立ち枯れて白化した樹木のコントラストが美しい。
一方、季節水没型は雪解け水などが一時的に溜まることで数週~数か月間、一時的に樹木が水没する。この場合、立ち枯れはしないため、新緑など樹木本来の美しさも味わうことができるのが特徴だ。
どちらも甲乙つけ難いところだが、季節水没型は時期が限られる分、レア度が高めになっている。
5月2日早朝。まだ夜も明けぬ内から私は岩手は湯田の水没林へと一人車を走らせていた。昨晩からの冷え込みで霧も降りてきている。天候の予報は晴れ。絶好の水没林撮影日和である。
期待に胸を躍らせ、少しアクセルを吹かすと、30m先の道路に転がっていた狸の遺体の上を通り抜けた。
・・・不穏である。
目指す場所は湯田ダムの手前、錦秋湖水没林だ。
毎年雪解け水が流れ込むこの時期にだけ姿を現すその景色は季節限定ということもあり、しばらく憧れの場所だった。
青い水面と緑の水没林の間に通り抜ける赤い鉄橋のコントラストが美しい、他にない水没林スポットである。
本来107号線の下道で向かうエリアであるが、昨年の地震による崩落リスクにより通行止めとなっているため、無料開放されている高速を使って最寄りまで行き、そこから少し戻る形でのアクセスとなる。少しずつ明けゆく空にはやる気持ちを抑えながらインターを降りると、未だ残る山桜に霧がまとわりつき、朝のひかりに輝いている光景を目にした。
「・・・これは絶景の予感」
気分は高まっていく。風景撮影の醍醐味は突然の天候の変化なども含め、想像しえなかった「神が降りる瞬間」に出会えることである。気象条件、ロケーション、時間帯、それらがすべて噛み合った瞬間というのは人間のコントロールの及ばないもはや奇跡の領域。撮影という行為を通したこの奇跡との対話は神との邂逅に他ならない。知らんけど。
さて、そろそろ地図上では目的の景色だ。
しかし・・・何かがおかしい。
水辺に近い若い木が完全に露出している。
さらに水辺には数台の重機が配置されている・・・・
溢れ出る違和感に運転スピードを落としながら思考を巡らせる。
・轢かれた狸
・閉鎖された107号線
・露出した川面近くの土砂と若木
・水辺付近に無造作に配置された重機
これらの意味するところは一つである。
ぽく、ぽく、・・・ちーん!!
107号線の復旧工事のために、今年は水没林は水没しないッッッッッ!!
ダムの下流へ水を流さず、錦秋湖の水位を下げたままでコントロールすることで、工事の効率化を図った、としか考えられないのである。
正しい・・・行政として非常に正しい判断。107号は秋田へ抜ける高速以外の生命線。水没林を水没させている場合ではないのである。
完璧なシチュエーションでの最悪の状況に私は岩手の広い空を仰ぐしかなかった。
やりきれない気持ちを抱えたまま、西へ爆走すること120km。元滝伏流水や獅子ケ鼻湿原という秋田南部の風景名所を巡り、早朝の絶望の傷を癒す。
風景撮影の傷は風景撮影でしか癒せない。
こんな極上の風景撮影スポットがゴールデンウィーク真っただ中だというのに、全然混み合っていない・・・東北にはまだ未開のWilderness(原生自然)が広がっているのである。
雪解け水で勢いを増した元滝伏流水は絹糸と緑の苔を織り込んだような美しさ。屋久島の白谷雲水峡も顔負けである。
撮影している間に、同じく写真コミュニティComodoに在籍する秋田在住のくぼけんくんが新たな水没林情報を提供してくれた。絶望の状況においても持つべきものはコミュニティ仲間である。
正直に言うと、もう水没林よりもこの秋田の綺麗なお姉さんを私も撮りたい、と思ったけれど、大人なのでぐっとこらえたのはこのnoteを飛ばさず読んだ君と僕とだけの秘密だ。
そして翌日、くぼけん君の情報を元に玉川ダム下流の水没林にアタックをかける。4:00起床。風景勢の朝はクソ早い。
風も凪ぎ、山の端には霧も少しかかって、本日も絶好の水没林撮影日和。
水面から上方に連なる複数の層が形成され、水没林のミルフィーユ状態。
雲も程よく空に広がり、きれいに青い水面に映り込む。
水没林2.の構図は結構迷ったのだけれど、新緑の木々をできるだけ横一列に並ぶ角度を探して撮影した。情報がそのライン上で整理されるのでグッと画面が見やすくなる。中央が水没林、手前は空のリフレクション、奥は山のリフレクションと霧、という三層で情報を分けた感じ。このあたりはスナップやポートレートで意識するようになった画面整理なので、相互作用的に構図に反映されるのがいろいろなジャンルの写真を撮る楽しさだと思う(なんでも撮りたくなっちゃうライカおじさん)
さて、このスポットの水面の色合いの独特さに気づいた方も多いと思うが、それについても紐解いていきたい。まず伝えたいのは、上流が玉川温泉という
pH1.1~1.2の日本一の強酸性の温泉(ほぼ塩酸)
ということだ。胃液よりも酸性が強く、包丁も一晩で溶け切る。なお、この温泉に入ることもでき、温泉好きの私も無論入浴済みだが100%源泉の湯舟なんかは肌が終始ピリピリするし、間違って舐めてしまおうものならめちゃくちゃ酸っぱい。あまりに刺激的な湯なので、弱酸性の湯や源泉50%の湯も用意されている。なお、歯も溶けるので飲んだらウガイすることも推奨されている(2倍希釈した源泉をさらに5~8倍に薄めて飲む)。
この玉川温泉は過去、「玉川毒水」とも呼ばれ、魚や作物を死に至らしめてきた。下流の田沢湖では、過去にクニマスも全滅している(なぜ流した・・・)。そんな強力な液体が毎分8000リットルというアホみたいな湧出量で流れてくるとかほぼ地獄絵図。「デトックスできる温泉・スパ特集」みたいなキラキラした世界とは全く無縁だ。そもそもデトックスとは『解毒(Detoxification)』の略語だが、玉川温泉の場合はまさに毒そのものを浴びるという、毒を持って毒を制す的なそれである。
この強酸性を中和するために、中間の施設で大量の石灰を投入しているのだが、それにより質量の軽いアルミが沈殿せずにコロイドとして漂い、青い光を反射するため、青く光る、いわゆるレイリー散乱がこの美しさの秘密である。青い水面と新緑の水没林が見られるのは日本でもここだけではないだろうか?
(他にもあったらむしろ撮りたいので教えて欲しい・・・)
風景撮影は撮影自体も楽しいのだけれど、こうやってその風景が生み出されている背景や自然現象などについても理解するとさらに面白くなる、と個人的には思うので今後も撮影記含めて紹介していきたいところ。
でも、こうやって調べたり知ったりした情報をドヤ顔でカメラ女子に話すと、嫌われちゃうので気をつけようね!
それでは聞いて下さい、優里で「シャッター」(完
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