”顧客解像度”の上げかた ~事業開発こそ「お客様」を一番理解するべき~ #BtoB事業開発アドカレ
■ はじめに
こんにちは、LayerX・バクラク事業開発の稲田(@HirotoInada)です!
今回は事業開発をしていく上で必要になる”顧客解像度”をどのように上げていくのかに関して自身の経験を踏まえてまとめていきます。
時間がない方向けのAIサマリー
時間がない方は、サマリーを読んでもっと詳しく知りたいなとなったら、ぜひ全文読んでみてください!
自己紹介
株式会社LayerXで法人支出管理サービス”バクラク”シリーズの事業開発を担当しています。
現在は主に以下の2つのミッションを担っています。
① インボイス制度対応を軸にしたバクラクの事業成長
② 特定業界でのPMFが可能かの探索から達成まで
より詳しい話はちょうど先日会社でインタビューしてもらったので、よければ以下をご覧ください。
前提:そもそも”顧客解像度”とは何か
大前提、本Noteで言及する”顧客解像度”とは何なのかについて言葉の定義を揃えておきます。
自分は、”顧客解像度”の「顧客」とは 業界>会社・組織>ユーザー>業務の4レイヤーで構成されており、「解像度」とは上記4つのレイヤーそれぞれを構成する以下のような要素だと考えています。
「顧客解像度が高い」状態とは、上記の問いに明確に答えられている・言語化されている状態を指すと考えます。
なぜ”顧客解像度”を上げるべきなのか
では、なぜ”顧客解像度”を上げるべきなのでしょうか?
① 施策の筋が良くなる
「顧客解像度が高い」状態とは、前述の項目一例が言語化されている状態であると述べました。
この要素が言語化できていないと、全く見当違いのターゲットに対して刺さらないメッセージを提示してしまったり、無駄に広告費を垂れ流してしまうことなどに繋がり得ます。
“顧客解像度”が高い状態とは、「5W1Hに沿って施策が言語化できる」状態と言い換えることができます。
一般的に”顧客解像度”はマーケティングにおいて触れられる言葉かと思いますが、”顧客解像度”が高いとマーケティングに限らず、PRやカスタマーサクセス・パートナーアライアンスなど事業開発に関連する全てのファンクションで施策の筋が良くなると考えます。
② 数字に意志を持たせる・勝つためのシナリオが立案できる
「今期は〇〇業界を注力ターゲットとしてXX億円を売り上げる」などの事業目標が会社で掲げられることがあるのではと思いますが、具体的にどのような企業のどんな課題をどのように解決することでその目標は達成できるのでしょうか?
“顧客解像度”が低い状態だと上記の問いに答えられませんが、高い状態だとその目標の達成方法や蓋然性が見えてきます。
事業開発においては、その事業がどの程度ポテンシャルがあるのか(いわゆるTAM・SAM)を考えることがあると思いますが、その数字がただそろばんを弾いただけの絵に描いた餅で終わるか、明確な顧客像と勝つためのシナリオを伴った意志を持った数字になるかを分けるのは、顧客解像度が高いかどうかだと思っています。
だからこそ、副題でも掲げる通り、事業開発こそ「お客様」を一番理解するべきと考えます。
“顧客解像度”の上げかた ~手法編~
まずは、顧客解像度を上げる手法をいくつか自分の経験を元にした実例と共にご紹介します。
今回は特定業界に向けたPMFを達成するための事業開発を想定します。
① 業界地図・IRなどから対象顧客の業界の概観を掴む
事前知識が何もない状態だと、いわゆる「無知の無知」状態になってしまいます。
まずは、その業界の概観を掴む上でも、対象業界に関してまとめた業界地図や、対象業界の上場企業のIRをいくつか見るのがオススメです。
概観を掴む上では、以下のような項目がざっくり理解できれば良いです。
