「パインと移民」を読んでみた
「パインと移民」(新泉社)を読んでの感想です。よろしくお願いします。
自衛隊駐屯地新設やミサイル配備で「揺れる」石垣島。
私はあまりよく知らなかったのですが、パイナップル生産の盛んな場所としても有名なようです。
本書は、なぜ石垣島がパイナップルの銘産地となったのか。あまり知られていない歴史をひも解き、島で生きる人々の思いに迫る、生活史の聞き取りを基にした著作。社会学の本ですね。
パイナップルやサトウキビ、そして多様な南国フルーツが栽培される石垣島ですが、本格的に農業がはじまったのは明治初期。
強酸性の土地(いわゆる赤土)が覆う「不毛地帯」が島の多くの面積を占めていたようです。
さらに地域特性として、やはり台風被害も多く、作物が安定して栽培できる島ではなかったようです。
石垣島でパイナップル栽培が本格的に始まるのは1920年代。
赤土に覆われた土地を開墾し、栽培に挑んだのは、沖縄本島や宮古島、当時日本の植民地だった台湾からの移民たちでした。
石垣島は「合衆国」という別名をもつほど、多様な「移民の島」ということを、別の本(多層性とダイナミズムー沖縄・石垣島の社会学)で知りました。
戦前、パイナップルは加工品(缶詰)としての栽培が主目的であり、多くの加工工場が稼働し、移民労働者の生活を支えました。
しかし1972年の「本土復帰」をきっかけに、パイナップルの輸入自由化、そもそものパイン缶の需要変化などもあり、産業は急速に斜陽化し、衰退。
しかし農家たち(移民1世、2世くらいか?)は土地への強い愛情、移民農家としてのプライドをかけて品種改良に取り組み、生食用果実としてのパイナップルのブランド化を実現。自分たちの力で、生活を立て直す逞しさを発揮します。
この歴史から学ぶべき核心について著者である廣本さんが「はじめに」で語る言葉が印象的。
「社会の中で『周辺化』『他者化』された移民=少数者が現状への批判から未来を切り拓き、逞しく生き抜こうとする実践」(はじめに)
「周辺化」「他者化」とは、私なりに理解で言うと、と社会の中心的存在である権力や多数派から遠ざけられ、排除されること。
たしかに八重山諸島や宮古島周辺など、沖縄本島から見た離島は、琉球王朝時代から、周辺化・他者化された歴史をもっています。
石垣島のある八重山諸島は東京から約2000km、沖縄本島の那覇からも400km以上離れています。
距離以上に、そこでの生活は、離島ならではの差別など、多様な困難があったことは想像に難くありません。
「沖縄は基地と補助金が主要産業」と蔑視する言説もあります。
しかし石垣島の歴史が明らかにするのは、どんなに「周辺化」「他者化」されようとも自立・自律した経済は可能である、ということが著者の言いたいことなのだと思うし、私もそれについては、合意します。
石垣島の歴史からは、沖縄県全体が直面する「困難打開の途」が、薄っすらと見えてくるように思えます。
新たな沖縄の未来を考える上で、貴重な視点を提供する一冊です。
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