離婚寸前まで行ったあの日
その日は唐突に現れました。
3歳になる娘を連れ、妻は実家へ帰りました。
私がどこか気もそぞろで全くと言っていいほど娘のことを気にも留めていなかったからです。
ただ、公園へ連れて行ってやったり、食器を洗ったり、洗濯物を取り込んだり、ゴミ捨てをしたりと、ひと通りの主夫業はやっていました。
けれど、それでは事は解決せず、妻との間に木枯らしのような風が吹いていました。義務感でやっていた自分はどこかフテ腐れ、内心腹を立てていたのです。
そんなある日のこと、私の暴言が元で妻は実家に帰ってしまいました。私がイライラとしていると子どもに良くないという判断からです(こういう時って得てして女性は妻から母モードになります)。
私は自分の業やサガがわかっているから、自暴自棄になったり、ヤケになったりせず、妻の実家を訪ねることにしました。折り合いがつくかもしれない――そう想えたからです。
帰ってみると妻は無言でした。私の素行に腹を立てているのでしょう。けれどこちらにはこちらの言い分があります。決して私だけが悪いわけではないのです。
夜になると妻のお義父さん(義父)は事の問題には触れようとせず、ボソっとひと言こう言ったのです。
「ひろくん、いろいろあろうけど、まぁれいこのことよろしく頼むよ」
そう言ってビールの350mlの缶をプシュっと開けて手渡したのです。
もうそれだけで十分でした。私のことを思いやり、わかってくれている。そう想うと「ハイ」とひと言返事しました。
誰しもわかっているのです。自分にも非があるということを――。けれどもひとたび鞘から出した刀はそうそう引っ込めるわけにはいかない。上げた拳はそう簡単に下ろすわけにはいかないのです。
けれども義父の私を思いやるひと言を聴いたとき、それまでの怒りは一瞬にして消えました。「わかってくれた」との想いが私を素直にし、大人げない態度を改めさせたのです。
何度も危機はありましたが、そこから関係を見つめ、よみがえってきました。気づいたら28年、出逢って38年の歳月が経っていました。
そこでふたりの気づきを元にまとめたのが本書です。おかげさまでジャニーズや少年誌と並び、多数の方に読まれています。
先日は92万冊もある電子書籍の中で総合ランキング1位という快挙をいただきました。
人生諦めちゃいけないと言うけれど、実際にはそうじゃない。諦めかけたときに光は差し込んでくるのです。
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https://7net.omni7.jp/detail/5110995473
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