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読書感想#4 【多様性の科学】意見違うヒトが集まるのってホント大事!

皆さん ダイバシティー&インクルージョン ってご存じですか?
ダイバシティ=多様性、インクルージョン=包括 となります。
LGBTQ の啓蒙などで語られるコトが多い思想運動です。
色々の企業でも、この思想を取り入れた経営が行われています。
というか、”もう、当たり前だよね” って雰囲気ですよね。

この思想の流れには、何の異論はないのです。
しかし、会社組織などで考えると、倫理的には理解するのですが、企業の競争力の視点では、どうように捉えるべきなのかなぁ とモヤってました。

その時出会ったのが、この本です。
読了感想は、「なるほど、多様性ってホント、組織運営には大事。って言うか、真剣にやらないとこれからリスク高すぎ!」

何故、9.11を、CIAは防げなかったのか?

いきなり重いテーマです。是非ついてきてください。
CIA 米国中央情報局。皆さんも映画やドラマでご存じですよね。
スパイを使って、ミッションインポッシブルみたいなコト は、少しはあると思うのですが、その仕事の殆どはデスクワークです。
一部の現地エージェントが身体を張って、情報取得するヒューミントありますが、ほとんどの情報入手は、シギントと言われるインターネットからの情報入手とその分析です。
この分析を行う人材は、米国においての”超”優秀層。メチャクチャ有能なヒトの集まりです。

では、この優秀層が何故9.11を事前に防げなかったのか?
この本はこの問からスタートします。
皆さんはどう考えますか?
模範解答 首謀者たるアルカイダの情報を入手できなかった。
ブー。残念でした。
実は、アルカイダの情報は豊富にありました。本当に豊富に。
では何故か?

この答えが、この本のメインテーマと言ってもよいと思います。
解答 中東文化を理解して、その重要度を分析できるヒトが、CIAにはいなかった。
書いてしまうと、”あーそうか”って感じですが、コレとても根が深いのです。

CIAの分析官は、米国エリート、中流家庭以上のアングロサクソン系、プロテスタントのアイビーリーガーに集中しています。
他の民族のヒトが少ない。当時、イスラム圏出身の職員はいなかったそうです。つまり、中東の文化を理解できる組織土壌が全くなかった。

アルカイダの主導者ビンラディンは声明動画を出していました。
それは、洞窟の中で焚火を囲んだ環境での声明でした。
これを見た分析官は思いました。
”こんな前近代的な組織が、米国を攻撃できるリスクは低い”

イスラム教徒がこの動画を見ると全く異なる印象を持ちます。
この動画の撮影環境は、イスラムの預言者の文脈で行われていると。
つまり物語性を重要視した演出だと。
ビンラディン自身を預言者に模していると。

その後も、様々な有力な情報がCIAには届きます。
中東では、ビンラディンが雑誌やポスターを飾り、声明は録画されビデオが販売されました。
そのような中東の盛り上がりの中で、アルカイダの訓練キャンプへ志願し、最終段階の訓練を終了し、180ページにも及ぶ、「専制的支配者へのジハードに関する軍事学」というハイジャック・スパイのマニュアルを熟読したテロリストが完成しつつありました。
この情報もCIAは入手していましたが、リスク評価を誤りました。
楽観視していました。

そして、9.11、アルカイダの作戦名「大いなる婚礼」は実行されました。
結果は皆さんが知るところです。

情報は本当に豊富にあったのです。
しかし、多様な価値感に基づく、情報分析と評価が、単一的価値観に支配されたCIAにはできませんでした。

集合知の多様性

9.11のCIA事例以外にも、イギリス80年代の人頭税導入で、富裕層減税・一般層増税導入を行った、貴族階級社会しか知らないニコラス・レドリ環境大臣事例、スウェーデンの除雪行政における、女性意志参加による生活実態に即した運用改善事例などが挙げられます。

これらに共通するのが、”集合知”の必要性です。

問題が単純であれば、優秀な個人に解決を依存すれば良いですが、
問題が複雑化すれば、かならず個人では欠ける知識があります。
ここで複数の知識を集める必要が出ます。
これが”集合知”です。

しかし、CIAも当然、複数の知識を集めていました。
ここで問題になるのが、集合知の”多様性”です。

同じ知識を持つヒトが複数集まっても、ほとんどが重なり合い、問題をカバーする領域は増えません。
多様な知識を持つヒトが集まることで、問題をカバーする領域を増やすことが肝要になります。
多様性は、民族的、人種的、性差的、そのような差異を包含することで、高まります。これを認知的多様性と呼びます。

エベレスト最悪の遭難事故

1996年に、エベレストで過去最悪の遭難事故が発生します。

優秀な登山家ガイド、ロブ・ホールが率いる公募隊がエベレスト登頂を目指していました。公募隊は、ベテラン登山家が集っておりました。
ロブ・ホールは、隊に対し8000m以上のデスゾーンにおいては、隊員に絶対的な指示遵守のルールを敷いていました。
隊員の中にベテランの飛行士がおり、登山途中、積乱雲の兆候に気付きますが、絶対リーダーのロブに報告を上げませんでした。

スコットフィッシャー率いる登山チームが、同時期に登頂を目指していました。そこではベテランガイドのボンベの酸素残量確認で誤認がありました。他隊員が誤認を気づきますが、これもガイドへの報告がなされませんでした。

結果、悪天候、判断ミスが重なり、8名が帰らぬヒトとなりました。
何故、このように大切な情報を持っているヒトが、適切なチーム共有が出来なかったのでしょうか?

