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ヒトは未来食によってどう進化するのか

今日のおすすめの一冊は、石川伸一氏の『「食べること」の進化史』(光文社新書)です。その中から「未来の食」という題でブログを書きました。

本書の中に【ヒトは未来食によってどう進化するのか】という項があったので抜粋引用してみます。

脳に手を加えず、ヒトの脳を大きく変えることはできるのでしょうか。アフリカのナイル川に生育しているエレファントノーズフィッシュという魚の脳は、極端に大きいことで知られています。身体に対する脳の重量比率は3%ほどで、ヒトを上回るほどです。さらに、脳によるエネルギー消費量の割合は、身体全体の60%ほどにもなり、ヒトの約20%という数字を大きく超え、脊椎動物中で最大です。
エレファントノーズフィッシュは、発電する魚として知られており、微弱な電流を流してレーダーのように使用し、その電場を知覚するために脳が極端に大きくなったといわれています。ヒトでも、この魚と似たようなことが起こるかもしれません。スイス・チューリッヒ大学の神経科学者アルコ・ゴーシュ氏らが、2014年に発表した研究結果によると、スマートフォン利用者の脳では、頭頂葉にある「体性感覚皮質」に肥大・活性化がみられました。
つまりスマホを使うことで、ヒトは過去に類を見ないほど親指を活発に動かすようになり、さらにそれを日常的に継続することで、脳が鍛えられているというものです。これと同様の変化は、音楽家にもみられ、バイオリニストの脳では、指の動きをつかさどる部位が一般人よりも発達していることがわかっています。
効率化した“脳ごはん”には、液体の「完全食」のような食が求められるでしょう。液体食は、消化・代謝などに使われる「食事誘発性熱産生」が少なくてすみ、その分のエネルギーを脳の活動にまわすことができます。高度に効率化した食事や外的刺激などによって、私たちの脳を急速に発達させる環境は、現時点でもある程度整っています。
将来、食べ過ぎたエネルギーが身体に脂肪として溜まるのではなく、脳で効率的に消費するタイプのヒトが残り、その結果、記憶や知能が大幅に増大するかもしれません。未来において、脳へのエネルギー供給に優れたタイプのヒトが、より子孫が残せる環境であれば、その遺伝子が自然選抜されていくかもしれません。これまでの人類の進化の過程で、腸が小さく、脳が大きくなっていったように、より効率のよい食事の登場などによって、頭脳効率化人間が優勢になる可能性が全くないわけではないでしょう。
また、未来ではなく歴史をさかのぼってみると、チンパンジーやゴリラなどの類人猿と比べて、ヒトの食事時間は、異例なほど短いです。チンパンジーは、起きている時間の半分を、食べものを噛んで過ごします。野生のチンパンジーの典型的な食事は、イチジクやフドウ、ヤシの実といった森の果実です。それらは品種改良された果物のように甘くはなく、噛みやすくもありません。そのような果実から必要なエネルギーを摂取するため、チンパンジーはものすごい量を食べなければなりません。
また、ヒトは「直立二足歩行」をします。二足歩行は、四足歩行よりも速度がきわめて遅く、エネルギー消費の上で効率がいいとはいえません。ただ、それとひきかえに直立二足歩行は、「空いた手でものを持って歩く」ことを可能にしました。初期の人類にとって、わざわざ運ぶ価値のあるものは何でしょうか。それは「食べもの」です。
二足で歩き始めたことの有力な説として、今考えられているのが、「食物供給仮説」です。「オスが直立二足歩行で自由になった手で食べものを運び、特定のメスに供給した」と推測されています。オス同士がメスをめぐって犬歯を使って争うかわりに、メスに食べものを提供することで、子孫を残す確率を高めたと考えられています。

チンパンジーは、生きていくために、森の中で一日中、ずっと食べものを噛んで、食べている、ということは他になにもできない、恐ろしく生産性が悪いということです。人間だけが火を使い、効率的な食事をとることができたのですが、他の動物たちはそれができなかったため、まったく進化しなかったということです。

食の未来と歴史の話は本当に面白いです。

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