Hiroshima FOOD BATON 令和5年度採択発表会
2023年10月31日、広島県農林水産局販売・連携推進課主催 食のイノベーション推進事業 Hiroshima FOOD BATON 令和5年度採択発表会が開催された。
Hiroshima FOOD BATONは生産から販売に係る様々な企業と農業経営体が連携し、新たな食のビジネスを創発して農業経営体の稼ぐ力を高めることを目的としたプログラムだ。当日は広島県内のメディア各社も集まり、令和5年度に採択されたプロジェクトの事業計画のプレゼンテーションと令和4年度採択事業者によるプロジェクトの状況報告が行われた。
<当日の式次第>
・主催者挨拶
・Hiroshima FOOD BATONの事業概要説明
・令和5年度採択者による発表(3プロジェクト)
・令和4年度採択者による発表(3プロジェクト)
・フォトセッション
・交流会
―主催者挨拶
主催者挨拶は、広島県農林水産局長 大濵 清氏より行われた。本事業の目的やスキームを紹介するとともに、採択プロジェクトのメンバーの夢や熱量といったものまでも感じ取って欲しいというメッセージが送られた。
―事業概要説明
続いてプログラムの事務局である合同会社MHDFの山中良太氏よりプログラムの概要が説明された。このプログラムがマーケットインの視点から様々なバリューチェーンを構成する企業とともに、農業経営体の稼ぐ力を新しい事業をつくりながら高めるという野心的なプログラムであること、プログラムへの参加メリット、スケジュール、募集テーマや募集結果についての説明が行われた。
そして最後に、令和5年度採択者の採択に至った評価ポイントの紹介と令和4年度採択者の近況報告が行われた。
そしていよいよ、令和5年度採択者からの事業内容のプレゼンテーションが行われる。
―令和5年度採択者発表① 〜Fair-Farm Credit〜
最初に登壇したのはFair-Farm Credit(フェア ファーム クレジット)から本多正樹氏だ。
同氏は農業も行いながら、農業から地球の脱炭素化に貢献する「フェアファームクレジット」というプロジェクトを発案。農業の新しい稼ぐ力を提案している。現在は広島県安芸高田市で農業から地球の脱炭素化を進め、全国の農家の持続可能性を向上させることを企図している。
世界の温室効果ガスの排出量の11%を農業が占めていることからそのポテンシャルも高く、農業由来のJ-クレジット創出等の将来性を訴えた。具体的には、米を生産する過程の「中干し」という田を乾かすプロセスを1週間延長することで、土壌からのメタンガス排出抑制に繋がり、J-クレジットの発行が可能になるというものである。生産者へのインパクトとしては、1ヘクタール当たり4万円のJ-クレジットの創出が可能になる算段だ。
一方で中干しの延長は2等米や高温障害という米の品質的な問題が生じるリスクが非常に大きくなる。そのリスクをとってまで水稲生産者がJ-クレジット創出を目指すことは本末転倒になるため、収穫量の低下を防ぐ栽培方法の開発指導と生産者が手軽にJ-クレジット創出事業に参加できる仕組みを農家目線で構築するのが本プロジェクトのポイントとなる。
今年度は協議会を立ち上げ、IoTとDXツールを用いたオペレーションを設計し、600ヘクタールの確保を目指している。2024年にはクレジット創出による事業モデルの確立から3,000万円の売上目標を目指し、2025年には4,000ヘクタールを確保し8,000万円の売り上げを目指すということだ。
―令和5年度採択者発表② 〜MOTTAINAI BATON〜
次の発表はMOTTAINAI BATON(もったいないバトン)より目取眞興明氏から行われた。MOTTAINAI BATONはレトルトカレーを提供することによって食品ロスの問題を解消することを目指す企業だ。あらゆる食材をレトルトカレーにすることで商品化することができ、長期保存も可能になる。
廃棄してしまう規格外トマトを例にとった場合、冷凍にして販売したケースとレトルトカレーにしたケースで原価設定こそ変わるものの、売り上げの比較では約15倍、粗利益だと12倍となるという試算がでているという。レトルトカレーの制作体制としても学生を巻き込むなど多様な手法をとっており、バラエティ豊かな商品開発を行なっている。本プログラムにおいては、豊富に存在するポテンシャルの高い広島の食材を活かし、新しい広島の魅力を届けると同時に、ご当地カレーの広島というイメージ付けを目指して収益モデルを確立していく計画だ。
