![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76128716/rectangle_large_type_2_71a0695bd36a33c775da350cd72c6e6d.jpg?width=1200)
ロシアのウクライナ侵攻後の日本経済
パンデミック後:人的国際交流縮小の持続
2020年2月2日、ダイヤモンドプリンセスの横浜港着岸により、コロナ問題(パンデミック:感染症の世界的大流行)が日本で表面化してから、2年余りが経過している。国際的な人的交流が極端に細くなった状態は依然続いている(表1)。2022年1月と2020年1月の数値を対比すると外国人入国者は90分の1、日本人出国者は18分の1に減少した。顧客として短期の外国人観光客を想定するビジネスは消滅した。
表1 出入国管理統計 単位:人
外国人 再入国者数 新規 外国人 日本人 日本人
入国者 入国者数 出国者 帰国者 出国者
2020/01 2,698,793 395,523 2,573,270 na na 1,380,763
2020/02 1,155,946 166,208 989,738 na na 1,316,820
2020/03 217,671 65,509 152,162 na na 272,697
2020/04 5,312 4,056 1,256 na na 3,915
2020/05 4,485 4,320 165 na na 5,539
2020/06 8,029 7,644 385 na na 10,666
2020/07 10,300 9,370 930 24,989 27,133 20,295
2020/08 15,881 13,286 2,595 29,698 23,935 37,137
2020/09 18,859 12,921 5,938 30,949 23,351 31,609
2020/10 35,581 14,760 20,821 33,314 26,646 31,049
2020/11 66,603 15,609 50,994 36,626 30,453 30,703
2020/12 69,742 16,555 53,187 48,741 57,601 33,033
2021/01 55,712 18,525 37,187 35,136 25,231 48,691
2021/02 13,824 12,355 1,469 25,940 20,994 24,807
2021/03 19,393 17,376 2,017 37,134 38,929 28,896
2021/04 17,557 13,963 3,594 45,053 29,795 35,905
2021/05 17,371 12,253 5,118 27,279 32,414 30,123
2021/06 17,280 11,560 5,720 34,090 43,440 30,666
2021/07 59,466 12,341 47,125 44,817 51,627 43,184
2021/08 34,963 17,738 17,225 69,460 45,555 66,051
2021/09 27,757 20,838 6,916 43,154 38,106 52,367
2021/10 33,266 22,227 10,999 33,314 26,646 31,049
2021/11 32,751 21,168 11,568 43,178 48,095 51,774
2021/12 23,785 21,002 2,783 60,691 84,536 48,942
2022/01 29,735 22,720 2,015 36,820 39,723 74,982
2022/02 28,420 23,214 5,206 33,764 35,223 46,932
2022/03 82,455 34,037 48,418 52,833 90,389 70,678
資料:出入国管理統計(速報)
パンデミック:内外で人的移動需要が消滅
人的国際的交流の減少は対外移動需要の縮小を意味する。しかしそれに加えて、国内でも移動需要が基本的に減少したように見える(表2)。そのいくらかは(技術系の職種を中心に)リモートワークに働き方が変化したことや、Web会議の急速な普及を反映している。通勤や会議場所への移動の時間とコストの節約のメリットは大きく、消滅した需要の一部は今後も回復しない。パンデミックはこのような意味で、日本社会の在り方をも変えた。
表2 鉄道輸送統計 2019年同月比
旅客数 旅客輸送距離
2020/01 101.0 101.0
2020/02 100.1 96.9
2020/03 78.3 69.1
2020/04 54.5 42.7
2020/05 53.2 43.8
2020/06 69.7 61.0
2020/07 72.3 56.1
2020/08 72.0 59.0
