【周期調節法の補血活血補腎薬】中医婦人科学
周期調節法で用いられる「補血」「活血」「補腎」について、それぞれの目的や漢方薬の特徴、対応する症状について詳しく説明します。
1. 補血
補血は、血液を補い、巡りを良くすることによって、体全体の調子を整える治療法です。特に婦人科系の健康を維持し、生理不順や冷え、貧血の改善に効果があります。補血が必要な理由として、中医学では「血は肝に蓄えられる」とされており、血が不足すると肝がうまく働かず、生理のリズムが乱れたり、月経困難症の原因になったりします。血虚(血の不足)によって肌が青白くなったり、疲れやすくなる場合にも補血が有効です。
主な漢方薬
婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)
この漢方薬は当帰を主成分とし、補血と血行促進に優れ、特に貧血や血の不足を補いたい方に使用されます。婦人科系の調整に非常に効果的で、疲れやすい方や顔色が悪い方に適しています。
※イスクラ産業から出ているシロップの様な薬です。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
当帰芍薬散は、特に水分代謝が滞っている方に適しています。血虚や気虚(エネルギー不足)に加え、むくみやすい症状を持つ方に良いとされています。補血と共に血行を促進し、血行不良や冷えにも対応します。十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
十全大補湯は、気血を補う強力な処方で、貧血がひどい場合や、慢性的な疲労が続く場合に使われます。全身の体力を回復させたいときや、手足の冷えやエネルギー不足を感じている方に適しています。
補足:当帰(とうき)の調経作用
当帰(とうき)の調経作用とは、生理の周期やリズムを整える働きのことを指します。この作用は、当帰が持つ「補血」「活血」「温め」の効果によって実現されます。以下に、そのメカニズムについて詳しく説明します。
1. 補血作用
当帰は「補血薬」として知られ、血虚(血の不足)を補う働きがあります。血は女性の生理や生殖機能に密接に関係しているため、血が不足していると生理不順や月経痛、月経量の減少などの不調が起こりやすくなります。当帰の補血作用によって体内の血が増え、子宮や卵巣などの生殖器官が栄養されることで、生理周期が安定します。
2. 活血作用
当帰は「活血薬」としても分類され、血流を良くする働きがあり、血行不良を改善します。生理痛や生理不順は、血の流れが滞る「瘀血(おけつ)」によって引き起こされることがあります。活血作用により、血流がスムーズになり、子宮内膜が正常に剥がれて排出されるため、生理周期が整いやすくなります。
3. 温め作用
当帰は体を温める性質を持つ「温薬」であり、特に下腹部や子宮を温め、冷えが原因で生じる生理不順や月経痛を和らげます。冷えによって血流が滞りやすい状態では、生理周期が乱れやすくなるため、当帰の温め作用で冷えを改善することで、より安定した月経リズムが保てます。
調経作用のまとめ
当帰の調経作用は、血を補って増やし、血流を良くし、体を温めることで、生理周期を整えることに役立ちます。このため、生理不順、月経痛、経血量の変化、更年期の不調など、婦人科系のトラブルに幅広く使用されるのが特徴です。当帰は婦人科系の漢方薬(例えば当帰芍薬散や桂枝茯苓丸など)に多く配合されており、女性の体を整えるための重要な生薬とされています。
2. 活血(活血化瘀)
活血は、血の巡りを良くし、体内の血液循環を促進する治療法です。生理痛や血流の滞りによる月経困難症に効果的であり、血行不良や冷え性の改善が期待できます。中医学では、血流の滞りが生理不順や月経痛の原因になると考えられており、血流を良くすることで、卵巣や子宮の健康を維持し、妊娠しやすい体質を作ります。活血は、特に「お腹の冷え」や「痛みを伴う生理」に効果的です。
主な漢方薬
冠元顆粒(かんげんかりゅう)
血流を改善し、全身の血行を促す顆粒剤です。血液循環の改善により、冷えや頭痛、肩こりの軽減にも効果が期待できます。桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
桂枝茯苓丸は、特に婦人科系の症状に使われ、下腹部の血行を促進します。子宮周りの血流を良くし、月経困難症や痛みを伴う生理の緩和に役立ちます。また、のぼせや更年期障害の改善にも使われます。芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)
芎帰調血飲は、冷えや血行不良が原因で生理痛が強い方に向けた処方です。血流を改善し、痛みや血流の滞りによる症状を和らげます。
活血と活血化瘀の違いは?
