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大著、「土と脂」を読み終えた。
先日、デイビッド・モントゴメリー他による大作「土と脂 微生物が回すフードシステム」(築地書館)を読了した。
その重厚な内容と、農学・農業にかんする専門的な内容を含むため、すらすらとはいかない本だった。
近年、わたしは健康への関心から食生活に気をつけるようになっており、スーパーでは野菜や果物を優先的に買うようにしていた。そんな中でふと思っていたのは、われわれが食べる食物はいったいどのようにして育てられているのか、という問題だった。
たとえば家畜は、工場式畜産によって日光の制限された狭い屋内に囲い込まれ、その食餌には抗生物質やホルモン剤が大量に使われ、高度に加工された飼育飼料が与えられて育てられていることはよく知られている。
同様に、野菜や果物といった植物類も、その栽培には化学肥料や農薬がふんだんに使われている。そしてそれは、病害虫の被害を減らし、収量を増やすためにはある程度仕方がないことだと思っていた。
一世紀前、典型的な西洋の食事はある程度の肉と、最小限に加工された植物性食品で主に構成され、後者の栽培にあたって化学肥料や農薬は、使われたとしてもわずかなものだった。
今日、肉の量ははるかに多く、動物の飼育条件は不適切で、食物性食品は高度に加工された単糖類と植物性油脂を多く含み、大量の農薬と化学肥料を使って栽培されている。
しかし、そうした栽培のあり方には問題があり、有益な土壌微生物を殺してしまうことによって、生き物の健康にとって不可欠なビタミンやミネラルといった微量栄養素までもが失われてしまうことになる。
機械耕起、農芸化学、単一栽培(モノカルチャー)という農学の三本柱は、食物の栽培法を根本から変え、土壌生物がミネラルを獲得して食物に手渡すために重要なつながりを断ち切った。
さらに、肥料や農薬に依存した栽培法は、栄養が失われるだけでなく、実際には害虫をはびこらせる結果となり、ますます肥料や農薬に依存することでかえって農家にとって負担となる現状が明かされる。
作物の窒素含有量を増やす化学肥料を使用すると、害虫が増え、より長く生きるようになる。水溶性の窒素肥料に頼ることは、食物の防御力を弱め、より大きく、健康な草食性の害虫を増やすことになるようだ。害虫もまた、その食べものが食べたものでできている。
「窒素肥料がモノカルチャーへの道を開いた。いったんモノカルチャーを始めてしまうと、生産性を維持する手段は農薬しかないのだ」。
そしてこれが終わりのない農薬依存への下地となり、農薬の業者は農家から代金を徴収し続けることができるーいわば農家から収穫しているのだ。
本書では、そうした問題のある栽培法とはべつに、土壌の健康を取り戻すことによって栄養素の豊富な植物が栽培できるようになり、それが人間の健康にとっても有益でなおかつ農家の負担を減らすことを、豊富なエビデンスとともに説明している。
最小限の撹乱(不耕起または低耕起)、継続的なバイオマスの栽培(被覆作物、随伴作物)、収穫物の多様化、輪作を組み合わせた農法は、柔軟で融通が利き、燃料や化学肥料、農薬の使用量を削減する。そして、こうしたものの使用料を減らせば、農家の所得は増える。たいてい誰からも喜ばれる話だ。
農業は、土壌とその肥沃度を枯渇させることも、土壌の健康を促進・維持することもできる。そして今世紀にわれわれが土壌に何をするかが、これからの数世紀の人類に影響を及ぼす。土壌の健康と栄養素密度を犠牲にして高収量を得ることに専念するなら、われわれは健康を守ることなく飢餓を解決するという危険を冒す。
この道を歩み続ければ、人類が持つもっとも重要な自然な財産ー健康で肥沃な土壌と健康な人間ーを浪費するという、過去の文明の過ちをくり返すことになるだろう。
もともと農業に関心があるわけではまったくない。しかし、食べ物を得るためにはスーパーで買うしかない一択であることには、どこか問題があると感じていた。
しかも、最近は物価高が続いており、食料自給率の低い日本は外国から食料の大半を購入するしかない運命にあるのだ。地球環境の大きな変動があり、国際情勢の変化によっても、このさき健康的な食べ物が入手できるとは限らない。そうした危機感もある。できることなら、自分の手で栽培したいという思いがある。
このように、将来もしかしたら小規模農業や家庭菜園を自分でやるかもしれないと、読んでいていくつかの文章をGoogleドライブに転記しながら読んでいた。本書は、健康と食べ物のジャンルにおいて、自分にとって座右の書になるかもしれない。やや小難しい内容であるものの、読んでいてそんな躍動感を感じさせる書物だった。