2020/09 69.9 63.1
2020/10 78.6 68.8
2020/11 75.7 68.3
2020/12 73.3 64.8
2021/01 67.9 54.6
2021/02 69.8 58.4
2021/03 72.3 63.9
2021/04 72.9 59.5
2021/05 68.6 58.4
2021/06 72.9 64.9
2021/07 73.7 62.8
2021/08 68.7 57.8
2021/09 65.1 57.8
2021/10 77.7 67.9
2021/11 78.5 73.7
2021/12 81.6 78.6
2022/01 76.2 68.0
資料:鉄道輸送統計速報
パンデミック:社会生活の変化=ネット化を加速
パンデミックは、商品販売のルートにも大きな影響があったと推測される。例えば、営業時間規制を受けないことからネット販売の利用は一段と促進され、宅急便の利用が増えた。
H&Mやユニクロ(ファーストリテイリング)などSPA(製造小売speciality store retailer of private label apparel)の業者に比べて、品質に比べた価格、ファッション性、機能性などすべての面で提供商品が見劣りする百貨店やスーパーなどの対面衣料品販売は店舗への営業時間規制で存在価値を根本的に否定されたと考えられる。他方、営業時間規制を免れたスーパーの食料品販売が一貫して増勢を示したことも注目される(表3)。つまり生活に不可欠なものが何か社会的に不要なものは何かが、パンデミックでは冷酷に告示されたのである。
娯楽産業においてもたとえば映画館などが座席数などで規制を受ける中、多様な作品から自身の好みに合う作品を検索して見たいときに繰り返し見れる、ネット配信サービスの利用が増えた。視聴者の側が選択権をより広く行使できるこのサービスはこれまでの映像の提供のされ方と比較して革新的であり、テレビ放送を含めて映像コンテンツ産業の在り方を変革しつつある。需要のすそ野が広がることで、これまでは制作がむつかしかった、比較的少数の人を対象にした多様で高品質なコンテンツの作品が制作されることが期待されるのである。
これらの変化はパンデミック以前から指摘されていたことだが、パンデミックは、このような変化を加速した。
表3 商業動態統計 前年同月比売上高(%)
衣料品 飲食料品
百貨店 スーパー 百貨店 スーパー
2020/01 ▲5.5 ▲7.1 ▲0.9 0.1
2020/02 ▲16.3 ▲5.5 ▲3.8 6.8
2020/03 ▲39.0 ▲28.0 ▲23.2 7.9
2020/04 ▲82.4 ▲53.5 ▲50.7 12.2
2020/05 ▲73.8 ▲30.8 ▲43.1 12.7
2020/06 ▲18.5 ▲4.6 ▲12.4 6.0
2020/07 ▲24.2 ▲16.2 ▲11.5 7.3
2020/08 ▲21.1 ▲17.0 ▲17.5 8.7
2020/09 ▲38.5 ▲27.2 ▲15.0 3.6
2020/10 ▲1.6 2.6 ▲7.6 6.2
2020/11 ▲19.0 ▲17.8 ▲11.1 5.3
2020/12 ▲18.1 ▲13.0 ▲9.7 4.8
2021/01 ▲38.1 ▲23.1 ▲19.3 8.9
2021/02 ▲12.5 ▲18.3 ▲12.8 1.8
2021/03 26.9 4.4 11.9 ▲2.3
2021/04 281.8 60.2 63.6 ▲3.8
2021/05 80.8 1.4 34.0 ▲1.1
2021/06 ▲8.0 ▲20.0 1.3 1.8
2021/07 1.6 ▲3.5 2.2 1.9
2021/08 ▲18.9 ▲23.8 ▲8.0 0.3
2021/09 ▲5.1 ▲18.8 ▲1.5 2.6
2021/10 2.9 ▲12.2 2.1 2.2
2021/11 11.8 ▲3.7 4.5 0.3
2021/12 12.5 ▲4.2 3.6 ▲0.4
2022/01 21.3 ▲3.1 6.9 ▲0.3
2022/02 ▲1.4 ▲14.3 ▲1.0 2.6
資料:商業動態統計 全店ベース売上高 前年同月比%
ロシアのウクライナ侵攻後:高まるスタグフレーション懸念
ロシアの侵攻(2022年2月24日)後、アメリカの金利は一時低下(その後上昇)、国際商品価格は上昇、為替は、ドルと人民元については円安、ユーロについては一時円高後、やはり円安に転じた(表5)。米国の金利は一時下落後上昇、日本の金利は同じく一時下落後上昇したが、上昇に転じるのが遅く、かつ上昇幅が抑えられている(表4)。日本は大量に国債を発行している。その国債費負担を抑えるため、金融抑圧(金利抑圧)政策をとっていると専門家は指摘している(なお政府=日銀はデフレを脱却するために、金融緩和措置をとっていると公式には説明している)。
