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痩せはするけど強くお勧めはしないダイエット法3選

いまそこにある危機

緑内障を悪くしてからビミョーに困っていることは少なくない。なかでも、とんと体重計に乗らなくなったのは考えものだ。もちろん、乗ろうと思えば乗れる。ただ、体重計の上で直立し、目線だけ下にくれてもデジタル表示の計測値がよく読めないのである。いっそ膝小僧を抱えてヤンキー座りすれば見えるだろうが、その格好だけは——とりわけ、風呂上がりのパンイチ姿は——家人のみならず、鏡に映った自分にも見られたくはない。

結果、少なくともこの3年ほど体重を計れていないでいるのだが、最後に計ったときから痩せていないことだけは火を見るより明らか。それが証拠に、オンライン会議で、例えば、4分割画面のひとつに映り込む自分自身の輪郭が妙に丸い。そのことに囚われ出すと、肝心の議論の中身が上の空。顔の向きを工夫したり、首を傾げたりしながら、昔の面影をなんとか取り繕おうとするのだが、いかにも無理がある。

ついには、人生何十回目かの絶賛ダイエット月間に突入とあいなった。が、そこは亀の甲より年の功。僕のなかで方法論だけはきちんと確立してはいる。すなわち、次の3つのダイエット法のカクテル療法でいけば、桜の咲く頃には結果は自ずと現れる、と踏んでいる(強くお勧めはしない)。

①16時間ダイエット

まず、ファンダメンタルには食べないに限る。そんなことをすれば体調を崩す、とご心配の向きもあろうが、もちろんできるだけ歩いたり、エレベータやエスカレータの利用を避けたりはする前提で、即効性があるのはなんといっても「食べない」である。

かといって、まったく食べないとなんともヤル気が起きないし続かないから、この10年ほどは「16時間ダイエット」、すなわち、1日のうち食物をなにも口にしない16時間を捻出するやり方に絶大な信頼を置いてきた。

この方法の良い点は、なんでも口にできる8時間に心踊ること。つまり、食の有り難さや食することのエクスタシーが際立つことにある。加えて、16時間ダイエット明けの最初の食事——すなわち、多くの場合は朝食!——がなんとも美味しいこと。要は、食事の醍醐味がことさらに増幅され、際立つのである。

反対に、良くない点を強いて言うなら、ともすると社会性が蔑ろになりがちなこと。例えば、コロナもあって激減したが、知人・友人との会食や飲み会が入っても、それらがラッキーにも「8時間」の枠内に入り切ることは稀だし、仮に参加できたとしても制限時間を理由にぱたりと食べない、飲まないというのも無粋といえば無粋である。

結局、そんなときはハレとケではないけれど、会食や宴会はスペシャル・オケージョンと捉えて、「これは非日常なのだ」と自分に言い聞かせることにしている(そんなときも、ハレが明けたら即ケ、すなわち16時間ダイエットの時計が回り出すことは言うまでもない)。

②Paul Smith ダイエット

さて、基本的な方法論は「食べない」としても、大切なのは持続するための誘因、インセンティブをどこに置くか、である。結論的には、僕の場合、「手持ちのPaul Smithの服を無駄にしない」が常に念頭にあることが大いなる「インセンティブ」たり得る。

とかくファッションには拘りが少なくて、上から下までUNIQLOでこと足りる僕も、一点豪華主義的とでも言おうか、ことコートやジャケットなど、ここぞという場面で身につけるアイテムだけは迷わず、ケチらず大好きなPaul Smith、とこの20年ほど決めている。結果、数着しか持たないスーツはすべてPaul Smithのぶら下がりだし、同じく数着あるコートもすべて同ブランドの同じサイズである。

結果、若干(?)肥満ぎみの現在、急な慶弔事が訪れようとも、きちんと前ボタンを留められるスーツは一着とてないし、まだまだ木枯らし吹き荒むこともあるこの時期、コートの前ボタンを留めると落とした百円玉さえ自分では拾えない。数着分のスーツと数着分のコートの、つごう百万円余のワードローブをみすみすドブに捨てないためには、これはもう痩せるより他に術がないのである。

③プリン・ダイエット

基本を16時間の食事制限に置き、Paul Smithをシュッと着こなす、をミッションに日々頑張るしかないわけだが、ただ「修行僧ダイエット」では息が詰まる。「ポール・スミス展 HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」(2016年: 上野の森美術館)で来日したPaul Smithも、記者から「創作の活力の源泉は?」と訊かれて、

「非行(vices)? ま、冗談だけどね(笑)」

と微笑んでみせたではないか。そう、悪徳は蜜の味。ストイックにダイエットに勤しんでいるときだからこそ、ささやかな非行、悪徳に走ることも不可避なのだ。そして、僕の場合、それは「甘いものに走る」という、ダイエットにとって一番の背徳的行為に他ならない。

昨日の土曜日、アドバイザーを務めている葉山まちづくり協会の集まりで葉山へ。ぐずついた天気続きの先週も、最終日のこの日ばかりは朝からからりと晴れ上がり、まさに「葉山日和」。帰りに、同じくアドバイザーのマツザワさんに「マーロウ」に連れていっていただけたのは僥倖だった。なんとなれば、そのお店こそは葉山・秋谷地区のプリンの名店として名を轟かせている。A dream comes true!とはまさにこのことである。

葉山育ちで葉山在住のマツザワさんが「北海道フレッシュクリーム・プリン」という変化球で攻めたのを尻目に、僕は今回のところはド直球の「カスタード・プリン」。モロゾフのプリンやMuji Cafeのプリンをベンチマークに、そこからのチェック項目ごとの優劣を判断するには「すプリン」が一番、との判断である。結果、四の五の言わずとも旨い。完食直後に16時間ダイエットに突入したことは言うまでもないが、若干の糖分と一緒に、生きる活力をいただいた気分である。

良い(よい)加減主義のススメ

ヴィーガンはときとして羊や牛の肉をたらふく喰う夢を見てはっと我に帰る、とは完全菜食主義者のカナダ人の友人の話。この友人に比すれば、僕のダイエット法などちゃらんぽらんにもほどがある。これで良しとするならば、「マックポテト・ダイエット」、「大盛り吉牛ダイエット」、(映画館の)「バターかけポップコーン・ダイエット」……なんでもござれの様相を呈してしまうではないか。ただ、試合前の計量に臨むボクサーならいざしらず、過程にしろ、結果にしろ自己満以外の何ものでもないのだ。良い(よい)加減を旨として、ダイエット法と楽しく折り合おうと思う。

おっと、なんだかんだで残り2時間を切ろうとしている段階ではないか。とっとと投稿して、このあと2時間余り。本日、最後の食事を堪能しよう。





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