「活血」と「活血化瘀(かっけつかお)」は、どちらも血の巡りを良くすることを目的とした概念ですが、それぞれの用途や対象が異なります。以下に違いを詳しく説明します。
1. 活血(かっけつ)
活血とは、血の巡りを良くし、血流をスムーズにする働きを指します。具体的には、血流が滞りやすい場合に、血の流れを促して体全体の血循環を整え、健康な状態に保つことが目的です。活血は、軽度の血流不良や血の巡りが停滞している場合に効果的で、まだ瘀血(おけつ)と呼べるほど深刻な停滞がない状態で用いられます。
活血の適用
血流が悪く、冷えやだるさがある
血流を促して全身の調子を整えたい
生理周期のリズムを良くしたい
活血の処方例としては、当帰や川芎(せんきゅう)などが使用され、血の巡りを良くすることで体全体の血液循環を促進し、健康を保ちます。
2. 活血化瘀(かっけつかお)
活血化瘀は、血の巡りを良くする「活血」に加え、滞っている血液(瘀血)を「化瘀(かお)」する、つまり血液の滞りを解消し、血流をスムーズにすることを目的とします。瘀血とは、血液が体内で停滞し、流れが悪くなっている状態を指します。瘀血は血液の質や粘度が高くなり、流れが非常に悪くなっている状態で、血流の滞りによって痛みやしこりなどが生じる場合もあります。活血化瘀は、この瘀血を解消して血流を回復させることが目的です。
活血化瘀の適用
血流が滞り、痛みやしこり、冷えが強くなっている
生理痛や月経困難症、血行不良による症状がある
長期的な血行不良があり、瘀血の状態が進んでいる
活血化瘀に用いられる処方例としては、桂枝茯苓丸や冠元顆粒(かんげんかりゅう)などがあり、滞りを解消して血流を回復させることで、痛みや不快な症状を和らげます。
まとめ
活血は、血の流れを良くし、循環を促進すること。軽度の血流不良に効果的です。
活血化瘀は、血流を良くしつつ、瘀血(深刻な血の滞り)を解消すること。瘀血による痛みやしこりがある場合に用います。
活血は軽度の血流不良に、活血化瘀は瘀血が見られるより重度の血流停滞に対応しており、症状の重さや状態に応じて使い分けられます。
3. 補腎
補腎は、特に生殖機能の向上や老化防止を目的として行われます。腎は中医学において「生命の根本」とされ、腎が衰えると老化が進みやすく、特に生殖機能の低下が顕著になります。補腎は、卵巣の機能をサポートし、ホルモンバランスを整え、妊娠率の向上にも役立ちます。また、補腎薬には体を温めるものが多く、体力の低下を感じる方や、冷えやすい方に適しています。
主な漢方薬
杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)
六味丸に加えて、菊花と枸杞子が配合された漢方薬で、体を冷やしつつ腎陰虚を補います。特に目の疲れや血圧の高い方にも効果があるとされ、腎の機能をサポートすることで生殖力の向上が期待されます。
※肝腎陰虚証につかいます。参茸補血丸(さんじょうほけつがん)
補腎効果が強く、動物成分を含むため、老化防止や体力の維持に適しています。腎の働きを高め、ホルモンバランスを整えるため、卵巣機能の改善や体力増強が期待されます。参馬補腎丸(じんばほじんがん)
補腎効果が非常に強い薬で、生殖機能の向上と体力増進に役立ちます。特にホルモンバランスをサポートし、冷えやエネルギー不足に対応します。
※動物生薬豊富亀鹿仙(きろくせん)
亀と鹿の成分を含み、補腎力が非常に強い漢方薬です。エネルギーを補充し、体力回復を助けます。生殖機能を高め、体を温める効果もあるため、冷え性や疲労に効果的です。艶麗丹(えんれいたん)
補腎力に加え、肌や美容の健康維持にも役立ちます。腎の働きを高めて老化を防ぎ、特に更年期以降の女性に良いとされます。
※補腎薬は全般的に高いのがデメリット。
補血・活血・補腎の食材
また、漢方薬に加えて、日々の食材にも「補血」「活血」「補腎」に対応するものが多く存在します。以下にそれぞれの食材例を挙げます。
補血食材:肉類(特にレバー)、ほうれん草、小松菜、ベリー類(ブルーベリーやクランベリー)などが推奨され、血を補い貧血を予防します。
活血食材:玉ねぎ、生姜、にんにく、ネギなど、血行を良くする食材が多く、冷えや生理痛の緩和に効果があります。
補腎食材:エビ、山芋、クルミ、クコの実、桑の実、プラセンタ(生薬としては紫河車)など、腎を補い生殖機能の向上や体力維持を助けます。
周期調節法の意義と応用
補血・活血・補腎は、生理周期を整えたり、体質に合わせた養生を行うために不可欠な要素です。特に、月経期や卵胞期、排卵期、黄体期ごとの周期に応じて、適切な漢方薬を使い分けることで、女性のホルモンバランスが整い、生理不順や更年期障害、妊娠率の向上などに寄与します。周期調節法は、女性の生理周期を整えることにより、日々の健康維持だけでなく、長期的な婦人科系の健康にも役立つため、多くの女性に適用されています。