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イノベーションのジレンマ

今日のおすすめの一冊は、山本康正氏の『なぜ日本企業はゲームチェンジャーになれないのか』(祥伝社新書)です。その中から「型を崩すこと」という題でブログを書きました。

本書の中に「イノベーションのジレンマ」という興味深い文章がありました。

 馬車がT型フォードに、ガラケーがスマホに、CDが音楽配信サービスにシフトしたように、「業界のトップ企業ほど変革のタイミングを見誤る」というイノベーションのジレンマがあります。
これと近いものに、「その道のプロフェッショナルほどイノベーションを過小評価する」という共通点があります。 業界をよく知る専門家、ベテラン技術者、ヘビーユーザーのように、そのジャンルに思い入れやこだわりが強く、深くコミットしている人ほど、のちにイノベーションと呼ばれるものに対して、最初は強く反発する傾向が見られます。
YouTube(ユーチューブ)が登場したときもそうでした。 映像業界の多くのプロたちからは、「こんな素人の動画が面白いわけがない」「画質が粗くてストレスだ」などと否定的な声があがりました。 
しかし、素人とプロでは母数が圧倒的に違います。10万人の素人が動画を投稿するようになれば、なかには必ず抜群に面白い映像や、プロが唸るようなユニークな着眼点の映像などが出てきます。
「ユーチューバーはたんなる素人。 テレビに出ている役者には敵わない」 「映像業界のヒエラルキーは映画が一番高く、次がテレビドラマ、ユーチューブは最下層」 そんな風に受け止めている人が過去にはいましたが、その認識はまったくの誤りです。
先入観のない若い世代ほど、旧来のヒエラルキーや役者の格といったものにとらわれることなく、自分の好みに素直に、見たい人の動画を見ているのが今の時代です。 業界構造を知る映像関係者ほど、そういった原理で物事が動き始めていたことに気づくのが遅れてしまったのではないでしょうか。 
2006年にグーグルが自社のグーグル・ビデオでは追いつけないと悟り、ユーチュー ブを買収するという“革命”が起きたときには、すでに業界の変化は始まっていたのです。そして、近年では TikTok(ティックトック)など新しい短編動画サービスでさらに変化は加速していきます。 映像業界に限らず、あらゆる業界で同じことが起きています。
「専門家が認めた最先端のテクノロジーを苦労して詰め込んだのだから、きっと売れるはずだ」という思い込みは、あまりにもユーザーの声を軽視しています。 もちろん、多くのイノベーションはひと目で判断できるものではありません。
イノベーション研究の始祖であるクリステンセンがiPhone の価値を見誤ったように、革新的なプロダクトやサービスの本当の価値は、多くの場合、じわじわと時間をかけて理解されていきます。
そうして数年後に研究論文が発表され、定性評価を得られたときに、初めて「イノベーションであることを歴史が証明した」となるのでしょう。 ですから、初対面で判断できなくても問題ありません。
ただし、「こんなのは売れないだろう」と表層的な情報だけで軽率に判断を下してしまうと、あっという間に時代に追い抜かれてしまいます。「もうオジサンだからわからない」「古い人間には理解できないなあ」といった態度も、一見へりくだっているようで、じつは理解することを早々に諦めて開き直っている、思考停止状態です。
少なくとも、そのサービスを実際に使ってみることなしに批評するのは判断を誤ります。批評家と事業家は違います。批評家気分では新しいビジネスは生まれません。実業家はその実体験をもとに、次の事業を常に考えなければなりません。

新たなテクノロジーを使った製品やサービスが生まれたとき、どういう態度を取るかによって、時代の変化についていけるかどうかが試される。「こんなのは子供だましだ」「大したことはないから流行るはずがない」「どうせ、素人がやっていることだ」と考えてしまうのかどうかだ。

理解することを早々とあきらめず、「とりあえず使ってみる」と言う姿勢と行動が必要だ。

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