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私の躁うつ日記17〜涙のスウィートハート

「アタタタタタッ!!」朝イチで私は北斗の拳となった。今すぐにも病院に行って何とかしてもらいたいが、早く行き過ぎても叱られる。しかし渋滞を考えると路肩で産むのはイヤなので、とりあえず家を出ることにした。

ベースの病院で診察を受けると案の定「まだまだだね」と言われ、廊下でも歩いてろという雰囲気だ。ベッドも与えられずひたすらウロウロする。Jっ子の時もこの調子で、8時間ぐらい北斗の拳のままだった。分娩台に乗った時にはもう夜で、なぜかプロレス中継が流れていた。アメリカ式だとロケット発射のように5、4、3…とカウントされる。ヒッヒッフーと覚えていたのでどうにもやりにくい。それでも時は満ち、馬場よりこっちのほうがヤシの実割りだわ!と思いつつ小さなJをひりだした。なぜかキャップをかぶされて、ちんまりと可愛らしい女の子だった。

うっとりするのも束の間で、下半身が全部痛い。ありえない力でいきむので顔の毛細血管が切れて頬も真っ赤だ。それを見た鯰軍曹に「タケちゃんマンみたい」と笑われた。あの時からアイツはああゆう奴だった。はげしく共感能力に欠けるのだ。

そうこうしているうちに何かでてきた。後産といって不要になった胎盤が
排出されるのだ。色々でてくるなー、そのうち鳩とか万国旗もでてきたりして…などと思った。「マイスウィートハート、いまのあなたは別人のように綺麗よ」と看護婦に言われ「誰だ、おめ」
と驚いた。出産を終えた私を讃えてくれているのだろうけど、スウィートハート呼びは初めてだったのだ。かと思えば超塩対応の看護師が「今すぐ浴びろ」と車椅子で迎えに来てシャワールームに放り込まれた。下半身全滅で立っているのもつらいのに…でも寒いので水栓をひねる。ベースのシャワーはヘッドが動かせないアホシャワーである。唸りながら湯を浴びていると足元が血まみれになる。映画「サイコ」のワンシーンみたいだ。

産んだ夜からオムツもミルクも1人でやれ、とのことだった。さすが軍の施設、スパルタだ。母乳でいくつもりだったが最初のうちは乳腺が開いていないので痛い。ちゃんと吸い付いてくれるJの期待には応えたいが、しにそーになったので人工ミルクも併用する。初めから親密だなぁ…などとへんな感想を持つ。母親になりたてで、とにかく実感がなかったのだ。

それから4年、経産婦となった私は2人目など余裕に決まっている…と思っていた。しかしザリガニ妊娠中にあまりにも色々なことがありすぎた。いまでもザリガニが何かやらかすと「胎教のせいかな…」と思ってしまう。幸せな妊婦ライフを送ったことがないので、妊婦さんを見ると「幸あれ!」と
念を送る。

夕方までベース内をうろつくうちに「キターッ!」という確信を得た。「お印」と言って少量の出血があるのだ。もう一度診察を受けると「ん、いいんじゃない?」って感じで雑に人工破水された。ベースの病院は促進剤もバンバン打つ。Jの時はあまり効かなかったが、ザリガニは胎内で「お?」と反応したようでヤル気を見せてきた。痛いわ暑いわで軍曹に「お水買ってきて!」と頼むとファンタグレープを買ってきた。「ファンタで子供が産めるか〜!!」と怒りつつもファンタを飲み、ザリガニを産んだ。ザリガニが今でもグレープ味が好きなのはこのせいだと思う。

#双極性障害
#躁うつ病
#出産

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