#16 「お人柄」を紐解く①
1社目の製薬会社時代、私がどんな評価をくらって(「もらって」ではなく、まさに「くらって」)いたかというと。
人事評価シートにチェック項目があるわけですよ。「問い:この人の能力を事前に知っていたら、採用していましたか?…選択肢:①喜んで採用した ②ちょっと考えるが採用した ③採用しなかった…」
で、③だったのですね。
当時の上司が人事面談で言うのです。
「まあ、ちょっと見せるけど、君、こんな評価だ」
見せなくてもいいのにね。っていうか、そういうの見せるのですかね、普通(笑)。
そしてこう続きました。
「ほんと、こんなんでもなぜかやってこれているから不思議だよ、逆にすごいよね。人柄?」
果たしてほめられているのか、けなされているのか…。(いや後者だ)
その後、外資系に転職してみると、こんなことを言われて事業部長に任命されました。
「あなたのお人柄ならうまくいくと思うんですよねー…」
まあ、結果は失敗でしたけどね。
そして未経験職種に転職した時、こういわれて採用。
「採用理由は、お人柄です。能力はまあ、入社してから磨いてください」
その後更にキャリアアップ転職を試みたときも、ありがたいことにこう言われました。
「能力はともかく、あなたのお人柄を、わが社で活かしてほしいと思っています」
微妙にディスられていますが、だんだん誉めのニュアンス割合が増しているように思います。
ここまでくると、「お人柄」とは実に侮れなく、自分を救ってきた要素じゃなかろうか?と思うのです。
私は普通に他人を妬むし、すぐに怒るし心もざわつきやすいし、嫌なことがあればずっと何か考え込むし。
自分の意見が通らなければ不機嫌になるし、承認を得ずに自分で突っ走ろうとします。
それでも評価された「お人柄」の正体とは何なのでしょうか?
本記事の目的
「お人柄」ってどういうことでしょうか、と訊いてみると、自分で書くのもなんですが、柔らかい物腰とか優しそうな雰囲気とか、ありがたくもそういった言葉が返ってきます。
しかしそれだとすると、もっと若いころから評価されていてもよいと思うのです。
つまり、歳を取るごとに強くなっていった、何か裏打ちされたものがあるはずだ。
本記事は、仕事という観点で評価される「お人柄」がどんなものに裏打ちされているかを解き明かし、キャリアチェンジに役立てようと意図するものです。
「お人柄」を紐解く自己分析
評価が上がってきた理由はどこにあるのか?
評価が上がるという事は、評価者の望むアウトプットが出てくるようになったという事なのでしょう。
しかし常に「能力はアレですが」と枕詞が入るところを見ると、アウトプットの質はさほどでもない(えー…(´・ω・`))。
となるとマインドや態度といったところが評価軸になっていそうです。
仕事のベクトル
というわけで、「誰のために」、つまり思考の向きが自己の充足(承認欲求など)であることを「自分思考」、他人の成功や出来事の実現に向いていることを「コト思考」として、自分のやってきたことと価値観から思考の向きを整理するとこんな感じ。
なるほど、2010年代の仕事をきっかけに、コト思考の割合が高くなっていったかなぁ、と思います。
アウトプットがいまいちだから編み出した技
もうひとつ。
アウトプットがいまいちだよねぇと言われ続けていると、
「自分でやるより得意な人にやってもらった方がいいよな…」
という思考になってきます。
最近の事例としては、牧場の診療チームのこと。
私たちの診療チームは牧場内で牛を相手に「治療」と「繁殖」を主な業務とします。
私はそのどちらもそれなりにできる、一応肩書は課長。そしてチームには「治療」が私より得意なAさんと、「繁殖」がこれまた私より得意なBさんがいるのです。
こうなると、私が全業務に対してリーダーシップを発揮するより、「治療」はAさんに、「繁殖」はBさんに牽引してもらい、私がそれぞれをフォローしたり、全体のパフォーマンスを管理したりする方が成果が出るし、メンバーもそっちの方が楽しいでしょう。
この要領で、私はそれぞれの場面で適した人に主役をお願いする方法を取ってきました。
今ではそれは「シェアドリーダーシップ」という名前がついている手法なのだそうです。
これは想像以上に忍耐を要求する手法で。
どうしても、人にお願いする場面が多くなるし。
何をお願いするか、相手の得意とすることを見極めなければならないし。
相手の都合や意見を聴かなくてはならない。
なにより、自分よりあなたの方がスゴいんです、と認めなければなりません。
それでも、コトの実現のためにメンバーがそれぞれの個性を発揮できるようにする。
多分、「それをやってくれそうだ」という雰囲気が、様々な経験を経て2020年ごろから出てくるようになったのでしょうね。
「お人柄で採用」とは、そういうことではないかと思うのです。
「お人柄」を戦略として捉えると
シンプルな式
自分に向けられた「お人柄」を紐解くと、概ね上の2つに集約されるのではないかと私は考えていて、再現性のある戦略として一般式にするとこんな感じ。
「お人柄」戦略 = コト思考 × シェアドリーダーシップ
2つの要素を掛け算としたのは、この2つはマインドと実行力の関係で、どちらかの要素がゼロだと生み出せるものが無いと考えたからです。
また、シェアドリーダーシップを発揮するには、以下の3点が必要と考えています。
自分の、ある程度の専門性と、非万能性の自覚
他者の力を認め、頼る力
「コト」のためにこれらを組み合わせる構成力
「お人柄」戦略の限界
この戦略って決して万能ではなく、ハマる職場とそうでない職場に分かれるなぁと思います。
もちろん、自分の専門性が発揮できる場でなければなりませんし、強いリーダーシップやそのメンバーであることが求められる場では、やりにくいように思います。
しかし、何が起こるか先の読ず、必ずしも強いリーダー像が求められるわけではない昨今、この戦略がハマる現場は増えているのではないかと推測しています。
なお、真にリーダーになろうと思ったら、状況に応じてリーダーシップを使い分けることを学ぶ必要があると思いますが、それはまた別の話とします。
後記
最後に、こういう「お人柄」とやらに育ててくれた先輩の言葉を紹介しようと思います。
1社目の職場にいた先輩が私と仕事をしている最中、私に言ったことでした。
「君は、まあ、頭はよくない」
…ずいぶんなことを言われたものですが、こう続きます。
「しかし、頭がいい人だけで組織は回らないものだ。
カミソリで大木が切れるか?
違う。
君は鈍い。鈍い斧であれ。」
仕事は専門能力の高さだけで決まるものではない、という話ですが。
まだまだ「お人柄」の全く育っていない若造だった自分は、この人の目にはどんなふうに映っていたのだろう?
遠慮なくこう言われるぐらいには、素地があったのかね…、と回顧しています。(続く)
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