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詩とおもう(ステイトメント)

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声明っぽいものを集めました。
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記事一覧

向こう(2022.07.14)

磨り硝子の向こう 重ねられた皿 伏せられた湯呑み 淡い輪郭の 誰かの手が触れて 口元に運ばれる 誰か、とわたしは言った 淡い、とわたしは言った 手を翳して眺める風景は 儚く うつくしく その手は動かなかった その口は言わなかった   重ねられた選択の 伏せられた選択の 淡い輪郭の 磨り硝子の向こうで 縁が欠けている 底が割れている 磨り硝子越しに 赤く脈打ち 赤く流れる 石を詰めた雪玉を 磨り硝子に投げつける

朝餐(2021.11.03)

朝食の皿を下げる その瞬間 静けさに満たされたわたしに 傾く夜が 紛れもなくあった ここに時は満ちているけれど 星灯りで地面を辿れば 残骸だけが 息づく国がある 始まりの息 終わりの声 細くつらなるひと続きの それは架空の国 皿の上で 音を立てるナイフ 切り開きかみ砕き すべてを飲み込んだわたしの 朝に訪れた静けさ もう二度とはないなら 永劫と呼べ 舌によみがえる夜を どうにか越えていくのだ

その先(2021.4.3)

空を見上げるのは 何かが欲しいとき そこがバスの低い天井でも 欲望は 伸びあがり突き破り 壮麗な尾をひいて 流れて巡っていく 人差し指で くるくると 地球儀を回すみたいに 無人の空き地で この指とまれ その先に 見上げるべき空などなくても 空を見上げるのは 孤独が満ちるとき 巡り巡って手にしたものは 「欲しい」のこだま 地球儀の小ささは わたくしの小ささ 海も空も 自身を分かつものを知らず そのこだまは 誰のものとも知れず 波をかえすように ふたたび巡っていく その先に 見

だく(2020.12.22)

抱きしめたい人がいる 抱きしめられたい人がいる あれこれ言われたところで どうにもひとりなのは間違いなくて だからどうしても 抱きしめたい 抱きしめられたい もう腕が言うことをきかなくなった そのときにも 抱きしめたい人のことを きっと考える わたしを抱きしめたかった人は もういない わたしはほんとうなら その瞬間 抱きしめられなければならなかった わたしはほんとうなら その瞬間 抱きしめ返さなければならなかった その罪を その腕の中で 許さなければならなかった 許されなけれ

針(2020.8.20)

ちくちくと 降り積もる 小さな針たち ふりだしに戻ることも出来ず 雪のように溶けることも出来ず ちくちくと 降り続ける 降らせているのはわたし 「もういいよ」なんて嘘だ 薄い土の上に うずたかく 絡まりあっては崩れ また降り積もる ちくちくちくちく ちくちくちくちく 針たちのやさしい声 小さな針たち 薄い土の上に うずたかく 止まなくていい ただ降り続けろ

ターン(2020.7.20)

考えないなら 石を投げてはいけない 考えたからといって 石を投げてはいけない 投げられる石の重さは 投げる者より 常に 投げられる者に重い 小石でも軽石でも わたしは偉くない 仮に偉くても それはなにも保証しない わたしは頑張らない 頑張ったとしても なにも免除されない 仕方がなかった そうかもしれない 理由があった そうかもしれない 仕方がなくても 理由があっても 石を投げると決めたのは そして石を投げたのは あなたでありわたしである 石を投げられた者に 残り続ける 痛

クォーク(2020.7.15)

つかみかかって ゆさぶって おしたおして うまのりになり ちからいっぱい だきしめる どこもかしこも あまさずに いたわるように もてあそび おもむくままに なでしだく がいこくのおまじないのように たよりないいいつたえのように たいせつにされていたきおくに なってしまった いきているわたしたちの いきをするからだはいま だれからも ひとしく とおざかって すみずみまでくまなく ひとりきり あなたのねつを かんじたひの わたしのはだの きおくのひは うすぐらいへやの

ラブソング(2020.5.27)

ラブソングではない歌を いつも口ずさみたい 眩しい怒りとか 発酵した憎しみとか うらみつらみの歴史を 天上の調べと紛うほどに 妙なる音符にのせて 澄ました顔でまき散らす ラブソングではない歌を いつも口ずさみたい 愛なんて生ゴミ 残りものだった希望 未来に至っては蜃気楼 握りつぶしたノートを 丁寧におしひろげ 塞げない耳に流し込む ラブソングではない歌は いつも口ごもっている ラブソングではないことに 引け目を感じている ラブソングではない歌の代わりに わたしは大声で歌お

嘘(2020.5.23)

星からの 声を聞いた 声ではなく ただの雨だったかもしれない 星は語った いや何も ずっと昔に氷河に沈んだ 牙だったかもしれない 星は泣いた そんなの嘘だ ぐらぐらと燃えているのに 星は落ちた 嘘をつくな 落ち続けた それも嘘だ どこにも辿りつけないで 星屑にすらなれずに 嘘ばかりだ 泣きながら 燃えながら 星は落ちた 落ち続けた

仮定法(2020.5.19)

描けるならば とうに描いているだろう 歌えるならば とうに歌っているだろう 誰にも見せられない 明け方の夢は くつくつと 熱を発しながら わたしを責める 開かれた空と 閉じられた海が せめぎ合う 爪先でなぞるそのかたち 夜が明けた わたしは綴り わたしは語る 描くための指と 歌うための喉で

月を見る(2020.4.5)

わたしは月を見る わたしの影から 目をそらすため わたしは月を見る 地上の光に 目を潰される前に 豪徳寺の ゴビ砂漠の アントワーヌの いつかの座標に その月はある コンパスの針と鉛筆 どれほど遠くても 光は追いつき 背中を焼く わたしは月を見る 燃える背中に 気づかぬように

辿る(2020.3.21)

きっと あなたを 辿っているのだろう 足跡とは限らない 道行とも限らない あなたが まだ座らない 椅子かも知れない あなたが どこかに置いてきた 眼差しかも知れない 昨日落としたボタンを 探すように きっと あなたを 辿っているのだろう

公園(2020.3.9)

鯨のなめらかな背中を 駆け回る子どもたち 月が消えるまで 誰も来ないから 鯨のなめらかな背中は 裸足でも痛くない サーチライトも 届かないから あの日もあの夜も 月も星も めぐっては消え 陸のうえでも 波の音が耳から離れないけど 鯨のようだった盛り土が 今日 公園になった まだ誰も足を踏み入れていない まだ誰も手を触れていない しんとした遊具 月が虹色の暈をひらいた 鯨は子どもたちをのせて 海をめぐる

予定地(2019.7.7)

ここは予定地です なんぴとも立ち入ってはなりません ここは予定地です 何が定められているかは知りませんが いまは何もあってはならないのです ここは予定地です かつて何があったかは知りませんが いまは何もあってはならないのです ここは予定地です 誰が予定したかは知りませんが ことが済むまでは 予定であり続ける それが予定というものです ここは予定地です ここは予定地です