特に、学校という場所を活用し、食育という探究学習の一環としてレトルトカレーを作る企画を検討している。また、学校をハブにした活動を通じて、農業で生じてしまう生産量の2割程度の規格外品を小売店や飲食店で販売していくモデルを検討している。
マイルストーンとしては3年で5,500万円の売り上げを目指し、今期は7商品の開発を進めている。学校やハブになる小売店や飲食店との協議を始め、メリットを訴求するセミナーを行ないながら、多様な生産者を発掘していくことを企画している。そして3年後には、農業経営体側にも1,350万円の売上目標を付加価値としてつけることを企図している。
―令和5年度採択者発表③ 〜Farm to Baby〜
令和5年度の採択者の最後の発表はFarm to Baby(ファームトゥーベイビー)の矢野智美氏から行われた。“畑から赤ちゃんの成長を願う”というコンセプトを立て、農家があるいは農家ではなくても、農がある生活をしている人たちが気軽に6次産業化にチャレンジできる加工場を作ることを目指してシェアキッチンを作ったことからこのプロジェクトはスタートした。
彼らは地域に眠っている地域資源に目をつけた。それは通称“くず米”と言われる特定米穀で、一般的に流通するお米から選別に漏れた米だ。これらの米を魅力的な商材に変化させることで、今まで価値がなかったものが価値化されることを企図している。具体的な商材のネーミングは「だいきんぼし」。栽培期間中において化学肥料・化学農薬不使用のくず米を利用している。この商材のポテンシャルを生かし、ベビー用の高品質の離乳食などを開発している。現在のターゲットとなる子育て世代は共働きであったり、誰も子育てを手伝う人がいない“ワンオペ世代”と言われている。また、製品がオーガニックであることや、環境負荷の小さいものを大事にするというような世代の価値観の変化や、タイムパフォーマンスを重視する志向性から時短の商品でもありニーズにマッチし受け入れられると見込んでいる。
今年度の目標としては、既に加工実証が終わっている技術を中心に製品化していく。粉にすることでホットケーキミックス、30秒でできるおかゆ、甘味料代わりになる甘酒を中心に販売計画を立てる。このような“くず米”の価値化により750万円の収益向上を生み出すことを見込んでいる。
―令和4年度採択者発表① 〜HIROSHIMA HYBRID DESIGN〜
この後、令和5年度採択となった3者の発表に続き、令和4年度採択者の事業説明が行われた。
最初に登壇するのはHIROSHIMA HYBRID DESIGN(ひろしまハイブリッドデザイン)の小野敏史氏から発表された。
瞬間冷凍技術を生かし、広島から世界へそして子供たちに繋げることを目指して、広島の獲れたて・出来たてを世界中に送るということをテーマにしている。広島産の高品質な野菜や魚、畜産物を少量かつ手作り、無添加で作った商品として販売とするということを行なっている。同社ではこれら販売までの一連の流れを1次産業以外をワンストップで対応できることが強みだ。
プロジェクトの進捗としては、2年目の目標値である5,075万円の今期目標に対し、半期で2,920万円と順調に推移している。レモンや生トウモロコシ、広島生ガキなどを瞬間冷凍で販売している。特に牡蠣は今季も6万個程度生産予定と拡大している。他にもB級品の廃棄食材を使って、フレンチのシェフとタイアップした完全アニマルフリーの無添加のスープを開発するなど、飲食店とホテルの働き手不足を見越した提案も行なっている。さらに、広島ならではの課題として、イスラム教系の外国人に向けたハラル対応商品や比婆牛のブランド化、ビーガンラーメンなどマーケットニーズに合わせた広島でしかできない商品を精力的に開発し、目標を達成していく見込みだ。
―令和4年度採択者発表② 〜comorebi commune〜
続いては、comorebi commune(こもれびコミューン)から小嶋正太郎氏が登壇した。
プロジェクトは耕作放棄地になっていた尾道市の因島にある八朔畑から始まった。尾道市の農業人口のうち60歳から99歳の割合は93.7%と極めて高齢化が進んでおり、今後、八朔や安政柑といった因島原産の柑橘が途絶えてしまう可能性があるという。プロジェクトのメンバーは本業を持ちながら農業を兼業しており、農業以外の収入があることで農業にチャレンジできるという環境を作り、農業の楽しさを広め、柑橘づくりの後継者問題を解決することを目指している。