業界特有の用語とその意味
業界特有の課題と解決方針 / 業界内のトレンドや関心事
事業のバリューチェーン全体がどのようになっているのか(組織図なども含む)
最低限の概観を掴むことで、自社のサービスをその業界に展開していく上で、さらに理解しておかなければいけない点・検証しなければいけない点が浮かんできます。
② 商談動画視聴や営業担当へのインタビューで課題仮説を構築する
ここでいきなりお客様との商談に同席してヒアリング・インタビューをしてしまうと、自分なりの仮説がない状態なので、お客様に言われたことを受け止めるだけで終わってしまいます。
先に自分なりの仮説を粗くてもいいので構築しておくことで、仮説と一致している場合は更なる深掘り、仮説と一致しない場合は実際はどうなのかの深掘りがその場でできるので、1回のヒアリング・インタビューで検証できる項目数やその検証の深さが変わります。
自分なりの仮説を構築する上でまずやるべきなのは、商談動画の視聴や営業担当へのインタビューです。
まずは、商談動画の視聴です。
弊社ではお客さまに許可を取った上で全ての商談を録画しています。自分はその録画を見ながら議事録を自分で取り、お客様が口頭で仰っている業務フローや課題を図に起こして可視化していました。
この作業を商談動画10個分ほどやっていくと、共通する業務フローやペインが浮かび上がってきます。
次に、営業担当へのインタビューです。
普段からお客様とコミュニケーションを取っている営業担当はお客様の情報をたくさん持っています。
営業担当者に対して顧客の業務や課題に対してインタビューをし、特にこの機能が刺さる・刺さらないなど商談時の内容を重点的に聞くことで、さらに仮説の精度を高めることができます。
とはいえ営業担当全員と個別にインタビューの時間を設けるのは大変です。そこで、弊社では商談時などお客様とお話しした際の学びや気づきを、些細なものでもいいのでNotionのDBに記載してもらう運用を一部の事業開発ではやっています。
情報が集まってくるように吸い上げの仕組みを作るのも大事かと思います。
③ 商談同席・ユーザーインタビューで仮説の検証・深掘りを行う
(実際は②と並行するケースが多いですが) 同期でお客様と会話をする場で、自分で立てた仮説の検証・深掘りを行います。
商談動画視聴では「もっとこの辺を深掘りしたかった」ということもあると思うので、直接お客様と会話できる場を有効活用しましょう。
商談は既に何かしらの業務への課題認識があるから成立しているのが普通です。
一方で、事業開発観点では、それがそもそも課題であると考えていない・解決するためのシステムを検討したことがない/知らない、いわゆる”未顧客”(潜在的なお客様)を理解するのも大事です。
自分は、外部の方を対象にユーザーインタビューを10件ほど実施しましたが、他社サービスを利用している会社様の運用を聞いたり、システムを検討したことがない会社様での運用を聞けて非常に勉強になりました。
ユーザーインタビューをする際には、インタビューの目的にあたる大きなリサーチクエスチョン(問い)を1つ設定し、それを聞くための大枠の質問事項を3つほど設定するのがオススメです。
自分の場合は以下のような設計をしていました。
④ 展示会やミートアップなどで生々しい声を聞く
ここまであげた方法で得られるお客様の声は、いずれも何かしらの関係性がある状況で得られるものです。(商談であれば企業対企業の関係性が一定以上できている・ユーザーインタビューであれば謝礼が発生する)
こういった場では、業務やその課題に対する生々しい声・愚痴に近い声はなかなか出てこないのではと思います。
ポロッとこぼした不満や愚痴・独り言にハッとする気づきがあることは多いですが、展示会やミートアップのような同業種・同職種の方が多く集まる場が、それを得る上では有効であると考えます。
