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ゲゼモパウム 第三話

 E

 ところで手紙。新兵訓練施設の部屋で過ごした最初の一ヶ月で私は調査団の手紙を何通も書いた。あくまで私用な手紙だ。毎晩のように新兵訓練施設でこき使われる深夜に手紙をしたためた。あるいは訓練施設で鬼軍曹に扱かれている時にその手紙は思わぬ効果を発揮した――裏にワザと奇妙奇天烈なメッセージを記した。誰の字か分からないように走り書きで『調査団の隠された真実。絶対に読むべからず』という内容の手紙を書くと、溜まりに溜まった鬱憤が晴れる気がした。

 ✖――正しこの手紙は仲間内の規律も含まれている。あくまで私用な内容だ。けれども、私は告白しなければならない――今で言う所の伍長が仲間内で二等兵、一等兵、上等兵、伍長、兵長と呼ぶことをはじめに言い出した。もちろん私は反対した。でも彼は疑り深い所があって、家で爆弾なんて作っていそうなひょろ長い大男だったから、しょうがなく言う通りにした。でも問題はそこではない。どうして、私たちがこの任務に就くことが決まったかどうかだ。
 ✖――実を言うと、この任務は誰からも必要とされない人間。存在してはいけない人間。死んでも構わない人間が参加することになっていた。だから、本当のところゲゼモパウムなんて存在しないのかもしれないし、存在している確証はどこにもない。もし仮に存在したとしても、ゲゼモパウムを見つけなければ私たちはただ犬死するだけだ。
 この任務に就く経緯にはいろいろあった。話すのが面倒なのだが、確かなのはこの世界には平等はないということだ。司令官は口では極秘プロジェクトと言っていた。しかし、本当は役立たずを葬り去る口実に過ぎない。

 M

 初めに私たち調査団がどのような編成となるのかを紹介しようと思う。兵長――つまり軍兵の最上級。謂わばここでのリーダーの名前は佐々木と言って北海道出身だ。私が新兵訓練施設に入隊してから4~5年前からいたらしい。彼は根っからの体育会系というわけではない。しかし頑固なところがあって、上官から目の敵にされて酷い扱いを受けていた。佐々木がここで一番権力を持つようになったのは彼が一番優秀だからだ。彼は物事を冷静に対処できる術を持っていたし、頭の切れも悪くはない。佐々木兵長は調査団のなかでは間違いなく一番優れていた。

 次に伍長について紹介する。伍長は兵長に次いで階級が上の謂わば副総理みたいなものだ――彼はいつも疑心暗鬼で「天空の城のラピュタ」に出てくるロボット兵みたいに細身で身長が高かった。名前は玉置と言って千葉県出身だ。「フリーク5」のなかでは一番用心深く、プライドが高くて、都内の有名大学に通っていたことを鼻にかけていた。彼は決して力が強くないし、手先も器用ではない。しかし、狙撃手としての腕は申し分ない。

 次は上等兵についてだ。彼は伍長に次いで階級が上なのだが、正直言って、彼の存在が私たちが「フリーク5」なんてふざけた呼び名になった要因だ。上等兵は埼玉県出身で名前は藤崎と言う。彼は軍隊に入団する前は引きこもりで、ネット依存症になっていた。ゲームが一番得意だ。eスポーツの大会に出ればいい成績を残すかもしれないほどだ。
 そんな彼だから両親は心配して、男らしくなるために軍隊に入団させた。もともと、手先が器用なこともあり、戦車に弾薬を入れるのがとてつもなく早かった。性格も温和だったから佐々木兵長に一番可愛がられていた。

 次は一等兵についてだ。彼は上等兵に次いで階級が上――つまり私の一個上の階級になる。実を言うと、一等兵は私と同期で一番親しくしている仲だ。一等兵の名前は黒木と言って、宮崎県出身だ。未だに宮崎弁が抜けない素朴な男だけど、ハンサムで面倒見も良かった。私服もおしゃれに着こなしていたし、とても宮崎から出てきたとは思えない。私と黒木は地元も近いこともあって仲が良かった。とはいえ、私が彼よりも階級が低いことにどうしても抵抗がある。

 最後に私についてだ。名前は城川と言って最下級の二等兵に追いやられている。私は福岡県出身で、こっちに出てくる前は他の九州の仲間たちのことをボロクソに言っていた。「井の中の蛙、大海を知らず」というやつだ。表では上官たちに無礼がないように敬語で話しているけど、裏では口が悪い。     それに私は九州の長でもあるにも関わらず、能力が低い。172cm70kgという体重は、あるいは能力が低いくせに、プライドだけは高い「デブピッツァ」と言うあだ名に相応しいのかもしれない。
 

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