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占い師ヒカル子の憂鬱
私鉄を乗り継ぎ山手線のS駅で降りると
人の流れに身を任せながら
一旦地上に出て深呼吸をする。
雨の日も曇りの日も、明るい日の光をイメージしながら
鼻から深く息を吸う。
気持ちが落ち着いたら、
S駅の底へ向かってエスカレーターを何回も乗り継ぎ
下へ下へと向かう。
かすかなカビ臭さと下水の匂いが漂っている通路に出る。
その通路の両脇には間口の狭い店が左右に10店舗ほど並んでいる。
持たざる者のサバイバル・タロット愚者の旅 第1話(改訂版)
ボロボロのマントを纏ったその男は
杖にしがみ付くようにして坂道を登った。
周囲が見渡せる場所に着く頃には
額は薄っすら汗ばみ、息切れがした。
男の視線の先には、小高い丘の上に小振りの城といえるほどの
石造りの館が建っていた。
もう何年、何十年経ったかも定かではない、
男は18であの館から旅立った。
記憶の中の館はもっと大きく立派だった。
館の周りは見渡す限りの農場と農園が今も広がっている。
男の
持たざる者のサバイバル・タロット愚者の旅第9話
大食堂の隣のホールでは、春祭りに招待された近隣の名士や
その夫人たちが華やかに着飾り、愛想笑いを交わし、
頭を寄せ扇で口元を隠しながら噂話を楽しんでいた。
そこへ大階段からこの屋敷の大奥様が
次男坊のテオと連れ立って降りてきた。
ホールに居た者は誰もが大奥様カロリーナの艶やかさに眼を奪われた。
男たちは心の底から「ウヲ~」と感嘆の声をあげ、
「大旦那様が羨ましい、いやいっそお辛いか?」と
下卑た
持たざる者のサバイバル・タロット愚者の旅第7話修正版
―*―*―*―*―*―
大奥様の部屋のドアが閉まり
ジャンは優雅にクルリと体を回転させ、大股で歩き始めた。
ガロは慌ててジャンの後を追った。
「本当の名前って?オイラのこと?
オイラに本当の名前があるのかい?」
「あるのかい?ではなく『あるのですか?ジャンさん』だ」
「あ?あ、あぁ。あるのですか?ジャン様」
「様は余計だ、馬鹿にしているのか?」
「いや、だって、丁寧な言葉を使うんだろ?だから・・
持たざる者のサバイバル・タロット愚者の旅第8話
執事のジャンは春祭りの準備に漏れはないか
屋敷の中を点検して回った。
「そうなるとグラスが少し足りないようですがどうしますか?」
「料理は大皿に盛り付け、小皿に取り分ければその問題は解決です」
「花瓶は去年と同じにならないよう今年はコチラを用意しましたがいかがですか?」
執事と共に歩き回りながら指示を仰ぎ、屋敷の召使たちにテキパキと指示を伝えているのは今年17になるガロだった。
5年前、ジャンは
持たざる者のサバイバル・タロット愚者の旅 第6話
占い婆が粗末な扉を叩くと
ドアが細めに開いた。
「ハンナ、私だよ」
「あぁ婆さん、こんな朝早くに誰かと思った」
「旦那は?」
「夕べから帰ってない」
「また賭場かい?相変わらずだねぇ」
ハンナは半笑いで占い婆を部屋に招き入れた。
「旦那が留守ならちょうど良い、
ちょいと頼みごとがあってね、
この赤ん坊をしばらく預かってくれるかい?」
赤ん坊と聞いてハンナは真顔になり
婆さんの懐に目をやった。
持たざる者のサバイバル・タロット愚者の旅5
占い婆はシーツを半分に引き裂き
手際よく赤ん坊を包むと、自分の懐に入れ
その上からマントを羽織った。
「サルル、いいかい?よくお聞き。
この赤ん坊のことは秘密にしな」
「でも婆さん、大奥様はエマがお産すると分かっていた風なんだよ」
「そりゃあそうだろうよ、アタシを連れて行けと言ったんだろ?
大奥様はお見通しだよ。だから・・・
だから赤ん坊は死んで生まれたとお伝えしな」
「えっ?だって・・・」
小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅4
サルルが階段を駆け下りようとしたとき
大奥様に呼び戻された。
「よくお聞き、これから牧草小屋まで
誰にも見つかってはいけないし
誰かを連れて行ってもいけない。
今夜はアノ占い婆が泊まっているだろうから
彼女を連れて行きなさい」
何故この屋敷の者ではなくアノ占い婆を連れていくのか
訝しく思ったが質問など許される雰囲気ではなかった。
占い婆は調理小屋の竈の前で居眠りをしていた。
「婆さん、婆さん起き
小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅3
≪ 12年前 ≫
奉公人や奴隷として買われてきた女たち男たちが
祭りの支度に忙しく立ち働いていた。
明日は一年の内でも一番大事で大掛かりな『春祭り』
大勢の賓客や近隣の農民たちを招いて
今年一年が豊作で安寧であることを祈る儀式の日だった。
「エマ!エマはどこ?大奥様がおよびだよ!エマ!!」
大奥様の小間使い兼女中頭のサルルが
険を含んだ声でエマの名前を連呼していた。
エマは去年の夏に奴隷商か
小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅1
ボロボロのマントを纏ったその男は
杖にしがみ付くようにして坂道を登った。
周囲が見渡せる場所に着く頃には
額は薄っすら汗ばみ、息切れがした。
男の視線の先には、小高い丘の上に小振りの城といえるほどの
石造りの館が建っていた。
もう何年、何十年経ったかも定かではない、
男は15であの館から旅立った。
記憶の中の館はもっと大きく立派だった。
館の周りは見渡す限りの農場と農園が今も広がっている。
男の
小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅2
第二話
「おいガロ、お前は今年で12だ」
執事のジャンに突然告げられても
ガロは運ばれてきたスープのことで頭がいっぱいで
何を言われているのか分からなかった。
温かで旨そうな香りのスープに
腹がグーグーなった。
さぁ食べるぞ、嬉しさに頬を緩めてスプーンを持とうとした手を
ジャンがいきなり掴み、ガロを椅子から立たせた。
(折角のご馳走を前になんて酷いことするんだよ)
ガロは珍しく抗って何としても