筆者は、チーム内で共有する”順位制"だと指摘します。
ロブ・ホールはリーダーシップを発揮するために指示遵守という、順位を固定化させました。結果、適切な情報がリーダーに共有されず、判断ミスが重なります。
認知的多様性があっても、それが適切に共有されなければ意味をなしません。

支配ではなく、尊敬のヒエラルキー

リーダー=管理職をトップにする順位制があるヒエラルキー構造がダメなのでしょうか。面白い事例が挙げられます。
Googleで、管理職をすべて排して完全にフラットな組織運営を試みたことがありました。結果は、、、大失敗。
方向性も定まらず、協力体制も構築できなくなりました。代表のラリーとセルゲイは、直ぐに元に戻しています。

ではどのような、ヒエラルキー体制が良いのか?

イギリスの人類学者が狩猟民族調査で分かったヒエラルキー構造を、対比として2つ挙げています。
 1 支配的ヒエラルキー 
 2 尊敬的ヒエラルキー
1は、古代社会に存在しました。またエベレストチームは、1でした。
2は、狩猟採取民族のリーダーで見られる形態です。人類独自に進化しました。このリーダーは寛容な態度を示し、知恵を共有します。従属者に伝播し、協力的態度が支配的にはなります。
1の従属者の意見は”懲罰”対象となり、2の意見は”称賛”対象となります。
心理的安全性は、圧倒的に2の体制となります。

これが、エベレストチームに、有効な知見が集まらず、リーダーが的確な判断が出来なかった要因だと筆者は指摘します。

エベレスト登山のような、外的要因が刻一刻と変化する環境下での、極限のチャレンジでは、各自の能力を発揮できることが大切になります。
一方、外的要因が自身の能力を大幅に超え、コントロールできないよう環境下では、ヒトは支配的ヒエラルキーに依存する、という傾向があるようです。
例えば、”戦場”です。いつ死ぬか自身ではコントロールできない環境では、絶対的な軍規にヒトは依存するのが、生存戦略としては最適となります。

多様性って、イノベーションにも大事

ここまで語られたのが、リスク回避するために多様性の認知をどのように集めるのか、ということでした。
ここからは、”イノベーション”。
今の日本で、最も必要だと言われて久しいワードです。
これにも”多様性”がとても大切だと、論じられています。

イノベーションには2つの型があります。
 1 漸進的イノベーション
 2 融合的イノベーション
1は、少しずづ改良を重ねながら、イノベーションを起こす型です。
2は、2つの全く異なる技術や知見を融合させるコトで起きる、イノベーションです。

2の事例として挙げられているのが、”キャリーケース”です。
1950年代、スーツケースと車輪を組み合わせるアイディアを思いつきましたが、そのアイディアは当時どの鞄メーカーは見向きもせず、中々商品化しませんでした。
何社も断られ、最後にメイシーズ社の副社長がGOを出しました。
結果、百貨店メイシーズのこの商品が並ぶと、飛ぶように売れたそうです。

何故?50年代の鞄メーカーは、このアイディアに飛びつかなかったのか?

筆者は、既往の鞄づくりの熟練した”常識”にずっぽり浸かりきったモノづくりのヒトは、この”常識”に囚われてしまう、そのために、新しいアイディアの”可能性”に気付かない、と指摘します。

進化論で有名なダーウィンは、進化生物学のみならず、心理学、動物学、植物学、地質学 を横断的に研究し、論文発表100本中、43本は異なる分野の論文を発表していて、その結果として、進化論にたどり着いたそうです。

今の時代、外部環境の変化速度は人類歴史上最速と言われます。
そのような環境では、”融合的イノベーション” の重要度が指数関数的に高まっています。
その時に重要なのが、既存、単一な認知ではなく、分野を横断できる、”多様性ある認知”。
これは、なかなか興味深い視点だと思いました。

まとめ

この後も、”多様性”の重要性について、様々な論が展開されます。
豊富な事例を用いながら語られており、とても説得力があります。
今回この記事を読まれて興味ある方は、是非本書お読みください。
多くビジネスに関する書物読みましたが、トップ10に入る面白さと学びの深さがありました。

僕は、仕事で、様々な課題解決を求められるケースがありましたが、熟練度が高いチームであればあるほど、過去の成功体験に”引っ張られる”ことが多くあります。強制的に外部の視点を入れると、全然異なる切り口が生まれるコトがあります。
この本を読んで、改めて「なるほど、やはり多様な視点を入れるのは大切だ」と腹落ちした次第です。

私の好きなPodcast ”COTEN RADIO”の歴史からの学びでは、民族や文化の多様性を許容した国家が、生き残るというファクトがあります。
ローマ帝国 カエサルは、支配地域の民族をローマ市民としての権利を与えた。
蒙古帝国 チンギスハンは、占領支配した民族の強みを取り込み、遊牧民族が不得意な領地経営を担わせた。
歴史も、”多様性”の重要さを証明しているなと、思います。

人種や性差のみならず、年齢差や、他のコミュニティ、一番近いところでは、いつも話していないヒト。
色々な”多様性”を包含するコト、近いトコロから僕も始めたいと思います。

今回も長文になってしまいました。。。。
ここまでお付き合い頂いた方、ありがとうございます。
共感いただけましたら、またお越し頂けたら嬉しいです。




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