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「悲しいときに浮かぶのは、いつでも君の顔だったよ」 #Fishmans
ほかのnoteと同じように、これもとても個人的なnoteになる。だからどこから書き出せば良いのかわからない。でも、わからない、と逃げていたら、頭の中だけでグルグルさせていたら、フィッシュマンズへの想いを伝えることができないので、一気に書こうと今朝決めた。
「フィッシュマンズ」というバンドがいる。
いた、と表現したほうがいいのかもしれない。メンバーが今ではドラムしかいないからだ。ギターが脱退し、キーボードが脱退し、ベースが脱退し、ボーカルの佐藤さんが99年に急逝し、そしてドラムの茂木さんだけが残った。
茂木さんには感謝しかない。彼がフィッシュマンズを解散させなかったおかげで、今でもライブが行われているし、新譜ではないけれど過去のライブ音源が今でも新曲としてSpotifyで配信されている。
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1999年にボーカルの佐藤さんが亡くなったとき、僕はフィッシュマンズを知らなかった。
でも今にして思えば、その喪失は僕の周囲の、とても近い場所でも影を落としていた。当時大好きだった女の子が、フィッシュマンズと、佐藤さんがいなくなった後のメンバーの音を聴いていたからだ。
デートで立ち寄った下北沢の小さなCDショップ。彼女がなにかを視聴している。聞いたことのない女性のアーティスト名で、インディーズのバンドらしかった。「なに聴いてるの?」という僕の質問には、直接はこたえてくれなかった。
「彼が急にいなくなったあとの、彼女の悲しみは、見ていられなかった」
それだけ言って、ヘッドフォンを手渡した。
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フィッシュマンズをちゃんと聴いたのは、それからだいぶたった2005年だった。ベスト盤の『宇宙』と『空中』が発売されたころ。一緒に住んでいた彼女(99年の彼女とは別の人で、夜の仕事をしていて、気性が激しかった)が、めずらしく嬉しそうにCDを買ってきて、部屋のコンポでくりかえし聴いていた。
優しくて、穏やかで、静かで、心にすっと入ってくる音だった。儚さや弱さだけではなくて、ちゃんと強さもあった。
「昔、よく聴いてた。私の大好きな歌なの」
彼女が大好きだった歌は、いつしか僕の大好きな歌になった。雨の日に『LONG SEASON』をオートリピートでかける。1曲35分もある、長い長い歌だ。歌、と呼んでいいのかどうかすらもわからない。そして長いと書いたけれど、聴いていると長さは感じない。ずっとずっと聴いていられる。ずっとずっと聴いていたい。聴いていたいのに、当然だけれど、終りが来る。
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フィッシュマンズの実質上の最後のアルバムが、『98.12.28 男達の別れ』という98年に録音されたライブ音源集。
初期メンバーだったギターとキーボードはすでにいなくて、ベースが98年末に脱退することをうけての、「男達の別れ」というライブ名だった。
そして、その3ヶ月後の99年3月15日に、佐藤さんがこの世を去った。
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あれから20年以上が経って、日本よりも、世界中でフィッシュマンズを聴いている人が増えていると知って、嬉しさと、「ああ、音楽の良さは、ちゃんと言語や国境の壁を超えるんだな」という、しみじみとした感動がある。
英語のコメントを読んで、思わず涙ぐんでしまうくらいにはしみじみしている。そのコメントをいくつか紹介して終わりにしたい。
「rate your music」という英語の音楽批評サイトから。
ロック中心の批評サイト。歴代アルバムのランキング第1位は、「Radiohead」の『OK Computer』。これも大好きだ。
「Pink Floyd」や「The Beatles」に並んで、第17位に「Fishmans」の『98.12.28 男達の別れ (98.12.28 Otokotachi no Wakare)』がラインクインしている。
これはたぶんすごいことだ。100位内で日本のアーティストはフィッシュマンズだけ。そして、ライブ・アルバムがランクインしているのもフィッシマンズだけ。
では、僕の気に入ったコメントをいくつか。
「人生が変わる。こんなに死ぬほど美しい音楽を、かつて人は作ったことがあるか?」 Specter604 Mar 27 2021
「今までで一番好きなアルバムかもしれない。そして、今までで私を泣かせたことのある唯一のアルバム」 savoyo Dec 13 2020
「Fishmansの最高傑作? 間違いない。
最高のライブアルバム? そう。ライヴ・ミュージックでこれ以上のものはない。
最も偉大なロック・アルバム? 私の好みでってことでいえば、間違いないね」 Jinbae Sep 19 2020
「LONG SEASONの最後、あらゆる白い光が佐藤伸治に集中して、彼は最後のメロディを歌う。
僕は人生の意味も知らないし、死後の世界も知らないし、宗教も持っていない。
でも、彼が歌い終わってから、彼の背中に天使の羽根が生えているのがわかる。そして目的を達成した彼が、その存在が、ゆっくりと消えていくのがわかる。
史上最高の音楽表現を生み出した関係者の皆様、ありがとうございました」 Captain_Cloud May 19 2020
最後のコメントは美しいし、僕も同感だし、この長いnoteよりもコンパクトで雄弁でこの紹介だけでいい気もしてきた。
これだけ煽って、いきなりライブ盤の『LONG SEASON』を聴いても、41分30秒もあって初聞だと「は?」となりそうなので、キャッチーな、もしかしたら知っているかもしれない『いかれたBaby』を先に紹介したい。
今回は特別に、結婚式で披露されたバージョンで『WEDDING BABY』。
歓声が臨場感があって好き。何度でも聴ける。
最後に、
『98.12.28 男達の別れ』の最後の曲。佐藤さんが歌った最後の曲。
できれば、静かな部屋で聴いてほしい。誰にも邪魔されない場所で。深夜だったらなお良いし、雨の日にもきっとあうはず。