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アパティアという無気力な状態

今日のおすすめの一冊は、塩野七生氏の『誰が国家を殺すのか 日本人へⅤ』(文春新書)です。その中から『それを一語であらわせば、「運」』という題でブログを書きました。

本書の中に「アパティアという無気力な状態」という興味深い一節がありました。

外国語で「アパティア」と言われると何やら深遠な精神状態でもあるかのように聴こえるが、所詮は「無気力な状態」にすぎない。 アパティアとは「パトス」(情熱とか気概)を失った精神状態であり、どうせ何をやったって変わりませんよ、という想いが支配的になった状態を指す。 

だが、こうなった場合に恐いのは、それでも一歩を踏み出そうとする者に対して、寄ってたかってアパティストたちがつぶそうとすることにある。ただし、無気力集団なのだから、正面きっての反対はしない。そのやり方も意気地なく、消極的なサボタージュでつぶす。

だからアパティア状態の改善は絶望的なのだが、二ヶ月ぶりにもどってきたイタリアは、日本に発つ前と少しも変わっていなかった。 政府には、今なお自分たちは政党ではなく運動だと主張する「五つ星」が坐わっている。 

それも二年にもわたって与党なのだから、有権者の怒りと不満を代弁する「運動」と自称するからには動いていなければならないのに、少しも動いていない。

この「五つ星」 の現状は昨今とくに顕著な先進国の住民運動の典型にもなりうると思うので、権力を手にしたにもかかわらず、なぜ機能できないかの理由は興味あるところだ。 

第一に、既成政党をぶっ壊す、を旗印にしてきたものだから、既成政党が以前に成した政策のすべてを拒否する想いに縛られていること。具体的な例だと、すでに着工していた インフラ工事でもまずはストップして、改めてその有効性を検証し直す、とか。古代のローマ帝国を思い出してしまった。

反既成政党を旗印にする「運動」が政権をにぎったとたんに機能しなくなる理由の第二は、人材がいないことにある。現状に不満な人には不足しないが、それを改善の方向に持っていくには欠かせない、実務面での能力に秀でた人材が極端に不足しているのだ。

既成政党をぶっ壊すとは、既成の官僚機構もぶっ壊すことになってしまうので予想された結果ではあるのだが、ぶっ壊すことしか頭にない人たちには、そこまでの深謀遠慮は無縁なのかもしれない。

おかげで、ストップしたインフラ工事の有効性の再検証はいっこうに進まず、その状態をハッパをかけることで打開し実施に持っていく政治家は一人も出てこない。なにしろ全員が「アパティア」なのだから。

政治に限らず、現状に反対し、それを壊そうという人は多くいる。しかし、壊したあとどうするかという対案を持っている人は少ない。特にSNS上では過激な言葉で政治家や既存の組織を罵(ののし)る人は多い。

匿名の不平不満を持った人の発言は過激になりがちだが、対案がなければただの悪質なクレーマーと同じだ。

無気力にならず、コツコツと実践を重ねる人でありたい。

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