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富士男の幸せの卵サンド
卵の価格が高騰しているとかで、住まいから至便のスーパーに在庫が1パックもなかったらしく、慌ててクルマで吉祥寺に走った、と妻(西友にはあったらしいです)。鳥インフルエンザの影響が如実に出ているのかもしれません。
それにしても、テレビがよく使う「物価の優等生」という表現、あれはどうかと思います。卵本人の気持ちをよく考えもせず「優等生」とかレッテル貼りしちゃうって……。で、現下起きてる状況は、
「優等生かと思いきや、卵くん、君も意外とダメな一面あるよね」
ということでして。当人にしてみれば、
「そもそも物価の優等生だけが私の取り柄っすか? はいはい、どうせコレステロール多めですわ」
と愚痴のひとつも吐きたくなります。卵くん、でもね、僕もかつてテレビの世界で日々ニュース原稿を書いていた一時期があるから分かるけど、
「卵=物価の優等生」
はメディアの人間の脊髄反射行動みたいなもので、脳が介在していないというか、つまりは、ある種先人の型を踏襲してるだけなんだ。そんな言葉には、他にも、
「株=乱高下」
「山火事の焼失面積=東京ドーム××個分」
これらはね、いわば業界の符牒、決まり文句。みんな無自覚に使いがちなだけで、実はなんも考えてませーん、って白状しているも同然。
「脊髄反射」と言えば、卵と聞くと、僕はついこないだも行ってきた長崎の珈琲富士男を思い出すのでした。いま、こうして富士男の卵サンドを想起するだけで心が踊ります。
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一口に「卵サンド」と言っても、ゆで卵系と卵焼き系に大別可能かと。あとはそれぞれにありとあらゆる分派、亜種が存在します。さすると、富士男のは卵焼き属のオムレツ亜種と分類できましょう。注文を受けてから一つひとつ丁寧に焼き上げるだけあって、具のプルプル感が他に類を見ません。昭和21年(1946年)の創業当時から提供していたかどうかは定かではありませんが、フルーツサンドと並ぶ看板メニューで、飛行機代を使ってでも一度食べに行く価値大あり、です。
あ、話はどんどん脊髄反射しますが、「フルーツサンド」といえば、南が富士男なら、北は札幌で昭和50年(1975年)創業のさらえのも旨いです。さらえは、フルーツサンドとタラバガニサンドが双璧の鉄板メニュー。
そういえば、つい先日、神谷町でさらえ信奉者のお一人である、関西学院大学のI先生にお会いしましたが、
「具のタラバガニがひと回りちっちゃくなってたわ。旨かったのは旨かったけど。ご時世かな」
とぼやいておられました。
こちら、もとより「物価の優等生」ではないのでして。強いて言えば、「アラスカの転校生」とか「ロシアの交換留学生」(日本の中古車と?)とかになろうかと。これも一種のレッテル貼りですが。さらえのタラバがどこ産かは分かりませんが、あるいはウクライナ問題が影を落としているのやもしれません。
昭和な感じの喫茶店サンドイッチにハマる一方で、Paulのクロワッサンサンドは富士男やさらえの対極にありながらもあれはあれで大好きです。フランス直輸入の生地で焼き上げるクロワッサンの美味しさもさることながら、お里のしっかりしたハムやエメンタールチーズなど、具材の一つひとつが個性をほどよく主張していて本当に美味しい。店構えとしては、東京・神楽坂店はやっぱり素敵ですが、札幌駅東口コンコースの札幌Paulも天井が高くて小洒落ています。
とまれ、人類がコロナを超克したとの確信が持てたら、あのパリ北駅のホームの一角に立つキオスク型Paulを再び訪れたいものです。TGVの客室の人になったら、やおらあの清貧な茶色い包装紙にくるまれたジャンボンクリュにかぶりついたところで息絶えようとも、思い残すことはありません(できたら、デザートにベリー系のタルトも1ケいけるとなおいいですが)。——コロナも、鳥インフルも、ウクライナもあって、不確実な世の中であればあるほど、目で愛でられて、しかも頬張れる具体的な幸せのかたちに魅せられるのかもしれません。