既にそういった場があれば参加してみるのが良いですが、自ら場を作り出すのも1つの手なのかなと思います。
具体例で言うと、インボイス制度対応について経理ご担当者同士が相談できるミートアップを制度開始の前後で複数回実施しました。
多くの経理ご担当者にご参加いただき、当日会場では活発に対応の悩みや解決方法に関する議論が発生し、懇親会では愚痴に近い生々しいお声がたくさん聞けました。
ご参加いただいた経理ご担当者には相談できる場ができたことで喜んでもらえて、参加した弊社メンバーも実際に生々しい声に触れられたことで非常に解像度が上がっていたので、本当に開催して良かったです。
こうした場を自ら作り出すのも事業開発の一環だと思いますが、主催者側が欲しい情報を得られるように設計をするのではなく、まずはお客様が課題解決ができる状態を作ることをゴールに、その過程で情報を吸収できるWin-Winの状態を、”徳”の精神で作り上げるのが大事だと思います。
⑤ お客様の現場を訪問・業務見学を通して非テキスト情報に触れる
個人的に一番やって良かったと思うのがこれです。
ここまでの情報は、お客様が過去の経験や現状の業務を思い出してそれを言語化したものであり、我々はその情報を聞いて間接的に可視化したに過ぎません。
実際にお客様が、現場でどのような環境でどのように業務を行なっているかを見学することで、自分で取得した非テキスト情報から、なぜこういう手順でやっているのか・他にもこういう課題があるのではないかという仮説を構築することが可能になります。
実際、自分は片道5時間弱をかけて広島県のお客様を訪問しましたが、オンラインインタビューでは絶対に触れることがない以下のような情報をたくさん吸収でき、多くの気付きがありました。
バクラクを使用する際の部屋や周辺機器
バクラクを使用する端末で普段使用している他の業務システム
バクラクを使用する際にどのような手順で作業をしているか
バクラク外の金銭のリアルな動き(小口現金管理用の財布を見せてもらったりした)
個人的にはこの取り組みはもっと増やしていきたいなと思っており、ただ見学させてもらうのではなく、バクラクの運用方法の改善提案までその場で行うなど、お客さまにとってもよりメリットがある形で実現できると良いなと思っています。
⑥ 実際に一緒に働くことでペインを自ら体験する
「なんでこういう業務フローになっているんだろうか。こうやればもっと効率的にできるのに」とシステムを提供する会社の人は考えることが多いと思います。
しかし、我々にとっての”非合理”はお客様にとっての”合理”であることがほとんどです。
その”合理”が理解できないのは、我々が実際には体験していないから・業務のコンテキストを共有していないからです。
これを理解するには、結局実際に自分でやってみる・一緒に働くしかないのではと思います。
とはいえ、対象になる業務領域によっては、自分で働いてみるのが難しいケースもあります。
バクラクが相対する経理業務領域もそのケースに当てはまり、なかなか自分で体験するのは難しかったので、自分はスキマバイトアプリ「タイミー」で対象業界の企業が募集しているバイトをやるアプローチを取りました。
対象業務領域を直接体験できなくても、その周辺領域の業務をお客様の現場で体験することで、外から見ていると分からない細かい業務や業務上の制約を理解することができました。
理想を言えば、実際にお客様の業務を一緒にやらせてもらう、Loglass斉藤さんでいう「丁稚奉公」をガンガンやっていきたい思いが個人的にはあります。
経理ご担当者の皆様、請求書・領収書処理でも雑用でもなんでもやるので、一緒に働かせてください笑!
