ひらめく建築 -タイ現代建築 003-
タイ北部最大の都市チェンマイ初の現代美術館 MAIIAM Contemporary Art Museum は、チェンマイ市街中心部から10kmほどの幹線道路沿いにある。建築設計はバンコクを拠点にするアトリエ事務所であるall(zone).
タイの伝統技術を美術館の顔に据える
もとは倉庫だったというだけあり、周りはありふれた市街地。そこに突如としてあらわれる鏡タイルのモザイク壁はインパクトが大きい。現実の風景を低解像度のピクセルとして見るような不思議な視覚体験ができる。
鏡タイルの壁を現代建築でこれだけ大規模使ったものは私が見た中でははじめてである。この鏡タイルは伝統的表現であり、寺のファサードやスピリットハウス(タイの神棚のようなもの)等で見ることができる。
バンコクの王宮にて
新しいチャレンジには困難がつきもの。今までにない大きい範囲を施工するため、すべてのモザイクタイル業者に断られ、オープンの3週間前まで業者が見つからなかったという。結局は、政府機関の伝統工芸に関する専門家がワーカーをイチから教育し、一つ一つ手で切り張りすることで完成したファサードは唯一無二のデザインとなった。
タイの建築を見るときにおもしろい部分は、先進国においては既製品の工業製品を使うような部分が、人の手によってつくられていることが多数あるというところである。これは、既製品のラインナップがそろっていない事や、人件費が安いことにより、工業製品とハンドメイドのコスト比較をした場合にハンドメイドが勝つ場合が往々にしてあるという事情もある。そのバランスのとり方が設計においてもエキサイティングな部分になる。
倉庫の空間を生かしたリノベーション
ファサード部分は新築なので、最初は気づかないがこの美術館は倉庫のリノベーションをした美術館になっている。
元倉庫の大空間に構造的に切り離した状態で鉄骨造のインフィルを挿入。
設計者であるRachaporn Choochuey氏は「倉庫の中に新たな建築を建てた」と表現している。
入り口側に近いホールのような空間は自然の光や風が入り込む気持ちのいい空間。元倉庫の屋根構造は合理性のみを追求した鉄骨トラスなのだが、それと呼応するように、建具や壁の小口、鉄骨の構造部分には工業的な意匠を感じさせる色や収まりを見せることで、美術館のホワイトボックスの空間と馴染ませている。
一方で手に触れる範囲のディテールは繊細かつミニマルにまとめてあり、丁寧さを感じる。タイにて、有名建築家の施設を訪問してもしばしばよく考えられていないディテールにガッカリすることも多いが、MAIIAM Contemporary Art Museum においてはそんなことはない。(施工精度については目を瞑るとして)
人を呼び込むゾーニング
印象的ファサードを持つ新築部分には、カフェとミュージアムショップを備えることで、アートに馴染みのない人に対しても入りやすい雰囲気をつくっている。
新築部分とリノベーション部分の間には、中庭を設けることで自然光豊かな空間をつくるとともに、回遊性のある動線をつくりだしている。
ひらめく建築
チェンマイにおける初の現代美術館という事もあり、ファサードの検討には膨大な量のスタディをしたという。そのスタディの最中、設計者はチェンマイの市街地である寺の壁を見てハッと"ひらめいた"という。
建築デザインにおいても、膨大な量のスタディをこなした先に突如としてアイデアが降りてくる事が往々にしてある。そのひらめきを信じ、出来上がったファサードは一見の価値がある。チェンマイを訪れた際には、ぜひ閃くファサードと共に現代美術を楽しんで欲しいと思う。
建築家であると同時にタイのチュラロンコン大学でも教鞭をとるRachaporn Choochuey氏は、東京大学へ留学していたこともあり、日本の建築文化にも触れている。日本の建築を知っている人であれば、チェンマイにいるのに何処か日本っぽさを感じるところもこの美術館の一つの楽しみかもしれない。
【建築】MAIIAM Museum of Contemporary Art http://www.maiiam.com/
【設計】Allzone http://www.allzonedesignall.com/
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