そのために令和4年度はファン作りの体験や商品ラインナップの拡大に注力し、今年度は、プロジェクトのコミュニティを支える収益を生み出す商品を開発し、実際に就農する方のモデルづくりを行なっている。実際にオリジナル商品として、八朔果汁100%ジュース「HASSAKU SHOT(ハッサクショット)」とリフレッシュドリンク「ISLANDER(アイランダー)」を販売。都内のセレクトショップやしまなみ海道のお土産屋店などで販売されている。また、本来であれば畑に廃棄する摘果した安政柑(あんせいかん)を尾道市にあるチョコレートメーカー「USHIO CHOCOLATL」とタイアップしてアップサイクルという形でチョコレートを作り、販売する予定も控えている。
一方コミュニティ形成の部分では、東京の「代官山T-SITE」や日本橋のホテル「K5」、県内では「広島PARCO」や、尾道市の「浄泉寺」というお寺でのイベントなどに参加することなどを通じて共感を獲得し、コミュニティをつくっている。さらに、共感の輪が広がり、パティスリーショップ「Made in ピエール・エルメ」とのコラボ商品の開発、ファッションブランド「agnès b.」のカフェメニューとして商品の販売、「帝国ホテル」内にあるバーでのカクテル用原材料としての使用などが実現した。タイアップ先で語られる情報をもとに東京から因島の畑に来訪者があるというケースも発生しており、コミュニティが広がりをみせつつある。
今後は地元企業のギフト需要を狙い、企業向けのオリジナル商品まで企画できる“農園のオーナー制度”を企画し、ファン獲得と売り上げの確保を狙っている。また、就農者の獲得という側面ではシステムエンジニアを本業にする方の移住も1件決まっていることから、その促進を狙い、“農家民宿”というものの立ち上げを予定している。これは、兼業農家として新規就農を検討する層向けの中・長期滞在できるような場所になる予定だ。
―令和4年度採択者発表③ 〜薬局 DE 野菜〜
令和4年度採択者の最後の登壇者は薬局DE野菜(やっきょくでやさい)から藤谷裕司氏だ。
同プロジェクトは薬局を売り場とした野菜を販売するスキームをつくる事業で、農家の商品の出口を一つでも増やし、選択肢を増やすことを狙って活動を開始した。昨年度の活動の結果、薬局における野菜販売の導入実績は広島市で7箇所、海田町と兵庫県でそれぞれ1箇所ずつの合計9箇所の導入実績となっている。2023年度の事業計画上の売り上げ見込みとしても、当初計画を上回る年間4,900万円が見えている状況で順調に業績が伸びているようだ。
要因のひとつに取引先として、良品計画、JA全農ひろしま、伊勢丹、といった大手との大口の取引が成立したことが挙げられる。同プロジェクトでは生産者個別の栽培状況を把握し、販売先のニーズに合わせた商品を提供していくことが強みのひとつだ。また、大手の企画に合わせ、実現可能な折衝代行などの調整を農家に代わって行うことができることも同プロジェクトの存在が決め手になる。
今後、薬局DE野菜の事業では新販売フォーマットとして、小さな冷蔵庫で機能性野菜を販売する事業を展開予定だ。これは例えば10日に1回、50パックの野菜を届け、無人で販売していくというようなパッケージだ。サブスクリプション型の料金体系を設定することも計画している。これは、大きな冷蔵庫を町の小さな薬局に置くことは物理的に難しいことを鑑みたものだ。卸売事業は、生産者と一丸となり、栽培品目の選定、量の確保、需要のある品目の数量の確保を徹底すること。そして、物流を並行して増強することが今後の課題であるということだった。
―交流会(試食・ネットワーキング)
令和4年度、5年度の採択者からの発表を終え、プレゼンテーションの中で触れられた採択者が持参した実際の商品が交流会の中で振る舞われた。参加者は試食をしながらプロジェクトについて採択者に質問をしたり、今後のビジネスの可能性について意見を交換したりしていた。今回の発表会の交流会では一般の方も自由参加となっており、採択者は商品に対する感想や意見を興味深く聞き入っていた。会場の盛況ぶりは、これから一層加速する採択者によるプロジェクトの推進を期待させるものだった。
イベントの詳細は以下アーカイブ動画からご確認いただけますので、是非ともご視聴ください。