他方、日本とアメリカの株価は開戦後3週間の低迷のあと、ほぼ開戦前の水準を回復した(ただしこの開戦前の水準自体、高いものではない)。他方、興味深いことにゼロコロナ政策の失敗に悩む中国の株価は低迷を続け(表6)、ロシアの株価は一時半値に暴落。ロシアの株価の低迷は、国際的制裁の影響を如実に反映している。他方、大変興味深いのはルーブルの価値が(表7)、開戦時(2月24日)を上回る水準まで回復していることである(4月7日現在)。
今後、日本が金利抑圧政策が持続するとすると、各国が、国際商品価格上昇によるインフレを懸念して金利を引き上げる中、金利格差から円安が進むことになる。国際商品価格上昇の中での円安は輸入商品価格の急騰を招き、急速な物価上昇が懸念される。適切な賃上げがなければ、消費の減退からスタグフレーション化(不況とインフレが結合した状態)が懸念される。他方、円安は国際化した企業にとっては、収益改善(好況)要因である。この結果、日本の株価は、不況と好況の両極の判断が入り混じり不安定な動きを続けることが予想される。
表4 日米国債金利、原油価格、金価格の推移
2022年 日本国債10年物 米国国債10年物 NY原油 NY金
2月17日 0.225% 1.97% 91.76 1902.0
2月24日 0.185 -0.040 1.96 -0.01 92.81 1926.3
3月3日 0.170 -0.055 1.86 -0.11 107.67 1935.9
3月10日 0.185 -0.040 1.98 +0.01 106.02 2000.4
3月17日 0.206 -0.019 2.20 +0.03 102.98 1943.2
3月24日 0.230 +0.005 2.34 +0.37 112.34 1962.2
3月31日 0.217 -0.008 2.35 +0.38 100.28 1954.0
4月7日 0.231 +0.006 2.66 +0.69 96.03 1937.8
4月14日 0.237 +0.012 2.83 +0.76 106.95 1974.9
4月21日 0.251 +0.026 2.91 +0.94 103.79 1948.2
(資料:Morningstar 2022年4月24日閲覧 以下同じ)
表5 米ドル、ユーロ、人民元の相場推移
2022年 米ドル/円 ユーロ/円 人民元/円
2月17日 114.92 130.56 18.1
2月24日 115.49 129.25 18.23
3月3日 115.45 127.77 18.24
3月10日 116.13 127.57 18.34
3月17日 118.58 131.55 18.66
3月24日 122.36 134.55 19.18
3月31日 121.75 134.73 19.17
4月7日 124.13 134.82 19.52
4月14日 124.42 136.66 19.81
4月21日 128.42 139.13 19.91
表6 主要株価指数の推移
2022年 日経平均 TOPIX NASDAQ 上海総合 RTS指数
2月17日 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
2月24日 95.4 96.2 98.2 98.9 51.2
3月3日 97.6 97.4 98.7 100.4 NA
3月10日 94.3 94.8 95.7 95.0 NA
3月17日 97.9 98.3 98.6 92.7 NA
3月24日 103.2 102.6 103.5 93.7 58.8
3月31日 102.2 100.8 101.0 93.8 70.4
4月7日 98.7 99.1 101.3 93.3 75.3
4月14日 99.8 98.8 97.3 93.0 64.9
4月21日 101.3 99.8 96.0 88.8 66.3
資料:Bloomberg 市場情報 2月17日を100とする指数表示に直した。RTS指数はロシアの株価指数。
表7 ルーブルと小麦の相場推移
2022年 Ruble/USD Wheat Continuous Contract
2月17日 100.00 100.0
24日 90.38 116.2
3月3日 69.33 140.9
10日 57.13 159.9
17日 74.22 136.4
24日 74.58 134.9
31日 93.28 125.0
4月7日 95.62 126.7
14日 92.30 137.2
21日 94.30 133.8
資料:Bloomberg Market Watch 2月17日を100とする指数表示に直した。
いいなと思ったら応援しよう!
![福光 寛 中国経済思想摘記](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/8334246/profile_85817a44e986d7a947d9be7fece96f67.jpg?width=600&crop=1:1,smart)