Refused!〜アクシャイをさがして
ドン。アパートのドアを開けると怪しげな段ボールがおかれていた。シロネコ・仮名(アメリカの大手配送業者)が届けたようだが全く心当たりがない。届けたといっても日本のように玄関での受領確認などはなく、こっちはドア前に放置するやりかた。これでよく機能するなと思っていたが、機能しない事例にあたってしまった。
ラベルを見ると「受け取り拒否、発送者への返送」と記載されている。発送者住所は私の住所。けっこう大きくて重いし。中は液体のようだ。宛先も思い当たるところが全くないし、かなり遠い(調べると4000キロ先)。アメリカは広い。唯一の手がかりは発送者欄に記された「アクシャイ」(発音が正しいのかわかりません)という名前。アパートの管理人さんにも照会したが、「アクシャイなんて知らないわ」と一蹴。一瞬で手掛かりは途切れた。
宛先不明、発送者不明で中身は謎の液体。住所だけは正しい。どうしたらいい?この町にはシロネコの事務所が二箇所ある。近所に一軒、遠くに一軒。仕方ないので近所のシロネコに持ち込んだ。お店の人に事情を説明したけど、向こうもどうしていいのかわからない。しまいには「あなたアクシャイじゃないの?」なんて聞かれる始末。とにかく、自分はアクシャイでないことを説明し、荷物を引き取ってもらったのが3週間前。
一昨日、帰宅するとドアの前に見覚えのある段ボールが。ゾクっとした。アクシャイの液体だ!段ボールはすっかりくたびれているうえに、新たに「Refused(拒否)」と殴り書きされていた。広いアメリカを3週間かけて何千キロかたらい回しにされたうえ、皆に拒まれて私のところに戻ってきたんだろう。この謎の液体も踏んだり蹴ったりだ。だが、困った。
途方に暮れるていると、ご近所さんにばったり出くわした。偶然にも彼の勤め先はシロネコだ。ここぞとばかりにこれまでの顛末を話した。「クレイジー」。シロネコGuyもどうしていいかわからないという反応。だが、諦めかけた矢先、彼から有力な情報も得た。以前私の部屋にインド系だかパキスタン系の住人がいて、偶然にもこの町にもう一軒ある遠くのシロネコの事業所で働いているという。「アクシャイかどうかは知らないけどそいつっぽくね?」とシロネコGuy。都会では起こりえない小さな町ならではの偶然。事態が急展開した。
翌日あさイチで遠くのシロネコに車をとばした。確証は無いがもうそれしか手段が残されていなかった。謎の液体をさっさと手放したい一心で、重い段ボールをがんばって運んだ。初めて訪れた遠くのシロネコのカウンターには見た目が南アジア系の店員さんが。私の荷物とラベルに記載された名前を見て一瞬驚き、「これどうしたんだ?!」と聞いてきた。こっちのセリフだよ。アクシャイとの邂逅の瞬間だった。
謎の液体の果てしない旅も終わった。アクシャイに事情を説明すると、お礼を言って受け取ってくれた。聞けば私のアパートに以前すんでおり、間違えて私の住所を使い、更に宛先も間違えたらしい。ちなみにアパート契約名義はアクシャイではなく、彼のルームメイトだったそう。だから管理人さんもわからなかったようだ。ややこし過ぎるけど、迷宮入り寸前の事件を解決できて、とてもスッキリした。
そういえばアパートに越してきたばかりの頃、キッチンの棚からカレー風のスパイスの香りを感じることがあった。それも目の前のアクシャイのだろう。いろんな事が一気に繋がった一日。世界は案外狭くてシンプルのかもしれない。しかし、この町は狭いが深い。
※一応アクシャイは仮名にしています。起こったことは本当です。シロネコも仮名ですが、アメリカでは会社問わず配送物の紛失はよくあるみたいです。