“顧客解像度”の上げかた ~選択編~
次に、前章でご紹介した”顧客解像度”を上げる方法をどのように選択するべきなのかに関して解説します。
考慮するべき点①:手に入れたい情報の取得難易度と生々しさ
情報を得る上では、その取得難易度と取得した情報の生々しさを考慮する必要があります。
現状の”顧客理解度”に応じて、次に選択するべき取得手段も変わるので、順を追って取得をしていくのが良いのではと思います。
この情報の生々しさと取得難易度は、対象のお客様との関係性にも関連しており、お相手と自分の関係性に応じて情報を得る際の動き方が変わってきます。
考慮するべき点②:解像度の上げかたの型
解像度の上げかたは、以下のように四象限に型が分類できます。
最終的には自分自身で経験をして新しい情報を生み出せるのが理想ですが、最初は既に存在する情報を他人から教えてもらうことから始めて、順番に解像度を上げていくのが大事なのではと思います。
どれか1つの型だけを用いて解像度を上げるのではなく、バランスよく順番を意識して型を用いることで、得た情報が"うんちく"ではなく体系化された知識となり、高い解像度に繋がるのではと考えています。
高い”顧客解像度”が生み出すもの・アウトプット
ここまでで様々な情報が集まってきたので、最後に得た情報を体系化します。
高い”顧客解像度”は事業開発に必要な以下のようなアウトプットを生み出せます。
必ず全てが必要になるわけではないですが、事業開発と関連チームでの共通認識を生み出す上では有用なアウトプットかと思います。
① 事業開発の検証事項リストと検証結果
“顧客解像度”を構成する業界>会社・組織>ユーザー>業務の4レイヤーについて、それぞれの検証事項の検証結果が一覧化された状態です。
自分が担当する事業においては、以下の6項目を表形式で一覧化して管理しています。
検証事項:どのような検証項目か?
検証の狙い:なぜその検証をするのか?その検証結果を持って何ができるのか?
達成状態:どのような状態を持って検証ができたと判断するのか?
関連領域・チーム:検証に関連するチームは?
検証方法:どのように検証する?具体的な方法は?
検証結果:検証した結果を記述
② 顧客の業務フローとペイン
各種方法で取得した情報をもとに、対象の顧客に共通する一般的な業務フローと存在するペインを整理したフローチャートを作成します。
業務においてどのような点がペインになるのかの共通認識を取れるのに加えて、そのペインを解決するには機能・非機能でどのようなことが必要なのかを議論する土台としても活用できます。
③ カスタマージャーニーマップ
検証事項で得た情報を元に、ターゲットになる顧客の一般的なカスタマージャーニーを描きます。
先ほどの顧客の業務フロー・ペインよりも広い範囲の行動の認識を揃えることで、マーケティングからカスタマーサクセスまで各ファンクションが各タッチポイントでやるべき施策を考えやすくなります。
④ 事業プランニング全体像
顧客の業務フロー・ペインで必要な訴求やコンテンツ・施策の仮説が、カスタマージャーニーマップでそれをどのタッチポイントでどのように伝えるかが整理できるので、それらを元に全体の施策をどのように連動させるかの事業プランニングの全体観が描けます。
先にざっくりの事業プランニング・施策全体像を整理したおかげで、各ファンクションの施策が点で終わらず線・面と連動できたので、最後にこれを描くのが良いのかなと思います。
"顧客解像度"を上げる際の注意点
注意点①:ただディープダイブするだけではダメ
“顧客解像度”を上げるうえでは、段階を踏んで顧客の現場にディープダイブして生々しい情報を取得しにいくのが良いと論じましたが、ただ現場にいくだけでは意味がありません。
ディープダイブする前に、前述の検証事項リストを洗い出し、その検証をするための行動・取り組みに落としていくのが必要です。
注意点②:自分なりに仮説を持つ必要はあるが拘泥してはいけない
自分なりの仮説を持ってディープダイブしていくべきとも述べましたが、その仮説に拘泥しすぎるのは良くありません。
あくまでも初期に立てた仮説は検証するべき事項であり、検証の結果、仮説が誤っているのであればファクトをファクトとしてそのまま受け止め、結果に応じてその後の検証事項・取り組みもアジャストしていくのが必要です。
初期の仮説に拘泥したり、仮説に反するファクトを無視することがないようにしましょう。
まとめ・最後に
以上、”顧客解像度”を上げる方法について記述してきました。
本Noteで記述した顧客解像度を上げる方法をポイント3つに絞ると以下になります。
事業開発以外でも使える考え方・手法だと思いますし、自分のこれまでやってきたことが言語化されて整理できたので、”顧客解像度”上げを再現性を持ってできそうです。
最後に、事業開発担当に読んでほしい、顧客解像度を上げるのに役立つ本を2冊紹介して終わります。
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