曇り空には蒸しパンを
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蒸す、という工程が好きだ。
いや、工程というより、蒸されている様子を見るのが好きだ。
なんといっても、どこまでも立ち籠める湯気がたまらない。
現れては消え、消えては現れる湯気。
蒸し器の中にある食べものは、
実体があるようでないような、
もくもくと湧き立つ湯気の
あたたかいベールに包まれた
赤ちゃんみたいだ。
そんな湯気をずっと眺めていると、
「いいな、わたしも湯気に触れたいな」と、
ほんの興味心から、調子に乗って手を近づける。
そうすると、湯気が本性を出してきて、
「あちっ!」となる。
"湯気にはご注意ください"
といった類の説明書きは、おそらく、
こういう人のためにあるのだと思い知る瞬間だ。
けれど、そんなところも含めて湯気が好きなのだ。とりわけ、蒸すときの湯気は大好きだ。
だから最近は、湯気見たさに蒸しパン作りをすることだってある。
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味噌蒸しパンを作った日。
この日は雨が降ったり止んだりで、なんだかはっきりとしない、どんよりした天気。
さらに、うちは山間部にあり、そのうえ盆地なので、霧は昼過ぎまで晴れない。
こんなどんよりとしたときこそ、蒸したくなるのは人間の性だろうか。
本日は見事な蒸し日和だ。
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味噌は地元の加工場で作られた麦味噌
材料を混ぜているときから
麦味噌の香りがふわ〜っと広がる。
「ん〜!田舎くさい!良い香りだ」
(褒めている)
そして、完成した味噌蒸しパンは、
蒸されてもなお、田舎くさかった。
(褒めている)
けれど、それこそが麦味噌蒸しパンのよさなのだと思う。
田舎くさいこの香りは、おそらく麹の香りで、
麦味噌で育ってきた私は、この香りに
ほっこりとなるし、笑顔になる。
そして、
これは祖母も好きそうだな〜
と、祖母がこの蒸しパンを食べて美味しい美味しいと言っているところを
勝手に想像していると、ニヤニヤもしてしまうものだ。
だが、毎回米粉で作るので、もちもち蒸しパンが完成する。その度に
「本当はふわふわ系の蒸しパンが好きなんだけどな〜」
と言って食べている。
ふわふわだけれど少しもちっ。
くらいの米粉蒸しパンが作れる日はいつになるのだろうか。
そんなことを考えながら窓の外を見る。
まだ霧は晴れていない。
そういえば、はちみつレモン蒸しパンを作ったときもどんよりしていたなあ。
うん、本当に今日は、蒸し日和だ。
いや、蒸しパン日和だ。
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どんよりとした日こそ蒸そう。
空が晴れないのは雨雲や霧のせいじゃなくて
湯気のせいにしよう。
そうすれば自然と笑顔になれそうな気がする。
梅雨がやってきたら、毎日が蒸し日和。
ほら、なんだかわくわくするね。
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