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映画感想#2【CIVIL WAR】怖い、ともかく怖い。アメリカや世界の危ない現在地を切り取った傑作!

今回ご紹介する映画は、【CIVIL WAR アメリカ最後の日】です。
感想は、ともかく怖い。劇場で是非その怖さを感じ取って欲しい!今年度、最も重要な劇場作品!

何故、そんなに怖いのか。何が重要なのか。
語っていきたいと思います。


大まかなストーリー(ネタばれないレベルで)

舞台は、アメリカ。テキサス州とフロリダ州が連合して、アメリカに内戦を挑む状況が起きています。形勢は、政府軍が劣勢。
その状況下、著名な報道カメラマン リー・スミス(キルステン・ダンスト)とジャーナリスト ジョエル(ワグネル・モウラ)が大統領のインタビューと写真を収めるために、ワシントンDCに向かう計画を立てます。
そこに、新人戦場カメラマン ジェシー・カレン(ケイリー・スピーニー)と、リーのメンター古参の報道記者サミーが、その旅に加わります。
DCに向かうまでの旅路が、物語の骨子となっています。

何が、そんなに怖いのか?

この映画、何故 テキサス州とフロリダ州が、政府へ内戦を仕掛けているのか、その政治的理由、経緯は全く語られません。

え、それでは、意味が判らないんじゃない?

そうなんです、多分この監督は、その政治的理由を、敢えて放棄しています。
観客は、理由や意味を説明されずに、戦争の状況に放り込まれるような、体験を供されます。
その体験は、圧倒的なリアリティのある、画作りとサウンドスケープで、構成されています。
市街地戦の兵士に追従した報道カメラマンの視点、その間近に飛来する弾丸の空気を切り裂く音、着弾音、ロケット弾の炸裂音、どれもが恐ろしいほどリアルに迫ります。

僕の推測ですが、戦争の理由を敢えて放棄する意図、それは、作り手が戦争における政治的因果に、”意味”を見出していないからではないかと思います。
ヒトは歴史を振り返ると、様々な自分達にとっての”正義”をかざして、暴力を行使します。
その状況に巻き込まれる人々、兵士や市井の人々には、その”正義”は関係がない。ただただ、暴力がそこに在るだけです。

それが伝わるので、怖い。

日常の脆弱性

僕は、この映画は2つの意図を持っていると思いました。
一つは、今まさに進行形の、アメリカの分断。
この映画の公開時期が、アメリカ大統領選の真っただ中なのは、間違いなく狙いだと思います。結果、全米一位を奪取しています。
アメリカの人たちは、どんな想いでこの映画を観たのか。本当に気になります。
間違いなく、21年に起こったトランプ氏支援一派の米国議事堂襲撃事件を、思い出したと思います。米国における分断は、既にデフォルトになった感があります。それが際立つ選挙戦の最中。
日本人の僕でもこれだけ、怖いのですから、米国人は如何ばかりかと思います。

もう一つは、世界の平和の脆弱性です。
僕は間違いなく、21年に起こったウクライナ侵攻が、この映画に大きな影響を与えていると思います。
今まで僕たちが信じてきた”世界秩序”。これが、如何に容易に破壊されるのか。
その事実を、僕たちは、ロシアによるウクライナ侵攻で、知ってしまいました。
明確な”国土侵略”という、前時代的に捉えていた”暴力”を、この21世紀に行使するのかと。
それ位、秩序に保たれていた”日常”は脆弱だというコト。
その脆弱性を、この映画はとても強く感じさせます。
アメリカ本土という、戦争から一番遠いイメージを持つ土地、その風景。
その日常を共有していた人々が、互いに”暴力”を行使する非日常に変わってしまう。ちょっと前まで隣人であった人同士が。

とても、怖いです。

物語と役者の魅力

この映画の魅力は、前述のような、”現在世界との繋がり”、のみならず、物語と役者の力もとても大きいです。
物語は、冒頭書いた4人が疑似家族のように描かれ、そのロードムービーとして進行します。
アメリカという地を旅する。その大地の自然の風景が、とてもキレイに映し出されます。その美しい景色に、暴力と破壊の痕跡が重なる。
この対比が、戦争の恐ろしさを際立たせています。

もひとつの物語の柱は、新人カメラマン ジェシーの成長譚です。
その、ジェシーを演じるケイリー・スピーニーがとても良い。
最近だと、「エイリアン・ロムルス」でも主演をしており、今勢いのある若手俳優です。
そしてベテランカメラマンを演じたキルステン・ダンスト。この人、良い年の取り方してますよね。
昔から、何かを抱えたような眼が印象的でしたが、本作の役は、戦場カメラマンとして多くの人の死をカメラに納めてきた苦悩が、その疲れた眼に宿っている。
ケイリーとの対比がとても良い。

まとめ

戦争映画でこれだけ圧倒的恐怖体験をしたのは、プライベートライアン以来だと思います。(DーDAYの上陸シーンは、本当に怖かった、、)
しかも、映画という物語力と役者、撮影・音響がものすごく高いレベルで調和されいるクリエイティブの質の高さ。そして現実世界と同時進行的なつながり。
中々出会うコトない、映画だと思います。
間に合う方は、是非映画館で体験ください。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
またの来訪をお待ちしております。

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