治療で髪が抜けた私のカオス#4
2023年11月、私は47歳で急性骨髄性白血病と診断されました。この文章は、治療の途中で起きた、髪が抜けた時の私のショックと気持ちの変化について綴っています。興味がありましたらお読みください!
47歳女性の私、白血病と診断された翌日から、抗がん剤治療が始まりました。治療を始める前に、これからどんな治療をするか、効果やリスクや副作用について、先生と薬剤師さんから丁寧に説明していただきました。その中で治療の副作用の1つ「脱毛」について「どうしても、髪の毛は抜けてしまうと思います。治療が終わればまた生えてくるので、心配しすぎないようにしてくださいね」と言われました。
説明を聞いた時は正直ショックというよりも「抗がん剤治療で髪が抜けるって聞いたことあるな……」という第一印象で、まだまだ自分ごとには捉えられず、看護師さんが持ってきてくれたウィッグカタログを「へぇー色々あるのね」と眺めていました。
治療がはじまって数週間経った頃、それは突然やってきました。枕に髪がいっぱい付くなー、朝櫛で髪をといたら洗面台にいっぱい落ちるなー、と思ったのもつかの間、シャンプーをした時に
「ごそっっっ」
初めて大量に抜けた髪の毛を見た時の光景は目に焼き付いていて、今でも忘れられません。
高熱が続いていて体調が悪かったため、自分でシャンプーするのが難しく、看護師さんに髪を洗ってもらっていたのですが、シャワーで髪を濡らしただけでどんどん抜け、シャンプーしたら抜け、シャンプーを流したら抜け、バスタオルで拭いたら抜け、櫛でといたら抜け、ドライヤーしたら抜ける……
抜けた髪の量を直視できなくて「早く終わってほしい」と思いながら目を背けてました。
「もし、髪が抜けるのが大変だったら、バリカンで先に剃っちゃうこともできますよ。もちろん剃らないで自然のままでも大丈夫」
そう言って看護師さんが優しく声をかけてくれたのですが、その時の私は何も答えることができませんでした。
気持ちが少し落ち着いてから、私は
「髪がいっぱい抜けて、掃除も大変なので、バリカンで剃った方が絶対にラクだと思う。ラクだと思うのに、じゃあ剃りましょうって決断できないのは、何でなんですかね?」
と看護師さんに話してみました。
「理性と感情は違うから」
看護師さんのその一言を聞いた時、あまりにも心に刺さってポロポロと涙がこぼれました。
治療の過程で髪が抜けることは、情報として事前に理解していました。治療が終わればまた生えてくることも理解しています。そして髪がどんどん抜けるのを掃除するのも大変だし、抜けていくのも見るのもショックだし、それなら髪を剃ってしまった方が良い。冷静に考えればそんなに落ち込むことでもないはずです。
なのに今の私は、自分の髪がどんどん抜けていくのを見たくないのに、髪を全て剃ってしまうのはイヤだ。ヤダヤダー!と涙を流している。
【頭で分かっている理性】
【今この瞬間の感情】
この2つが入り混じり、どっちが良い悪いでもなく、どっちが強い弱いでもなく、一気に押し寄せて迫ってくるのは、治療中初めてのことでした。
「そういうものだよ。だいじょうぶ、だいじょうぶ。絶対にこうしなきゃってことは無いから。選択肢があるってこと、自分で選べるってことが大事」
看護師さんがそう言ってかけてくれた言葉は、髪の毛のことだけでなく、私が白血病の治療を進めていく中で大切な価値観になっています。
髪を剃らない選択をした私は、自然にまかせ髪の毛のない状態になっていきました。不思議なもので、毎日自分の顔と髪を眺めていると、愛着の様な気持ちが湧いてきて、大好きだったおばあちゃんに似てきたなとか、意外と似合うかもとか、そんな風に受け入れる気持ちも少しずつでてきました。最初は帽子をかぶって、誰にも見せないようにしていた頭を、病院の皆さんはもちろん、家族にも見せられるようになりました。(余談ですが頭の形が割とキレイなことを知りました)
普段の私は冷静で、1つの事柄について色々情報収集して整理した上で、合理的な判断と選択をするタイプです。そんな私も戸惑い涙する位、抜け毛は理性と感情がカオスになって、押し寄せてくる。初めての経験でした。
そして、白血病の治療は私にとって理不尽の連続。そんな時はいつも理性と感情がぐちゃぐちゃになり、そして自分の理想の答えは無いことばかりです。でも選択肢があること、自分で選べること、選んでちょっとだけ前に進んでみる。そうやって1日1日過ごしていけば、必ず治療が進むし、病気もよくなると信じています。